2026年「ゾンビ企業って言うな!」 ~ 金利引き上げ、窮境にある企業がより窮境に ~
もはや「ゾンビ企業」というラベリングの是非を議論している場合ではない――。
東京商工リサーチ(TSR)・分析チームによる最新結果が出た際、思わず口をついた言葉だ。TSRが保有する財務データ(決算書)を基に経営が苦しいと思われる企業をゾンビ企業と定義して分析した。財務データが出揃った2024年度は、直近10年で最悪となった。
経営に余裕がなく資金繰り支援で延命される企業をどう把握し、呼称し、支援するのか。支援者や再生実務家は頭を悩ませてきた。
把握する分析手法は様々で、研究者や金融機関、シンクタンク、それぞれ独自に異なる指標を用いて算出している。呼び名は、ゾンビ企業、窮境企業、再生フェーズ企業、フェニックス企業など多種多様だ。
経営者や従業員の感情だけでなく、支援機関との接点拡大など配慮すべき点は多岐に渡る。統一した呼称はないが、呼び名に拘る時間は残されていない。
TSRは、国際決済銀行(BIS)によるゾンビ企業の定義である「設立10年超で3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(利払いに対する営業利益+受取利息・配当金の比率)が1を下回る企業」を基に、独自の基準も加味してゾンビ企業率を算出している。決算年度ごとに変動はあるが、分析対象の企業は概ね20万~30万社だ。
分析で推定されたゾンビ企業数の国内企業に占める割合を算出し、経済センサスの国内企業数に掛け合わせて推定ゾンビ企業数も算出した。センサスの企業数は設立年を必ずしも明示していないため、割合の算出にあたり設立年は条件に入れていない。また、「設立10年超」の括りは、実体を矮小化する危険性もある。2025年度は決算未確定の企業もあり、2024年度を俯瞰し、2025年度も参考として傾向を捉えたい。
分析では、2024年度のゾンビ企業率(BIS基準)は15.20%で、前年度より0.63ポイント悪化した。2016年度以降の10年間(2015年度は10.40%)では、コロナ禍の2022年度(15.38%)に次ぐ深刻な状況だった。
日本銀行は、2024年3月にマイナス金利政策を解除し、同年7月に0.25%程度、25年1月に0.50%程度へ引き上げた。日銀の動きを前に、金融機関は取引企業の信用力、債務者区分などに応じ貸出金利を見直しており、こうした影響が出たとみられる。
「金利ある世界」が戻り、リスクに応じた金利設定やモニタリングがより重要になる。だが、金利が上昇した企業は稼ぐ力の改善が追い付かず、ゾンビ企業に区分される状況が浮かび上がる。
さらに精緻に分析するために、BIS基準に手を加えて分析した。BIS基準は、主に損益計算書(PL)を拠り所にしており、貸借対照表(BS)やキャッシュフロー(CF)の数値は加味していない。このため、分子を「営業利益+受取利息・配当金」ではなく、営業CF(簡便法)に変えた。事業活動で生み出すキャッシュが恒常的に利払い負担を下回っている場合、ゾンビ企業と定義する分析だ。この営業CF基準では、2024年度が5.34%(前年度比0.06ポイント悪化)で、過去10年で最悪となった。

窮境にある企業がより窮境に
上記2つの基準でゾンビ企業と判定された企業でも、潤沢な内部留保を抱えるケースもある。このため、期末時点の債務超過も加味して分析した。すると、2024年度のBIS基準+債務超過によるゾンビ企業率は6.47%(前年度比1.27ポイント悪化)、営業CF基準+債務超過は2.53%(同0.25ポイント悪化)だった。
BIS基準+債務超過の悪化が顕著だが、「金利ある世界」に入り、こうした企業では金融機関が金利を重点的に見直した可能性がある。この頃にある金融機関の担当者は、「コロナ禍での矢継ぎ早かつ潤沢な金融支援が段階的に縮小したため、BIS基準などの指標も用いて、与信先を再評価している」と耳打ちしている。
TSRが保有する財務データから企業の「推定調達金利」を算出すると、債務超過の企業の金利上昇幅(2024年度と2023年度の比較)は、資産超過の企業の4倍以上高かった。(※1)
「窮境にある企業がより窮境に」と思わざるを得ない結果だ。
※1 2025年9月24日公表「企業の「推定調達金利」調査」。推定調達金利=支払利息割引料/有利子負債と定義。2023年度は債務超過の企業が1.25%、資産超過は1.02%。2024年度はそれぞれ1.55%、1.09%で、上昇幅は債務超過が0.30ポイント、資産超過が0.07ポイントだった。

さらに、BIS基準+債務超過基準と営業CF基準+債務超過基準の双方に当てはまる最も厳しい基準(最狭基準)の割合も算出した。
2024年度は1.92%(前年度比0.22ポイント悪化)で、これも過去10年で最悪だった。悪化幅も0.2ポイントを超え、財務データの分析は、精緻にすればするほどゾンビ企業率の増加幅(率)が深刻な結果となった。

