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資金面の援助や税制優遇、債務の減免を求める声多く

 ~ 「事業撤退・廃業に関するアンケート」調査 ~


  3月29日、岸田首相は「新しい資本主義実現会議」のなかで、「企業経営者が、経営不振の事業から退出を決断した場合の退出支援」の必要性について言及した。今後、関係各所で具体的な支援策の検討が加速するとみられる。
  こうしたなか、東京商工リサーチ(TSR)は4月10日~11日にかけて、事業撤退・廃業についてアンケート調査を実施した。この結果、不採算事業からの撤退や廃業に必要な支援として、資金面の援助だけでなく、既往債務の減免を求める声が多いことがわかった。


 TSRの調査によると、2022年(1-12月)の「休廃業・解散」は4万9,625社(前年比11.8%増)で2年ぶりに増加した。2000年に調査を開始して以降、2020年の4万9,698社にほぼ並ぶ、過去2番目の高水準だった。コロナ禍を経て、事業価値が毀損している企業は少なくない。また、コロナ禍では実質無担保・無利子融資(ゼロ・ゼロ融資)をはじめとした資金繰り支援策で倒産が抑制された。だが、その一方で、企業の新陳代謝が阻害され、産業のダイナミズムが失われ日本の成長力を奪っているとの見方も根強い。退出支援は経営者の生活維持までの言及も必要と思われるが、こうした指摘へのひとつの解決策にもなり得る可能性がある。日本は企業を守ることで、雇用の安定を確保してきた歴史もあり、退出支援と同時に産業や雇用を創出する政策も重要になる。

※本調査は、2023年4月10日~11日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答537社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。



Q.不採算事業からの撤退、または事業を畳む際(廃業=全事業の終了)に必要と思う支援策は次のうちのどれですか?(複数回答)

「費用の助成」が56.2%
 最も多かった回答は「費用の助成(返済義務なし)」の56.2%(537社中、302社)だった。「費用に関する資金調達の優遇(返済義務あり)」は14.3%(77社)で、資金面の援助を求める回答が目立った。
 また、「債務の減免」は34.6%(186社)、「個人保証の解除」は30.9%(166社)で、既往債務も経営者が撤退・廃業を決断することを妨げる要因となっている。
 「費用の損金算入枠の拡大」は37.0%(199社)で、税負担の低減を求める意見も約4割にのぼった。ただ、規模別でみると、大企業は61.2%(49社中、30社)だったのに対して、中小企業は34.6%(488社中、169社)にとどまった。
 企業規模による収益力の差(=圧縮可能な税負担の差)が影響している可能性がある。また、企業規模が小さいほど、単一事業のみを営む傾向が強いことも影響したとみられる。
 「その他」は、「従業員の信頼できる新規働き口の紹介」(鉄鋼業、資本金1億円未満)など。

「費用の助成」が56.2%

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