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丸住製紙(株)~ 倒産した地元の“名門”製紙会社の微妙な立ち位置 ~

 2月28日に新聞用紙の国内4位の丸住製紙(株)(TSRコード: 810006448、四国中央市)と関連2社が東京地裁に民事再生法の適用を申請してから2週間が経過した。ただ、未だに余波が続いている。
 2月17日に取引先の一部に新聞などの用紙事業からの撤退を報告し、法的申請の2日前の26日に定時株主総会を開催したばかりだった。
 負債総額は約590億円、債権者数は1,000名以上に及ぶ。愛媛県では過去2番目の大型倒産で、地元の取引先や雇用への影響が懸念されている。
 大手紙商社の担当者は、「以前より信用不安の情報は聞こえてきていたが、丸紅(株)(TSRコード:570197708)から出資も受けており、まさか民事再生法の適用を申請するとは思わなかった」と驚く。
 民事再生の裏側と取引先の動向など東京商工リサーチ(TSR)が取材した。



 丸住製紙は1919年7月、愛媛県金生町(現:四国中央市)で手漉きの和紙業者として創業。1946年2月に法人化し、1954年3月に吸収した製紙会社を川之江工場とした。1955年11月に本社を金生工場から川之江工場に移転し、1979年12月には大江工場が完成した。 
 工場増設に伴い業績を伸ばし、ピークの2008年11月期の売上高は約743億3,500万円をあげた。
 2019年4月、ペーパータオルやウエットティッシュなどの衛生用紙事業にも領域を広げたほか、2006年6月にはバイオマス発電、2014年3月には太陽光発電所を完成させてエネルギー事業にも進出した。

業績悪化から自主的な「私的整理」へ

 ところが、ペーパーレスの広がりと新聞や雑誌の発行部数減で紙の需要が落ち込み、発電事業もコスト高、石炭高騰で環境が急激に悪化した。
 民事再生申立書には、「石炭価格の高騰等の諸要因により、2022年11月期で約120億円の純損失を計上し、事業の再生を図るべく、2023年4月下旬より、借入先金融機関等16社に対し、借入れの元本返済猶予等を依頼し、もって私的整理を開始した」と記載されている。だが、規模的に中小企業の私的整理に該当しないため、「借入先金融機関等と協議の上、中小企業者ではないものの、中小企業の事業再生等に関するガイドライン第三部の中小企業版私的整理手続き(再生型)に順じ又は参考にした、いわゆる準則型の私的整理手続きを行うこととした」(申立書)という。
 だが、この「準則型私的整理に即した私的整理」は、結果的に抜本再生に繋がらなかったことになる。

丸住製紙 業績推移

プレDIPファイナンスで再起をかける

 申立書では、私的整理手続きに関する借入額上位の金融機関から追加借入で3種類のプレDIPファイナンスを受けたことを明らかにしている。
 内容は、借入金の上位6行から運転資金の支援で2023年5月に約50億円、同年12月に追加で約43億円を調達した。
 これとは別に、上位6行を含む9行のシンジケート団を組成し、新規事業の衛生用紙事業の新工場への設備資金として、2023年5月から12月までに47億円を調達した。
 そして、上位2行からは運転資金の支援で、2023年12月以降に上限15億円の当座貸越枠の設定を受けた。当座貸越枠を含め、約155億円の資金支援になる。


丸住製紙の本社(TSR撮影)
丸住製紙の本社(TSR撮影)

事業再生計画は成立するも

 2023年12月、すべての取引行の同意を受けて事業再生計画が成立した。そして、パルプシートを製造するパルプ抄取りマシン導入やペーパータオルなどの強化で再建を目指すことになった。
 この頃から丸住製紙は情報開示に消極的になる。2023年11月期以降は官報への決算公告も止めている。
 TSRが独自に入手した決算書では、2023年11月期は162億円2,100万円の最終赤字、2024年11月期も45億9,400万円の最終赤字で、3期連続の赤字だった。
 また、決算書に添付されている2024年11月期の決算に関する公認会計士の監査報告書には、2025年1月22日付で下記の内容が記載されている(以下要旨)。

