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【2017年(1-12月)】「医療,福祉事業」の倒産状況(2017年12月29日現在)

 2018年度の診療報酬と介護報酬の同時改定を前に、2017年(1-12月)の「医療,福祉事業」の倒産は速報値で249件にのぼり、介護保険法が施行された2000年以降で最多に達した。
 このうち、業種別で最も多かったのが「老人福祉・介護事業」の111件(前年比2.7%増)で、件数を押し上げた。
 また、「医療,福祉事業」の負債総額も2年連続で前年を上回ったが、全体では負債1億円未満の小・零細規模が84.7%を占めるなど、小規模倒産が目立った。
 高齢化社会の成長産業として注目される医療福祉業界だが、介護職員の人手不足が深刻化するなど、経営のかじ取りが難しさを増し、業界内では淘汰の動きが加速している。


  • 調査対象の「医療,福祉事業」には、病院、医院、マッサージ業や鍼灸院などの療術業、老人福祉・介護事業などを含む。

2017年(1-12月)の「医療,福祉事業」倒産件数、2000年以降で最多

 2017年(1-12月)の「医療,福祉事業」倒産件数は、速報値で249件(前年比10.1増、前年226件)に達し、6年連続で前年を上回るともに介護保険法が施行された2000年以降で最多になった。

医療・福祉事業の倒産 年次推移

負債1億円未満の小規模倒産が17.8%増

 2017年(1-12月)の負債総額は速報値で363億8,100万円(前年比18.7%増、前年306億4,500万円)になり2年連続で前年を上回った。
 内訳では、負債10億円以上の大型倒産は9件(前年7件)と前年を上回ったが、倒産全体では負債1億円未満が211件(構成比84.7%)と8割を占め、前年比で17.8%増(前年179件)と小規模倒産が増勢をみせた。

業種別、「老人福祉・介護事業」が2000年以降で最多を更新

 業種別では、最多が「老人福祉・介護事業」の111件(前年比2.7%増、前年108件)で、介護保険法が施行された2000年以降で最多件数になった。次いで、マッサージ業、整体院、整骨院、鍼灸院などを含む「療術業」が68件(同17.2%増、同58件)、「病院・医院」が27件(同12.9%減、同31件)、「障害者福祉事業」が23件(同109.0%増、同11件)など。

原因別、販売不振が過半数

 原因別では、最多が販売不振(業績不振)の137件(前年比2.1%減、前年140件)で、全体の過半数(構成比55.0%)を占めた。次いで、事業上の失敗が50件(前年比51.5%増、前年33件)、既往のシワ寄せ(赤字累積)が17件(同13.3%増、同15件)の順。

「老人福祉・介護事業」の倒産原因、「事業上の失敗」が4割増

 業種ごとの原因別をみると、「老人福祉・介護事業」は、最多の販売不振が51件(前年比26.0%減、前年69件)と前年を下回ったなかで、「事業上の失敗」が26件(同44.4%増、同18件)と増加ぶりが目立った。これは、安易な起業や本業不振のため異業種からの参入など、事前準備や事業計画が甘い小・零細規模の業者が思惑通りに業績を上げられず経営に行き詰まったケースが多いとみられる。
 また、「療術業」では販売不振が53件(構成比77.9%)と約8割を占め、同業他社との厳しい競争を浮き彫りにした。「病院・医院」も販売不振が15件(同55.5%)と過半数を占めた。

形態別、事業消滅型の破産が9割

 形態別では、事業消滅型の破産が225件(前年比8.1%増、前年208件)と全体の9割(構成比90.3%)を占め、業績不振に陥った事業者の再建が難しいことを浮き彫りにした。
 また、再建型の民事再生法は17件(前年11件)と増加した。この17件の主な内訳では「病院・医院」が6件、「療術業」が5件、「老人福祉・介護事業」が4件など。「病院・医院」の中には、地元では大規模な総合病院を経営していた地方の有力病院もみられた。

地区別件数、9地区のうち5地区で増加

 地区別では、全国9地区のすべてで倒産が発生した。近畿の87件(前年65件)を筆頭にして、関東73件(同72件)、九州26件(同28件)、中部26件(同23件)、中国16件(同8件)、北海道8件(同9件)、北陸5件(同7件)、東北4件(同11件)、四国4件(同3件)の順。
 前年より上回ったのは、関東・中部・近畿・中国・四国の5地区。これに対して減少は北海道・東北・北陸・九州の4地区だった。


 東京商工リサーチの調査では、全国の医療,福祉事業者1万4,834社の2017年3月期決算は、「増収増益」企業の構成比が33.1%に対し、「減収減益」企業も同29.1%と拮抗した。
 さらに、「減益」企業は51.4%と半数を超え、同業との競合や人手不足を補うための人件費上昇が収益悪化につながり、収益確保が難しいことが透けて見える。
 2018年度の診療・介護報酬の同時改定では、診療報酬が医師技術料などの「本体」部分を0.55%引き上げる一方で、「薬価」などの引き下げにより全体ではマイナス1%前後になる見通しになった。また、介護報酬は0.54%の引き上げに決定したが、通所介護での事業規模やサービス提供時間に応じた基本報酬の細分化など「給付適正化」も進められる方向である。
 このように医療・福祉関連業界では、淘汰の動きに緩みがないことから、引き続き今後の動向から目を離せない。

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