銭湯の利益6割減、値上げは諸刃の剣 独自文化の維持へ模索続く
木枯らし吹きすさぶなか、背中を丸めながら洗面器を抱えて銭湯に…。寒くなると銭湯が恋しくなるのは、いつの時代も変わらない。
サウナブームで光明が差すように見える銭湯だが、実際はそうではない。長引く物価高と燃料費の高騰は度重なる入浴料の値上げ効果をかき消し、スーパー銭湯との価格面での競合も勃発している。
2025年の一般公衆浴場業(銭湯)の数は、ピークの1968年の1万7,999軒から9割減の1,562軒まで減少した。住宅環境の変化により銭湯へのニーズは大きく変化するなかで数は減少し続け、近年はコスト高が襲い掛かる。サウナの充実やオリジナルグッズの販売、銭湯後の瓶ジュースの充実など、必死の努力を続けている。
さらに、インバウンド観光客に目を向け、日本文化の体験でファン層の拡大にも取り組んでいる。ただ、奮闘にもかかわらず状況は厳しい。

10年後は1,000軒割り込む?
全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全浴連)によると、2025年の全国の銭湯数は1,562軒だった。毎年5%ペースで減少しており、10年後の2035年には1,000軒を割り込む可能性もある。
公共性の高い銭湯は、公衆浴場法で管理され、各都道府県が料金の上限を決めている。水道料金の減免など優遇措置もあり、低価格で入浴でき、公衆衛生の向上に大きく貢献してきた。
しかし、家庭のお風呂が普及し、入浴客は右肩下がりで減少している。そこに後継者難が深刻さを増し、高齢化する銭湯経営者と施設の老朽化で、廃業が増えている。スーパー銭湯も台頭し、競争が激化している。
V字回復も2025年は利益急減
東京商工リサーチ(TSR)の企業データから、8期連続で売上高、最終利益が判明した主な銭湯運営会社37社を分析した。
それによると、コロナ禍前の2019年(※)の37社の売上高合計は275億3,400万円で、利益は3億7,060万円だった。それから2年後、コロナ禍の影響が出た2021年は売上高が237億3,100万円に落ち込み、利益は2億800万円の赤字に転落した。さらに、翌年の2022年のは赤字額は縮小するどころか5億8,100万円まで広がった。
コロナ禍で入浴客が減少する一方で、物価高が直撃し、各都道府県で値上げが実施された。ただ、サウナブームが沸き起こり、2023年は売上高、利益とも大幅に改善しV字回復を果たした。
2025年は売上高こそ前期比7.4%増の296億3,500万円と3期連続の増収を果たしたが、利益が58.1%減の8億8,100万円と大幅に減少した。
(※)2018年7月~19年6月に迎えた本決算を集計。以下、対象決算の範囲は同じ。

値上げでスーパー銭湯との価格差縮小
関係者は「都道府県により状況は異なる」と前置きした上で、次のように話す。「相次ぐ値上げによる入浴者の減少を恐れていたが、理解してくれる人が多く、想定よりは減らなかった」。
だが、大阪府600円、東京都550円など、入浴料金の上昇は確実に銭湯への客足に影響が出ている。さらに、大規模で設備が充実するスーパー銭湯との価格差が縮まった。そのため、燃料費などコストが上昇しても値上げが難しいエリアが出てきたようだ。値上げ希望と避けたい業者の二極化も進行している。
「コストアップ→値上げ」という単純な構図だけでなく、施設の老朽化や後継者問題も複雑に絡み合う。業種柄、ランニングコストの抑制には限界がある。改善されない利幅は設備の改修余力に直結し、経営者が高齢で後継者がいない場合は廃業も視野に入れざるを得ない。
サウナ・スパ健康アドバイザーで、週3回は銭湯に通う男性(31)は、「高齢の女将さんとの会話が楽しみで通い続け、銭湯で友人も増えた。コミュニティを広げる場として大事にしたい」と銭湯の良さを語る。
日本独自の古き良き文化を引き継ぐ銭湯。この文化を将来も残せるか、経営者だけでなく、入浴者の想いにもかかっている。
色々と取り巻く環境は厳しいが、銭湯巡りで暖かい湯気に包まれ、身も心も解きほぐせる銭湯は、今も入浴者のよりどころとなっている。