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2018年度「賃上げに関するアンケート」調査

 政府主導の「官製春闘」が5年目を迎えた。東京商工リサーチのアンケート調査では、2018年春に賃上げを実施した企業は全体の8割(構成比82.2%)にのぼった。
賃上げを実施した企業のうち、7割で「従業員のモチベーションが上がった」など、賃上げの効果を実感していることがわかった。
賃上げの内容をみると、大企業は「新卒者の初任給の増額」が多く、中小企業は「人材の引き留め」に重点を置いている。企業規模によって賃上げ姿勢の違いが鮮明になった。
また、景気の先行き不透明感を背景として、賃上げを実施しなかった企業は全体の約2割(構成比17.8%)あった。賃上げ未実施企業の割合は、中小企業が大企業を2.8ポイント上回っている。賃上げができない企業は求人難に加え、退職が加速する可能性もあり、中長期的には業績への影響も危惧される。

  • 本調査は2018年5月18日~31日にインターネットでアンケートを実施し、有効回答7,408社を集計、分析した。
  • 賃上げ実体を把握するため「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
  • 資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。

Q1.今年度、賃上げを実施しましたか?(択一回答)

8割の企業で賃上げを実施
アンケートの回答企業7,408社のうち、「賃上げを実施した」は6,086社で、全体の8割(構成比82.2%)を占めた
。 規模別では、大企業(資本金1億円以上)では「賃上げを実施した」が880社(構成比84.6%)、「実施していない」が160社(同15.4%)だった。
一方、中小企業(資本金1億円未満と個人企業等)は「賃上げを実施した」が5,206社(同81.8%)、「実施していない」が1,162社(同18.2%)だった。
賃上げ実施は、大企業が中小企業を2.8ポイント上回った。

2018年度賃上げの有無

Q2. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。貴社で実施した内容をすべてお答えください。(複数回答)

「新卒者の初任給増額」で大企業と中小企業で格差
Q1で賃上げを実施したと回答した6,086社に、賃上げ内容を聞いたところ、5,596社から回答を得た。
最多は、「定期昇給」の4,403社(構成比78.7%)だった。次いで、「ベースアップ」が2,451社(同43.8%)、「賞与(一時金)の増額」が2,095社(同37.4%)と続く。
構成比では「定期昇給」(大企業82.8%、中小企業78.0%)と「ベースアップ」(大企業44.1%、中小企業43.7%)は、大企業と中小企業に大きな差はなかった。
だが、「新卒者の初任給の増額」(大企業25.8%、中小企業15.2%)で、10.6ポイントの大差が出た。内部留保に余裕のある大企業は、もともとの賃金が高いうえ、人材確保のため初任給の賃上げに積極的に取り組んでいることがうかがえる。

Q3-1.Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。定期昇給の上げ幅(月額)はいくらですか?(択一回答)

 5.000円以上の定期昇給の実施は中小企業が大企業を5.9ポイント上回る
Q2で定期昇給を実施した企業のうち、4,381社から回答を得た。
最多は「5,000円以上1万円未満」の935社(構成比21.3%)。次いで「2,000円以上3,000円未満」927社(同21.2%)、「3,000円以上4,000円未満」753社(同17.2%)だった。
構成比では、「5,000円以上」が大企業22.3%、中小企業28.2%と、中小企業が5.9ポイント上回った。「5,000円以上」の回答で、最も多かった業種は「情報通信業」の118社(同44.0%)だった。

Q3-2. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。ベースアップの上げ幅(月額)はいくらですか? (択一回答)

 中小企業の上げ幅の伸びが目立つ
Q2でベースアップを実施した企業のうち、2,402社から回答を得た。
最多は、「1,000円以上2,000円未満」の516社(構成比21.5%)。次いで「5,000円以上10,000円未満」491社(同20.4%)、「2,000円以上3,000円未満」397社(同16.5%)と続く。
大企業は「1,000円以上2,000円未満」の構成比が34.5%、中小企業で「5,000円以上10,000円未満」が21.9%で、それぞれ最も高かった。
ベースアップ額は「5,000円以上」が大企業19.7%、中小企業36.7%と、中小企業が大企業を17.0ポイント上回った。
中小企業は定期昇給だけでなく、ベースアップにも積極的で、深刻な人手不足の解消に向け在籍者の離職防止(引き留め)に重点を置いたことがわかる。

Q3-3. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。賞与(一時金)の上げ幅(年間)はいくらですか?(択一回答)

 賞与(一時金)の増額は「30万円未満」が約7割 
Q2で賞与(一時金)の増額を実施した企業のうち、2,077社から回答を得た。
最多は「30万円未満」の1,394社(構成比67.1%)で、約7割を占めた。次いで「年間30万円以上50万円未満」が390社(同18.8%)、「年間50万円以上70万円未満」は134社(同6.5%)と続く。
構成比では、大企業は「50万円以上」が12.6%のに対し、中小企業は14.3%で、ここでも中小企業の賃上げに対する積極姿勢が表れた。

Q4. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。賃上げした理由は何ですか?(複数回答) 