いずれの分析でも2022年度以降の悪化が顕著だ。コロナ禍の緊急避難的な資金繰り支援で、事業を継続した企業の稼ぐ力が回復していないことに加え、金利の上昇局面で金融機関から相対的に低リスクと判断された企業より、金利面は厳しい立場に置かれている可能性がある。
これを経済センサス(令和3年活動調査)の企業数である368万社に当てはめると、2024年度のゾンビ企業数は以下の通りになる。いずれの基準でも大幅に増加している。
●BIS基準:55.9万社(368万*15.20%、前年度比2.3万社増)
●営業CF基準:19.6万社(368万*5.34%、同0.2万社増)
●BIS基準+債務超過基準:23.8万社(368万*6.47%、同4.7万社増)
●営業CF基準+債務超過基準:9.3万社(368万*2.53%、同1.0万社増)
●最狭基準:7.0万社(368万*1.92%、同0.8万社増)
業種間で大きな差
窮境の度合いが最も深刻なのはどういう企業か。最狭基準で、ゾンビ企業率を業種中分類で分析した。2024年度と2025年度(参考値)の結果は次の表の通り。
2024年度のワーストは織物・衣服・身の回り品小売業の12.00%だった。倒産は窮境の遅行指数にもなるが、TSR集計では、2025年度の織物・衣服・身の回り品小売業の倒産は、207件(前年度比25.4%増)に急増した。(※2)
次いで、旅行や結婚式場が含まれるその他の生活関連サービス業の11.43%が続く。
全業種平均の1.92%と比べ、5倍以上悪く、抜本再生を含めた緊急対応が必要な企業が多い。再生M&Aなど雇用や取引先、地域への影響を最小限に抑える方策などの取り組みが急がれる。
2025年度のゾンビ企業率ワーストは水産養殖業だった。だが、分析分母(対象企業数)が十分に集まっておらず、次点以下の石油製品・石炭製造業、農業などに注目したい。昨今、いずれも物価高やイラン攻撃による原油価格の高騰で調達コストや飼料高騰が直撃し、さらに経営が苦しくなっている業種だ。事態は流動的だが、短いスパンでの動向把握が必要だ。
※2 織物・衣服・身の回り品小売業(中分類)の倒産件数。2024年度は165件。

金利上昇の影響
金利の上昇がゾンビ企業率に与える影響も分析した。日本銀行は、2024年3月にマイナス金利解除とイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を撤廃して以降、金融政策を引き締めている。2025年12月には0.75%程度まで金利を引き上げ、30年ぶりの高水準となった。
このため、2025年度の決算を基に、PLの支払利息額をBS上の有利子負債で割った数値を当該企業の調達(借入)金利とした上で、仮定上昇金利(+0.1%、+0.3%、+0.5%)をプラスした。これに有利子負債を掛け合わせ、ゾンビ企業算定の元となる金利上昇時の仮定利払い負担を算出した。
なお、2025年度の各ゾンビ企業率は2024年度より改善している。今回の分析は信用調査により蓄積されたデータを主体に分析しているが、決算後、調査は商取引額が膨らみやすい大手・中堅企業から先に入り、その後に小・零細企業のデータが蓄積される傾向にある。このため、まだ全てのデータが収集されていない2025年度はよい数値が出やすい。今後、決算後の取材で小・零細企業のデータも蓄積されると2025年度は現在の水準より下落する可能性が高い。
2025年度はこうした前提にもかかわらず、現状以上の金利上昇への耐性は高くないことが浮き彫りになった。
BIS基準では、金利0.3%の上昇でゾンビ企業率は1.00ポイント、0.5%で1.65ポイント悪化する。最狭基準では、それぞれ0.14ポイント、0.23ポイントの悪化となる。
中東問題の動向次第だが、日銀はさらに金利を引き上げるとの見方も強い。これまでの分析で、ゾンビ企業ほど金利交渉で不利になりやすい構図が見えており、金利引き上げはゾンビ企業の市場からの退出を促す恐れがある。

ゾンビ企業って言うな!
事業再生の現場では、「再生フェーズに相当する企業は40万社前後」が共通認識となっている。これは、中小企業実態基本調査を基に、「債務超過」かつ「EBITDA有利子負債倍率10倍超またはマイナス」と定義した数値だ。
こうした企業への支援を巡っては、「経営改善計画」自体が有名無実化しており、規律付けが必要との意見もある。
今回の調査で金利の上昇局面では、「窮境にある企業がより窮境に」という側面が浮かび上がった。ただ、金利なき時代は、むしろ世界的に異常で、延命されてきた企業が退出するのはマクロ経済的には正常化プロセスとの声もある。
最狭基準でのゾンビ企業率(2024年度)は、織物・衣服・身の回り品小売業がワーストだったが、呉服店は老舗が多く、市場退出の加速は地域の文化・社会的機能の喪失する可能性もある。
ゾンビ企業の呼び名は、様々な想いが交錯するが、債務整理や事業再生を取り巻く環境には変化が生じている。これまでの企業支援の結果、自転車をこぎ続けない企業や経営者のやるせなさに寄り添うことは当然として、同時に環境変化をどう伝えるのか。支援者に課せられている命題だ。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年4月23日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)