事業投融資のエクシア、投資家とトラブル多発
個人投資家などから合同会社の社員権の出資を受け、累計出資者数1万1,974名、累計出資金額723億円(11月4日時点)と喧伝している投融資業のエクシア合同会社(TSR企業コード:014686724、東京都港区、代表社員:菊地翔氏)。そのエクシアの約3億円の残高がある銀行口座が仮差押で凍結されている。出資金返還を巡る訴訟が相次いでいるためだ。混迷するエクシアを東京商工リサーチ(TSR)が追った。
出資した投資家は、出資額や現在評価額をエクシアのマイページで確認できる。数百万円の出資が数千万円の評価額になっている投資家もいるという。
だが、2022年3月ごろから「退社」を拒絶されたり、代表社員の裁量で払戻金額の総額を設けることができる規定から、出資金などの払い戻しに応じないケースが相次ぎ、投資家とトラブルになっている。
TSRは幾度となくエクシアに取材を求め、11月10日、「担当者から折り返す」との回答を得た。だが、その後も連絡はなく、改めて11月15日に取材を要請したが、11月21日までに連絡はない。
多額の評価額(益)が出ているとするエクシアだが、払戻を制限しているのはなぜか。
エクシアが過去にホームページ(HP)などで公表した資料によると、代表の菊地氏は、北海道出身でファッションの専門学校を卒業後、独学で金融トレーダーの知識や経験を積んだという。
2009年には、わずか15営業日で「利益率2,520%という驚異的なトラックレコードを記録」(HPより)し、国内プライベートファンドの為替トレーダーや海外ヘッジファンドのアドバイザリー、海外証券会社の為替トレーダーに就任したとの輝かしい記述もある。
2013年に資本金100万ポンド(現在のレートで約1億6,500万円)で英国法人を設立した。TSRが業務提携するDun & Bradstreet(D&B)や公開資料によると、この会社はEXUSIA LIMITEDとみられる。だが、菊地氏の100%出資で設立されたこの会社は設立翌年の2014年8月に休眠状態となり、2015年3月にEXIA LIMITEDに社名を変更。そして2018年7月に廃業している。この間、2015年4月に資本金100万円で「エクシア」が日本で設立された。
「現行法を遵守した投資」
エクシアの設立時の社名は、エクシアジャパン合同会社だった。千代田区丸の内の高層ビル内に本社を構え、当時のホームページには顧問として弁護士や税務、人事、インターネットコンサルタントの名前が並ぶ。
投資家はエクシアと、合同会社の社員権の取得契約を結び、出資金を払い込む。エクシアから分配金や出資金の払い戻しを受け取るシステムだ。
預かった出資金は、エクシアがシンガポールのEXIA Private Limitedに貸し付け、エクシアは利息を得る。EXIA Private Limitedは、金融デリバティブ取引や外国為替証拠金取引などCFD(差金決済)取引で運用するスキームだとエクシアは投資家に説明していた。
エクシアは金融商品取引法で規制されている合同会社社員権の販売(有価証券の販売)、勧誘や勧誘の外部委託に関し、「当社従業員による自己募集は私募」としている。これは会社法が適用され、金融商品取引法の所定の登録や届出義務を負わず、現行法を「遵守」した最先端の投資ストラクチャーとしている。
1万円に満たない現預金
エクシアが公開した2017年のANNUAL REPORT(年次報告書)によると、2015年の出資金額は1億5,630万円で、運用利益は7,502万円。2016年の出資金額は6億7,444万円、運用利益は7億4,766万円。2017年の出資金額は10億6,513万円、運用利益は17億7,454万円と、年々膨らんでいった。
額面通りなら運用利回りは6~7.8%で、多額の利益をあげていたことになる。
その後も出資金は増え続け、2018年12月の総出資合計額は40億円、2019年8月には70億円を超えたとプレスリリースし、屋外広告などでも知名度を上げた。
エクシアがそれだけの「運用利益」をあげたのは、説明通りであればEXIA Private LimitedのCFD取引などの運用が好調だったことになる。
D&Bなどによると、EXIA Private Limitedは2017年1月に設立され、資本金は1シンガポールドル(SGD、現在のレートで約102円)。2017年12月期と2018年12月期は2期連続の赤字を計上している。さらに、2018年の現預金(Cash & Bank)は1万円にも満たない。