 中小企業は「離職防止」が半数以上 
Q1で賃上げを実施した6,086社のうち、5,384社から回答を得た。「雇用中の従業員の引き留めのため」が、 2,735社(構成比50.8%)と過半数を占めた。
構成比は、「業績が回復したため」が大企業37.7%、中小企業37.2%と拮抗した。だが、「雇用中の従業員の引き留めのため」は大企業が42.2%に対し、中小企業は52.1%と中小企業が9.9ポイント上回った。
これまでの設問では中小企業の賃上げへの積極的な姿勢がみられた。本設問では特に、「新規採用」でなく「在職者の離職を防ぐ」ための賃上げが中小企業で5割以上となった。これは中小企業ほど、人手不足が深刻な状況の裏返しと受け取れる。
一方、大企業は同業他社の採用動向を見極めながら、賃上げを検討する動きがあった。

賃上げを実施した理由

Q5. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。賃上げによりどのような効果がありましたか?(複数回答)

全体の約7割が賃上げ効果を実感 
Q1で賃上げを実施した6,086社のうち、5,384社から回答を得た。
「従業員のモチベーションがあがった」が3,224社(構成比59.9%)で最も多かった。次いで、「従業員の引き留めに成功した(離職率が低下)」が909社(同16.9%)、「入社希望者が増えた」が305社(同5.7%)と続く。
「特に効果はなかった」も1,589社(同29.5%)と約3割あったが、全体では約7割の企業が賃上げ効果を実感している。
構成比では、「従業員のモチベーションが上がった」が大企業64.6%、中小企業59.2%で最多だった。「従業員の引き留めに成功した(離職率が低下)」は、大企業14.6%、中小企業17.2%で、中小企業が2.6ポイント上回った。

Q6. Q1で「賃上げを実施しない」と回答した方にお聞きします。賃上げを実施しない(する予定はない)理由は何ですか?(複数回答)

賃上げしない理由は「景気不透明」が最多 
Q1で賃上げを実施していないと回答した1,322社のうち、1,279社から回答を得た。
最多は、「景気の見通しが不透明であるため」が516社(構成比40.3%)。次いで、「業績低迷」が433社(同33.9%)だった。
大企業は「人件費増加を抑制するため」(構成比33.1%)が最も多く、次いで「景気の見通しが不透明であるため」(同29.1%)、「業績低迷」(同27.7%)と続く。一方、中小企業は「景気の見通しが不透明であるため」(同41.8%)が最も多く、次いで「業績低迷」(同34.7%)、「財務体質の強化を優先したため」(同29.4%)と続く。
「景気の見通しが不透明であるため」は、大企業29.1%、中小企業41.8%と、中小企業が大企業を12.7ポイント上回った。
中小企業の自由回答では、「先の受注が読めない」、「人材不足で売上の確保ができない」、「商品の価格転嫁ができていない」など、深刻な声もあった。中小企業は景気変動への対応力が脆く、賃上げに躊躇している姿が浮かびあがってくる。

まとめ

◇賃上げ理由に人手不足が影響

今回のアンケート調査で、賃上げ実施は全体の8割にのぼった。賃上げ理由を業種別でみると、運輸業では「雇用中の従業員の引き留めのため」が、大企業が21社(構成比56.8%)に対し、中小企業は134社(同68.7%)と約7割に達した。これは他業種より高い比率だが、労働集約型の業種では規模格差=賃金格差、待遇格差の部分が強いだけに、人材確保・維持に中小企業ほど積極的に取り組んでいることがわかる。
建設業では、「従業員の新規採用のため」が189社(同24.5%)だった。規模別では大企業が30社(同46.9%)なのに対し、中小企業は159社(同22.5%)で、大企業での人手不足感が鮮明となっている。人手不足の解消には、新規採用と退職引き留めが即効策だ。だが、有給休暇の取得など労働条件の改善も同時に求められる。サービス業を含めた労働集約型の産業ほど、慢性的な人手不足が広がっており、今回のアンケートでもその端緒が透けて見えた。

◇大企業はより一層の賃上げ努力を
大企業は、賃上げ理由について「同業他社の賃金動向を鑑みて」が3割を超えた。政府は今春闘で経団連加盟の大企業に3%賃上げを要請した。大企業はリーマン・ショック後の不況時に、人員削減や規模縮小など、大胆なリストラに乗り出し収益が改善、過去最高の内部留保の蓄積を実現した。 
ただ、賃上げ余力があっても、為替変動や海外市場への展開、政治状況など、様々な要因から先行きを見通せず、賃上げに消極的な姿勢も目立つ。
むしろ中小企業ほど、「雇用中の従業員の引き留めのため」と回答し、人材流出を死活問題と受け止め、賃上げに真剣に取り組む姿勢が浮かび上がった。
賃上げは個人消費を盛り上げ、小売業やサービス業から流通業、製造業へと景気の好循環を実現し、企業業績に好影響を与える基礎となる。だが、人口減少のトレンドに打開策が見出せない時代には、大企業が将来に向けた設備投資、賃上げに積極的に動くと、中小企業の人手不足が深刻になるジレンマが定着し始めている。中小企業も政策支援策に依存するだけでなく、独自の現状ニーズへの対応から将来のビジネスモデルを描けるだけの力量を築くことが求められている。

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