 私は、丸住製紙の2023年12月1日から2024年11月30日までの計算書類、すなわち貸借対照表・損益計算書等(以下計算書類等)について監査を行った。私は計算書類等に及ぼす可能性のある影響の重要性に鑑み、意見表明の基礎となる十分かつ適正な監査書類を入手することが出来なかったため、監査意見を表明しない。
 丸住製紙は3期連続で営業損失を計上し減損の兆候があるにもかかわらず、将来キャッシュフローの見積もりができないことを理由に減損損失の計上をしていないが、もしも減損損失を計上すれば2024年11月30日現在において会社は債務超過に陥っている可能性は大であり、また、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる。

現実味を帯びる「信用不安」情報

 2024年12月初め、TSRは、複数から丸住製紙が資金繰り悪化から法的倒産を視野に入れているとの情報をキャッチした。これを裏付けるようにこの頃、取引先に四国中央市税務課から債権債務の調査照会が届いた。丸住製紙の長期間の税金滞納の疑いが現実味を帯びることになる。
 2025年2月、丸住製紙について、「第二会社方式」や「3月末まで資金繰りは何とか可能」など、様々な情報が飛び交った。そうしたなか、2月17日に新聞用紙からの撤退を取引先の一部に伝えた。会社側はTSRの取材に一切回答しないまま、2月26日に定時株主総会を開催。会社提案通りに役員改選が終わった。
 取引先は「何も起こらず安心した」と話したが、その2日後に民事再生法を申請した。
 民事再生法申請後の債権者説明会で、税金などの問題について「ミスがあり、少し遅れたことがあったが、すぐ支払っている」と丸住製紙は答えている。

倒産後の地元の声は

 ある金融機関は、「代表一族は地元で影響力があった。プライドが高く、商社や関係者の助言を聞き入れなかったようだ。事業再生でコンサルを連れてきた時も丁寧な態度ではなかった」と話す。そして、「メインバンクがどこか答えにくい」と、金融機関との信頼が崩れていた様子も浮かび上がる。
 地元の製紙業界では、「丸住製紙の経営陣は銀行や商社に相談や報告もせず勝手にやることが多かった」と語る。
 ある取引先は、「3年前から赤字続きで気になっていたが、取引額が大きく引くに引けなかった」と嘆いた。だが、別の取引先は「『川之江の雄』で、丸住が潰れたら川之江の街自体が潰れる」、「(地元企業は)丸住製紙から仕事を頂くという感覚で、あまり強く出れなかった」など、地元の“名門”企業の立ち位置と過信への後悔を語った。
 愛媛銀行や伊予銀行などは、丸住製紙の民事再生に伴う相談窓口を開設し、取引先や従業員の資金繰り相談を受け付けることをリリースした。
 また、四国中央市は3月10日、「特設ページ」を開設し、雇用保険の失業等給付受給手続きなどを案内している。
 丸住製紙に従業員の希望退職を実施しているのか、これからするのかという問いに対し、丸住製紙は「答えられない」とし、四国中央市の担当者は、「丸住製紙の自主退職者が増えているので、特設ページを案内している」と答えた。



 3月3日に開催された債権者説明会で、バイオ燃料を扱うPetron Scientech Inc.(ペトロン社、米国)がパルプ事業と売電事業の資産に興味を示していることを明らかにした。
 TSRと提携するDun&Bradstreet(D&B)によると、ペトロン社の2022年12月期の年間売上高は、丸住製紙のそれに到底及ばない。新聞用紙からの撤退を加味しても、年商規模は丸住製紙の方が大きいとみられる。
 債権者説明会では、スポンサーのデューデリジェンスの目途は3カ月で、その間の資金繰りは維持できると答えた。当座貸越枠の利用も踏まえた発言とみられるが、厳しい資金繰りが続くとも言えそうだ。
 債権者説明会の終了後、多くの参加者が「用紙事業を撤退し、競合が多い衛生紙やパルプ、売電で立て直せると思えない。本当に再生できるのか」と先行きの不安を口にした。
 スポンサー決定まで資金繰りが持つのか、継続取引を決めかねる取引先は重い決断を迫られている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年3月17日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)

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