こうしたことからエクシアの多額の「運用利益」をEXIA Private Limitedが稼いだとは考えにくい。D&Bなどによると、現在は「電話番号は使用されていない」という。
事業を分散化
だが、エクシアの出資総額はさらに増え続ける。2019年9月、エクシア合同会社に社名を変更し、2年後の2021年8月には本社を丸の内から六本木に移転した。
エクシアの純資産は、2017年12月期は9億8,304万円だった。それが、2018年同期は28億1,083万円、2019年同期88億8,849万円と急拡大している。
また、2020年6月には東京都知事の貸金業者登録を取得している。そして、同年10月、(株)オウケイウェイヴ(TSR企業コード:296105848、渋谷区、名証ネクスト)から暗号資産交換業の(株)LastRoots(現:エクシア・デジタル・アセット(株)、TSR企業コード: 018187609、東京都港区)の株式(議決権所有割合91.46%)を2億2,600万円で譲り受けた。
エクシアはこの時期、EXIA Private Limitedへの貸し付けスキームから、エクシア・デジタル・アセットやグループのエクシア・アセット・マネジメント(株)(TSR企業コード:297287036、同所)など国内外の事業者への出資と不動産事業や国内外の事業への融資にシフトしたようだ。
開示資料によるとエクシア・デジタル・アセットは、2019年4月期の売上高は4億4,700万円だったが、2021年4月期は3,055万円、2022年4月期は暗号資産売買等損益がマイナスで、売上高もマイナス1億19万円と、期を追うごとに業績が悪化。利益も4期連続の最終赤字で、4期の累計赤字は20億円を超えている。
増資などで債務超過は逃れているが、厳しい経営が続いているようだ。
また、エクシア・アセット・マネジメントは、日本投資顧問業協会で開示している2021年12月期の売上高は3億円だったが、最終利益は1億5,936万円の赤字。純資産合計はマイナス1億1,203万円の債務超過で、同期の投資顧問契約や投資一任契約は代理、媒介ともにゼロ件だった。
グループ向けの出資だけでは、エクシアが公表する「運用利益」をあげることは難しい。
エクシアは2022年夏以降、資本・業務提携を相次いで発表した。だが、いずれも設立間もなかったり、事業規模の小さい企業が多く、多額の「運用利益」をあげるには時間がかかりそうだ。
こうしたことから、エクシアが出資者から集めた数百億円をどのように運用し、利益をあげてきたのか、資料だけでは判然としない。
裁判官の罷免訴追へ
エクシアは今年9月、第三者委員会「信頼醸成委員会」を設置した。経営に対するガバナンス機能を果たし、経営の透明性と健全性の確保を目指すためだ。また、コンプライアンス委員会も設置した。
そうしたなか、10月28日に「文春オンライン」でエクシアについて『500億円超の巨額詐欺?』という見出しの記事が配信された。記事によると、東京地裁の裁判官が証拠保全に対応するよう求めたが、エクシアが拒否したという。
これを受け、エクシアはHP上でコメントを掲載。「証拠保全決定書記載の文書は、当社事業上の秘密情報(法律上は「技術又は職業の秘密に関する事項」)であり、開示すると、当社事業に経済上重大な打撃を与え、事業遂行が不可能又は著しく不可能になるために、開示を拒否した」という。
記事によると、証拠保全は「菊地代表の役員報酬明細書や銀行預金口座、証券取引口座取引履歴」などとされる。
11月11日、エクシアは「裁判官による違法な証拠保全手続の強行について」を公表した。そこでは「証拠保全手続には法律上何らの強制力はなく、裁判官の無断侵入行為は憲法35条1項に反する重大な人権侵害」とし、裁判官としての資質に欠けるとして忌避を申し立てている。さらに、国会が設置する裁判官訴追委員会に対し、本件裁判官の罷免の訴追請求を行う予定という。
被害弁護団が結成
異例の裁判官との対決姿勢を強めるエクシア。だが、投資家の「退社」や出資金の返還を求める訴訟が相次いでいる。
エクシアが被告のある訴訟で、原告側は「投資と呼べる事業を行っているとは到底考えられず、また返還に応じる態度は見受けられない」と訴える。
今年夏、「エクシア被害対策弁護団」が結成された。弁護団によると、9月の第1次提訴は原告32名、10月の第2次提訴は原告22名で、さらに広がる見込みという。
弁護団は投資家が購入した社員権の「退社」の拒絶と、エクシアの代表社員としての「裁量」で払戻金額の総額の制限を設けている点を問題視している。
