企業価値担保権、35社の活用が判明 ~ 31行が取り組み、認知拡大と実務積み上げがカギ ~
企業価値担保権を活用した企業が8月末時点で、少なくとも35社に上ることが東京商工リサーチ(TSR)の調査でわかった。登記の受付日を集計すると、制度が始まった5月25日から1週間で20社を超えた。以降は緩やかな増加を辿っている。
ことし8月、TSRが実施した「企業価値担保権に関するアンケート調査」によると、「企業価値担保権」の認知度は23.2%だった。有形資産だけではなく、事業の将来性やノウハウ、顧客基盤など「事業全体」を対象とする前例のない仕組みで、理解の浸透と実務の積み上げによる利用促進が期待される。
5月25日に事業性融資推進法に基づき、企業価値担保権が導入されて以降の商業登記事項や企業などへのヒアリングを基に、TSRが集計した。
三菱UFJ銀行は7月31日、テレワークブース開発の(株)ブイキューブ(TSRコード: 296261815、東京都港区)に企業価値担保権を設定した。同行の担当者はTSRの取材に対し、「(ブイキューブの)事業特性上、担保取得可能な有形固定資産に乏しい一方、キャッシュフローを生む事業を有し、『資産価値<事業価値』のため、企業価値担保権を設定する意義があると判断した」と語る。その上で、「制度が開始されたばかりでユースケースが乏しい。実例を積み上げることで、効果的な活用方法がより明確化される」と期待を込める。
活用が確認された企業の本社は、19都道府県に及ぶ。業種は旅館や蒸留酒製造、産業廃棄物処理など様々だが、売上高(年商)が判明した23社のうち、10億円以上は16社で約7割(69.5%)を占める。最大は87億円、最小は1.5億円だった。
関東に所在する地域金融機関は、「(自行での)第1号の設定を振り返ると、契約や管理体制などで金融機関の課題が色々と見つかった。今後の制度活用に生かしたい」と振り返る。一方で、活用した金融機関の一部は、事前調整に費やした労力を挙げ、さらなる活用に二の足を踏む。
金融庁は、企業価値担保権の主な活用例として、スタートアップへの融資(ベンチャーキャピタルと協調)、地域の中堅・中小企業への融資、事業再生・事業承継、M&A、プロジェクト・ファイナンスなどを想定する。担当者は、「年内に50ケースが積み上がれば御の字だ。スモールスタートでゆっくり育てることが大切だ」と語る。
与信管理との兼ね合いでは、コロナ禍を経て業績回復が遅れる中小企業は少なくないが、企業価値担保権の活用は、キラリと光る技術、商品、市場開拓力などを持つ企業には有効な事業再生の手段になりうる。ただ、制度は始まったばかりで、運用やノウハウに加え、活用結果の蓄積はこれからだ。
企業価値担保権への理解と活用の広がりは、今後の実績と金融機関の取り組みにかかっている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年9月25日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)