【破綻の構図】マツオインターナショナル~膨らんだ債務と抜本再生への移行~
婦人服ブランド「ヴィヴィアン タム」「慈雨(じう)」「t.b2」などを展開し、ピーク時には国内外で約400店を構えていたマツオインターナショナル(株)(TSRコード:292635265、以下マツオ)が12月11日、大阪地裁に会社更生法の適用を申請した。
2019年8月期には売上高176億655万円にまで業容拡大した名門だが、コロナ禍で急激に経営が悪化。金融機関の支援を受け立て直しを目指したが、資金繰りが限界に達した。
事業拡大から急転直下の破たん劇の真相を東京商工リサーチ(TSR)が迫った。
マツオは1958年に設立された企業を源流とする。1985年12月にアパレル部門が独立する形で設立された。当初は卸売を中心としていたが、1998年に小売に本格参入。2001年にはイタリアミラノに直営店を開設するなど事業を拡大し、2003年には直営店が100店舗に達した。以降、出店を加速し、中国やフランス、イギリスなど海外店舗も増やしていった。
ミセス向けブランドとして知名度は高く、百貨店向けの卸売が好調に推移した。2016年にはアパレル大手の(株)TSIホールディングス(TSRコード:298655195、東証プライム)のグループ会社から「ヴィヴィアン タム」事業を譲り受けた。さらに、2019年に民事再生法の適用を申請した(株)ロン・都(TSRコード:410088056、長野市)から22店舗を引き受けるなど、事業を急拡大させた。
歪な財務内容と金融支援
2007年3月期に売上高は100億円を突破し、2012年8月期(決算期変更)に150億円を超え、2019年8月期にはピークとなる176億655万円をあげた。
しかし、事業拡大を借入金に頼っていたため、2019年8月期の有利子負債は57億1,518万円で、総資本に占める割合は58.3%と、業界標準の34.3%と比べるとかなり高い状態となった。それでも売上が拡大して利益も追いついてくれば対応できる可能性もあった。
こうしたなかコロナ禍が襲いかかった。2020年8月期は売上高144億9,167万円に対し、9億7,121万円の最終赤字を計上。2021年8月期も8億6,001万円の最終赤字に沈み、7億311万円の債務超過へ転落した。
2020年8月期の有利子負債は65億8,377万円、2021年8月期は70億2,450万円まで増え、有利子負債構成比率も2020年が73.4%、2021年には83.5%まで上昇した。
政府系金融機関の資本性ローンやコロナ融資、借入金の返済猶予などの支援を受けて資金繰りを維持したが、財務内容には深刻な傷跡が残った。
不採算店舗の閉鎖を進めながら自主再建を目指したが、その傷はあまりにも深かった。
2022年8月期以降の有利子負債は62億~65億円で推移。一方、有利子負債構成比率は2022年8月期が87.0%、2023年8月期89.0%、2024年8月期97.6%と非常にいびつな財務構成だ。
対する現金及び預金は、2021年8月期は21億9,673万円を計上していたが、2024年8月期には8億3,113万円まで減少。棚卸資産は、2021年8月期が29億5,780万円に対し、2024年8月期は26億1,991万円と圧縮ペースが鈍く、資金繰りの悪化につながったようだ。
こうしたなか、バンクミーティング開催や貸出シェアの高い金融機関が主導し、再建を念頭において外部機関が関与するスキームに移行したとの話が駆け巡った。関係先は、「これまでのリスケ型の金融支援から抜本再生へ舵を切った」と解釈し、その手法に注目が集まるようになった。2025年秋頃からは、マツオの債務カットは既定路線と一部では認識されていた。
これに前後して、突然のHPが閉鎖されたとの問い合わせがTSRに入った。結果的には当社社員のシステムの設定ミスによるもので、すぐに復旧したものの、その後も信用不安が絶えなかった。
管理型の会社更生による再建は、ここまでの道が平坦ではなかったことを物語る。
債務超過へ転落してから4年、コロナ禍が第5類に移行してから2年。事業再生は早期の着手が肝要だ。ある関係者は「なぜここまで」と空を仰いだ。
国内外に約300店舗を構える中堅アパレル業者がコロナ禍を経て大きな転換期を迎えた。ファッション業界は消費者の嗜好の変化が激しく、トレンドの変化に迅速に対応出来なければ業績に大きな影響を与える。
マツオによると、SMBCよりDIPファイナンスの融資枠の設定を受ける予定だ。また、(株)バルコス(TSRコード: 730073904、鳥取県、名証ネクスト)との間でスポンサー支援に関する基本合意を締結している。
67年の業歴を有する老舗の再建の行方に注目が集まっている。