弁護団の事務局長、小幡歩弁護士(リンク総合法律事務所)は、「エクシアは、(決算書など)計算書類なども公表しないため、事業実態がわからなない。信用不安もあり、退社はやむを得ない事情だ。総量の制限の妥当性を判断する上でも運用実績などの開示が必要」とし、エクシア側に開示を求めている。
弁護団の訴訟では、裁判官が「計算書類などを開示し、説明すべき」とエクシアに強く指摘したという。
関係者によると、エクシアの契約書(2021年3月改定版)には、計算書類の開示は1月1日~12月20日までできないと規定されている。そのため、決算書を開示できるのは、12月21日~12月31日までとなる。ただ、2021年のエクシアの年末年始休業は12月25日から1月10日となっており、これに則ると決算書を開示できるタイミングは12月21日~同24日までのわずか4日間に過ぎない。
また、10月3日に証拠保全を申し立て、現在、複数件の損害賠償請求訴訟を出資者の代理人としてエクシアを提起している唐澤貴洋弁護士(法律事務所Steadiness)は、TSRの取材に対し、「開示を求めている計算書類等は、エクシアが言うような「技術又は職業の秘密に関する事項」には一切あたらず、それを開示することはむしろ身の潔白を証明することになる。10月3日の証拠保全では(エクシアを訪問した)裁判官を含めて、(同行者を)無断で盗撮をするなど、前代未聞の対応をしていた。我々が提起しているのはエクシアが勧誘時に話していたCFD取引で利益を上げていなかったであろうということを核として不法行為責任を問うものであり、訴訟を通じて詐欺の実態を明らかにしていきたい」と語る。
さらに取材を進めると、エクシアがメガバンクに開設した銀行口座が夏頃に仮差押を受け、その後も複数の仮差押がなされ、凍結しているという。口座の残高は約3億円とみられる。また、代表社員が保有する不動産には10月に2件の仮差押が登記されている。
10月3日に施行された内閣府令の一部改正で、合同会社の社員権の募集は業務執行社員以外が行う場合、金融商品取引業の登録が必要となった。これまでのエクシアのスキームは維持が難しいだろう。
裁判官忌避や口座凍結などの問題が広がるなか、エクシアは投資家への丁寧な説明が求められている。SNSなどでは、ポンジ・スキームを疑う声も多くみられる。多額の出資金をどのように運用し、利益を生んでいるのか。真相はいずれ裁判で明らかになる。
あわせて読みたい記事
この記事に関するサービス
人気記事ランキング
「税金滞納(社会保険料含む)」倒産が過去10年で最多 前年同期から2.0倍の165件
税金や社会保険料の滞納が一因の企業倒産が急増している。11月は10件(前年同月比9.0%減)発生し、2024年1-11月の累計165件(前年同期比103.7%増)に達した。すでに年間最多だった2018年の105件を7月に抜き、更新を続けている。
2
接待と二次会離れ? 「バー,キャバレー」の倒産1.6倍増 2024年1-11月「飲食業」倒産 すでに年間最多の908件
2024年1-11月の飲食業の倒産(負債1,000万円以上)は、908件(前年同期比11.0%増)に達した。これまで年間最多の2023年(1‐12月)の893件を15件上回り、11月までで年間最多を更新した。
3
登記上の本社同一地の最多は4,535社 代表ひとりが兼任する企業の最多は628社
全国で同じ住所に法人登記された社数の最多は、「東京都港区南青山2-2-15」の4,535社だった。 また、1,000社以上が登記しているのは14カ所で、上位10位までを東京都の港区、渋谷区、中央区、千代田区の住所が占めた。
4
「職別工事業」の倒産が増勢を強める 1‐11月累計677件、年間は11年ぶり700件超に
とび・土工・コンクリート工事業などの「職別工事業」の倒産が11月は66件(前年同月比29.4%増)発生、2024年1-11月累計は677件(前年同期比18.7%増)に達した。すでに前年1年間の634件を上回り、2013年(742件)以来、11年ぶりに700件超えが濃厚となった。
5
「美容室」の倒産 107件で過去最多を更新 新規開店に加え、物価高・人手不足が経営を直撃
コロナ禍で痛手を受けた美容室の倒産が、最悪ペースで増加中だ。2024年1-11月の美容室の倒産は、107件(前年同期比37.1%増)に達し、すでに2000年以降で年間最多の2019年(105件)を超えた。