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電通グループ、エイチ・アイ・エスなどが本社を売却   2021年度上半期「東証1部・2部上場企業 不動産売却」調査

 長引くコロナ禍で上場企業の不動産売却・譲渡が目立ってきた。2021年度上半期(4月-9月)に適時開示で国内不動産の売却を公表した東証1部、2部の上場企業は36社(前年同期27社)で、前年同期を33.3%上回った。不動産売却は下半期に増える傾向があり、2021年度は2008年度以来、13年ぶりに80社を超える可能性が出てきた。
 2021年度上半期に不動産を売却した36社のうち、直近の本決算で最終赤字の計上は15社(構成比41.6%)と4割を超えた。コロナ禍で企業の設備投資の手控えが影響したメーカー、密回避や移動制限などで業績が悪化したサービス業などが中心。
 エイチ・アイ・エスは、旅行取扱いの大幅な減少で2020年10月期は250億3,700万円の赤字を計上。手元資金を厚くするため本社事務所の信託受益権をセール・アンド・リースバックで譲渡した。譲渡後も同事務所は賃借契約により使用している。運転資金を確保し、財務基盤の安定を図ることを目的とした不動産の売却が目立った。
 このほか、主な売却では9月に電通グループがオフィス兼商業・文化施設の「電通本社ビル」を売却し、譲渡益890億円を計上した。8月には、オンワードホールディングスが店舗、事務所の土地(信託受益権)を売却した。集計対象外だが連結子会社のオンワード樫山も、事務所の土地(信託受益権)を売却しており、グループで資産効率化を進めている。
 コロナ禍の波は、これまで安定経営を続けてきた企業にも押し寄せている。早急な財務改善を狙う企業を中心に、上場企業の不動産売却が加速する可能性が高まっている。

  • 本調査は、東京証券取引所1部、2部上場企業(不動産投資法人を除く)を対象に、2021年度上半期(21年4月~21年9月)に国内不動産(固定資産)の売却契約、または引渡しを実施した企業を集計、分析した(各譲渡価額、譲渡損益は見込み額を含む)。
  • 資料は、『会社情報に関する適時開示資料』(2021年9月30日公表分まで)に基づく。東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益、または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合としている。

譲渡差益は1,721億円、1社を除いて譲渡益計上

 譲渡差益の公表総額は33社(前年同期26社)で、合計1,721億2,800万円(同783億6,300万円)(見込み額を含む)だった。ヴィア・ホールディングスが唯一、7,500万円(前年同期40億3,800万円の損失)の譲渡損失を計上。譲渡益を計上したのは32社で、合計1,722億300万円(同824億100万円)だった。公表企業のほとんどは譲渡益を計上している。
 最大の譲渡益は電通グループで、本社ビル売却による譲渡益890億円を計上している。

不動産売却

公表売却土地総面積、67万平方メートル

 2021年度(9月末時点)の売却土地総面積は、公表した34社合計で67万1,022平方メートルに達し、単純比較で前年同期(23社、合計103万6,126平方メートル)の約4割減となった。
 売却土地面積が合計1万平方メートルを超えたのは9社(前年同期8社)。都市部で不動産価格が上昇したことを背景に、小規模だが高い譲渡価額の取引が増えている。

公表売却土地面積 トップはIHIの41万平方メートル

 公表売却土地面積トップは、資源・エネルギーや社会インフラなど重工業のIHI(東証1部)で41万9,430平方メートル。グループの事業計画に基づく投資資源の確保を目的に、旧愛知事業所などを売却した。
 2位は小森コーポレーション(東証1部)の5万6,119平方メートル。3位は日本精工(東証1部)の3万6,861平方メートル。

譲渡価額総額 公表9社合計で599億円

 譲渡価格の総額は、公表した9社(前年同期9社)で合計599億5,600万円(同1,116億6,400万円)(見込み額含む)だった。電通グループなど上場企業の多くは譲渡価額を公表していない。
 トップは、エイチ・アイ・エス(東証1部)の324億円。2位は「ボンド」など接着剤メーカーのコニシ(東証1部)で71億8,000万円。3位はオンワードホールディングス(東証1部)の70億円だった。
 譲渡価額100億円以上はエイチ・アイ・エスの1社(前年同期2社)だった。

業種別は機械が最多の7社

 業種別では、機械が7社でトップ。工業用機械や精密機械などのメーカーが遊休地や工場、倉庫などを売却するケースが目立った。
 2位は、エイチ・アイ・エスや電通グループを含むサービス業と卸売業の各5社で、本社や事業所などの売却が進んだ。


 2021年の都道府県地価調査によると、全用途平均では2年連続で減少し、商業地は下落率が拡大した。新型コロナの影響で、飲食店などが集まる繁華街で下落が目立つ。
 ただ、地価が下落するなか、上場企業の不動産売却が加速している。業績不振からセール・アンド・リースバックにより本社や事務所を譲渡し、資産の有効活用や財務体質の向上を目指すほか、コロナ禍での働き方改革や拠点の統廃合など、世相を反映して要因は多様化している。
 また、売却で得た資金を原資に、再投資に意欲を見せる企業も出てきており、今後は古くから保有する不動産の含み益を生かし、多額の譲渡益を計上する売却も増えそうだ。
 2008年度以降、年間の上場企業の不動産売却数は100件を下回り、小康状態が続いていた。だが、コロナ禍を契機に状況は一変している。停滞していた上場企業の不動産売却が加速し、不動産市場の活性化につながることが期待される。

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