「雇用調整助成金」不正受給 鈍化も累計1,889件に 最多は愛知県の294社、倒産発生率は通常の24.3倍
2025年12月「雇用調整助成金不正受給公表企業」動向調査
コロナ禍に雇用を支えた「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給公表は、2025年12月は 全国で19件だった。2025年の合計は344件で、ピークの2023年の692件から半減した。
2020年4月から2025年12月までの累計は1,889件に達し、不正受給した総額は613億1,825万円にのぼる。
都道府県別の不正受給の公表件数(累計)は、最多は愛知県の294件で300件台が目前に迫る。企業数が多い東京都の235件、大阪府の188件を大きく上回っている。
累計1,889件のうち、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースで業歴が判明した1,447社では、公表時に業歴10年未満は560社と約4割(構成比38.7%)を占めた。コロナ禍で緊急事態宣言が発令され、雇調金の特例措置が始まった2020年4月以降の起業が90社確認され、雇調金等の助成金や補助金狙いを疑われるケースも散見される。
不正受給を公表された1,889件のうち、2025年12月までの倒産は129件に達した。倒産発生率は6.82%で、TSRが集計した全国倒産の発生率0.28%(2024年度)と比べ、24.3倍と異常な高率だ。
不正受給が発覚した場合、助成金の返還や追徴金で資金難に陥ると同時に、取引先や金融機関からの信用が失墜し、経営破たんのリスクは一気に高まることを示している。
不正受給は、不正を主導した代表者や関係者の逮捕などの刑事事件も起きている。公表された企業数はピークを越えたとはいえ、社名が公表された企業の動向には目が離せない。
※本調査は、雇用調整助成金、または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が2025年12月31日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は11月21日発表。

2025年の雇調金等の不正受給公表は344件、前年からほぼ半減
全国の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2020年4月から2025年12月31日までで1,889件に達した。支給決定が取り消された助成金は合計613億1,825万円で、1件あたり平均は3,246万円だった。
2025年の公表は344件で、前年(626件)より282件(前年比45.0%減)減少し、ほぼ半減した。
公表された1,889件のうち、「雇調金」だけの受給は1,108件で、約6割(構成比58.6%)を占めた。パートタイマー等の雇用保険被保険者でない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」のみは245件(同12.9%)で、両方の受給も536件(同28.3%)あった。

都道府県別の最多公表は愛知県の294件、300件を超えるか注目
地区別の公表件数は、最多が関東の710件(構成比37.5%)。次いで、中部402件、近畿297件、九州166件、中国110件、東北91件、四国60件、北陸31件、北海道22件の順。
前回調査(2025年11月発表)からの増加率は、九州が7.0%増(11件増)で最も高く、北海道4.7%増(1件増)、東北4.5%増(4件増)が続く。一方、北陸と四国では公表がなかった。
都道府県別は、最多が愛知の294件。2位の東京235件を59件上回る。次いで、大阪188件、神奈川147件が続き、上位の4都府県は100件を超えた。
以下、千葉96件、福岡77件、栃木70件、広島62件、埼玉53件、京都49件、宮城48件、三重42件、新潟39件、愛媛34件、群馬33件、茨城31件の順。
一方、最少は香川の1件で、山形2件、岩手と島根が各3件の順で少ない。
※各都道府県の労働局が公表した所在地に基づいて集計しており、本社所在地と異なる場合がある。

飲食業が唯一、200社超、人材派遣や旅行、美容などサービス業他がほぼ半数
雇調金等の不正受給が公表された1,889件のうち、TSRの企業情報データベースで分析可能な1,454社(個人企業を含む)を対象に、産業別と業種別に集計した。
産業別では、サービス業他の661社(構成比45.4%)が最多で、ほぼ半数を占める。次いで、建設業199社(同13.6%)が続き、200社超えが目前だ。以下、製造業156社(同10.7%)、運輸業106社(同7.2%)、小売業98社(同6.7%)、卸売業89社(同6.1%)の順で並ぶ。
細分化した業種別でみると、「飲食業」が208社(同14.3%)で最も多く、唯一の200社超え。次いで、「建設業」199社(同13.6%)、人材派遣や業務請負などの「他のサービス業」140社(同9.6%)、旅行業や美容業などの「生活関連サービス業,娯楽業」116社(同7.9%)、「運輸業」106社(同7.2%)が続き、上位5業種が100社を超えた。コロナ禍の影響が大きかった対面型ビジネスや労働集約型で多い傾向がみられる。

公表時点で業歴10年未満が約4割
雇調金等の不正受給の公表企業で、公表時の業歴が判明したのは1,447社だった。
このうち、10年以上50年未満が696社(構成比48.0%)と半数を占めた。次いで、5年以上10年未満398社(同27.5%)、50年以上100年未満が165社(同11.4%)、5年未満が162社(同11.1%)の順。
10年未満は560社(同38.7%)だった一方、業歴100年以上の老舗企業も26社が公表された。
雇調金特例措置が始まった2020年4月以降に設立されたのは90社だった。

公表企業の倒産は129件、倒産発生率は6.82%
不正受給が公表された企業のうち、2025年12月までに129件の倒産発生が確認された。公表された1,889件の6.82%にあたり、前回調査から0.21ポイント上昇した。TSRがまとめた2024年度全国企業倒産の発生率は0.28%で、不正受給が公表された企業の倒産発生が際立つ。
倒産した129件のうち、公表日当日や公表後の倒産は88件(構成比68.2%)だった。不正受給の公表・発覚により取引先から信用を失い、受給金返還の負担も重なり、破たんに至ったといえる。
雇調金等は事業主が負担する雇用保険料を積み立てた「雇用安定資金」を財源とする。しかし、コロナ禍での支給額は6兆円を上回る規模となり、労働者負担分の雇用保険会計からの借入や国の一般会計からの繰り入れにより財源を補った。
コロナ禍の雇調金等は、休業や時短営業、取引縮小など業況悪化に見舞われた企業で働く従業員の雇用維持に一定の役割を果たした。一方で、迅速な支給を目的に手続きを簡略化した特例措置の隙を突き、制度を悪用した不正受給も頻発した。厚生労働省によると、非公表企業を含む不正受給は2025年9月末で4,434件、支給決定取消金額は約1,097億円に及び、そのうち250億円余りが未回収となっている。
国民負担に支えられた社会保障制度の悪用には厳しい目が向けられ、返還が当然求められるが、不正受給を公表された企業の信用回復には時間が必要で、支援のあり方と動向が注目される。