• TSRデータインサイト

『後継者難』倒産25件、4年ぶりに前年同月を上回る ~ 2022年7月『後継者難』倒産の状況調査 ~

  2022年7月の後継者不在による『後継者難』倒産(負債1,000万円以上)は25件(前年同月比31.5%増)で、7月としては4年ぶりに前年同月を上回った。倒産(494件)に占める構成比は5.0%で、7月としては2018年(4.5%)を上回り、過去最高を更新した。代表者の高齢化と同時に、深刻さを増す後継者不在が経営上のリスクとして顕在化していることを示している。

 要因別は、代表者の「死亡」が18件(構成比72.0%)で最多。次いで、「体調不良」が5件(同20.0%)で、この2要因だけで『後継者難』倒産の9割超(同92.0%)を占めた。
 産業別では、最多が飲食業(4件)を含むサービス業他の8件(前年同月比100.0%増)。以下、卸売業4件(同100.0%増)、製造業(同40.0%減)と小売業(同±0.0%)が各3件の順。
 資本金別は、1千万円未満が15件(同25.0%増、構成比60.0%)と6割を占めた。5千万円以上も2件で2年ぶりに発生した。1千万円以上5千万円未満は8件(同14.2%増)で、4年ぶりに前年同月を上回り、事業規模に関係なく後継者問題が深刻になっている。
 2021年の経営者の平均年齢は62.77歳(前年62.49歳)で、経営者の高齢化は年々進んでいる。だが、多くの中小企業はコロナ禍で業績回復が遅れ、後継者の育成や事業承継の準備まで手が回っていないのが実情だ。円安や資源高、人手不足など外的要因で揺れ動くなか、もともと経営体力がぜい弱な中小企業の後継者不在への対応が急務になっている。

  • 本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2022年7月の『後継者難』倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

件数25件、倒産に占める構成比は5.0%は7月では最高

 2022年7月の『後継者難』倒産は25件(前年同月比31.5%増)で、7月度としては4年ぶりに前年同月を上回った。倒産全体の5.0%(前年同月3.9%)を占め、7月としては2018年の4.5%を上回り、最高を更新した。
 コロナ関連の資金繰り支援効果が薄れ、企業倒産は4月から4カ月連続で前年同月を上回るなど、底打ちの兆しが強まっている。そうしたなか、代表者の高齢化や後継者不在に起因する『後継者難』倒産の構成比は上昇を続け、多くの企業への後継者問題の広がりを示している。
 また、金融機関だけでなく取引企業でも、代表者の年齢や後継者(候補)の有無が与信判断の一つになっている。
 ただ、後継者不在や事業承継は、資金力の乏しい中小・零細企業が自ら対処することは難しい問題でもある。コロナ禍の出口戦略として、政府や金融機関が幅広い外部機関と一体になった対応が求められる。

後継者難推移

【要因別】「死亡」と「体調不良」で9割超

 要因別は、最多が代表者などの「死亡」の18件(前年同月比38.4%増)で、7月としては2年連続で前年同月を上回った。『後継者難』倒産に占める構成比は72.0%で、前年同月の68.4%より3.6ポイント上昇した。また、「体調不良」は5件(前年同月比25.0%増、構成比20.0%)で、2年ぶりに前年同月を上回った。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計23件(前年同月比35.2%増、前年同月17件)で、4年ぶりに前年同月を上回った。『後継者難』倒産に占める構成比は92.0%で、前年同月の89.4%より2.6ポイント上昇した。
 このほか、「高齢」が前年同月と同件数の2件だった。
 代表者の高齢化とともに、代表者などの「死亡」や「体調不良」が事業上の大きなリスクとして顕在化している。

後継者難 要因別

【産業別】10産業のうち、5産業が増加

 産業別は、10産業のうち、卸売業、金融・保険業、不動産業、情報通信業、サービス業他の5産業で前年同月を上回った。
 最多は、サービス業他の8件(前年同月比100.0%増)で、2年ぶりに前年同月を上回った。
 このほか、不動産業が2件(同100.0%増)で2年連続、卸売業が4件(同100.0%増)で2年ぶり、情報通信業が2件(前年同月ゼロ)で4年ぶり、金融・保険業が1件(同ゼロ)で5年ぶりに、それぞれ前年同月を上回った。
 一方、建設業が2件(前年同月比33.3%減)、製造業が3件(同40.0%減)で2年ぶり、運輸業がゼロ(前年同月1件)で3年ぶりに、それぞれ前年同月を下回った。
 農・林・漁・鉱業は2年連続で発生がなく、小売業は前年同月と同件数の3件だった。

 業種別では、一般管工事業、工業用ゴム製品製造業、有線テレビジョン放送業、アプリケーション・サービス・コンテンツ・プロバイダ、食肉卸売業、ジュエリー製品卸売業、中古自動車小売業、調剤薬局、スポーツ用品小売業、投資運用業、貸事務所業、土地賃貸業、広告業、ラーメン店などが各1件で、前年同月を上回った。

後継者難 産業別

【形態別】消滅型の倒産が100.0%

 形態別は、最多が「破産」の23件(前年同月比27.7%増、構成比92.0%)だった。また、特別清算が2件(前年同月ゼロ)で、すべてが消滅型の倒産だった。
 再建型の「会社更生法」は2013年より、「民事再生法」は5年連続で、それぞれ発生なし。
 業績回復が遅れるなかで、後継者の育成や事業承継の準備は後回しとなっている。代表者に不測の事態が生じた場合、事業継続を断念し、「破産」を選択するケースがほとんど。

後継者難 形態別

【資本金別】1千万円未満が6割

 資本金別は、「1千万円未満」が15件(前年同月比25.0%増、構成比60.0%)だった。
 このほか、「1千万円以上5千万円未満」が8件(前年同月比14.2%増)で4年ぶり、「5千万円以上1億円未満」が2件(前年同月ゼロ)で2年ぶりに、それぞれ前年同月を上回った。
 後継者問題は、小・零細規模だけでなく、中堅規模にも広がっている。

後継者難 資本金別

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