• TSRデータインサイト

自社の決算書は「信頼性が高い」9割に届かず 会計士任せ、人手不足や規則の頻繁な変更も一因

「不適切会計に関するアンケート」調査


 上場、未上場問わず粉飾決算の発覚が相次ぎ、財務諸表への信頼が揺らいでいる。こうしたなか、自社の決算処理について「信頼性が高いと言い切れる」と回答した企業は87.9%にとどまり、9割に届かなかった。
 東京商工リサーチは、自社の決算処理についてアンケートを実施した。財務諸表は、金融機関の融資判断だけでなく、商取引、従業員の信頼に直結する重要な書類だ。だが、今回の調査で「粉飾決算」と「不適切会計」が混在し、提出された内容を鵜吞みにできない実態が明らかになった。

 財務諸表の信頼性を巡っては、今年4月、東証グロースに上場する(株)オルツ(TSRコード:012883700)で売上の過大計上の疑惑が持ち上がった。その後、第三者委員会の調査で不正認定、7月25日に監理銘柄に指定され、7月30日に民事再生法の適用を申請した。非上場企業では、粉飾した決算書で約50行から300億円以上の融資を得た堀正工業(株)(TSRコード:291038832)が2023年に破産したが、その後も大胆な粉飾決算の発覚が相次いでいる。
 アンケートからは、無形サービスを主な扱い品とする業種で「信頼性が高いと言い切れない」「どちらともいえない」との回答が多かった。また、業法や監督官庁の指導が精緻な産業でも、同様の傾向がみられた。

※本調査は、2025年7月30日~8月6日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答6,813社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1.貴社の決算処理は信頼性が高いと言い切ることはできますか?(択一回答)

◇「言い切れる」は87.9%
 最多は「信頼性が高いと言い切れる」の87.9%(6,813社中、5,991社)だった。
 一方で、「信頼性が高いと言い切れない」は2.1%(144社)、「どちらともいえない」は7.4%(508社)だった。「回答を控える」も2.5%(170社)あった。
 規模別で回答に大きな差はみられなかった。
「言い切れない」、もしくは「どちらともいいえない」と回答した企業の業種別(業種中分類、回答母数10以上)は、「その他の教育,学習支援業」(10社中、2社)と「インターネット附随サービス業」(15社中、3社)がともに20.0%だった。

Q1.貴社の決算処理は信頼性が高いと言い切ることはできますか?

Q2.Q1で「言い切れない」「どちらともいえない」と回答された方に伺います。その理由は何ですか?(複数回答)

◇最多は「会計士や税理士任せ」
 Q1で「言い切れない」「どちらともいえない」と回答した企業のうち、594社から回答を得た。最も多かったのは、「決算処理が会計士や税理士任せになっている」の50.0%(297社)だった。規模別では、大企業が22.4%(49社中、11社)に対し、中小企業は52.4%(545社中、286社)で30ポイントの差が付いた。
 また、「経理、財務部門の人手不足」は28.1%(167社)だった。規模別では、大企業が42.8%(21社)、中小企業は26.7(146社)と20ポイント近く差が付いた。
 産業別でみると、「頻繁に税法や会計基準が変わるため」と回答した割合の最高は、農・林・漁・鉱業の42.8%(7社中、3社)で、次いで不動産業の34.7%(23社中、8社)だった。

Q2.Q1で「言い切れない」「どちらともいえない」と回答された方に伺います。その理由は何ですか?



 「信頼性が高いと言い切れる」が9割に届かなかった。第一次産業や不動産業など、業法や監督官庁の縛りが比較的厳格な産業で、その理由に「頻繁に税法や会計基準が変わる」を挙げた回答が目立った。一方、金融・保険業はその割合が低い。業法による参入障壁に加え、監督官庁の意向自体がビジネスの根幹で、遵守姿勢が確立されているようだ。

 今回のアンケートでは、意図的に数値を改ざんする「粉飾」と、意図せずに会計処理を誤る「誤謬」を区別せずに聞いた。広義の意味では「不適切会計」はどちらも含むが、明らかな粉飾を不適切会計と言い続ける企業姿勢には批判の声も少なくない。粉飾が明るみになった後の企業側の態度を、株主や取引先などのステークホルダーは見逃さない。
 ガバナンス(企業統治)の再構築には、こうした点も念頭に置くことが必要だ。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

不動産業から見た全国の「活気のある街」 活性度トップは東京都中央区、福岡など地方都市も健闘

東京商工リサーチが保有する企業データベースや行政の発表する統計資料から6つの項目に基づいて、エリア別の不動産業「活性度ポイント」を算出した。その結果、再び都心回帰の動きが出てきた一方で、地方の穴場でも活性化に向かう地域があることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

3

  • TSRデータインサイト

ミュゼ破産で浮き彫り、勝者なき脱毛サロンの消耗戦 ~ 整備されぬ「利用者・従業員保護の枠組み」 ~

脱毛サロン最大手の「ミュゼプラチナム」を運営していたMPH(株)が8月18日、東京地裁から破産開始決定を受けた。MPHの破産は負債総額約260億円、被害者(契約者)は120万人を超え、社会問題化している。

4

  • TSRデータインサイト

破産開始決定のMPH、「抗告など対抗せず」

8月18日に東京地裁より破産開始決定を受けたMPH(株)(TSRコード:036547190)の幹部は20日、東京商工リサーチの取材に応じ、「破産開始決定に対しての抗告などはしない予定」とコメントした。

5

  • TSRデータインサイト

『生成AI』 活用は企業の25%にとどまる  「業務効率化」が9割超、専門人材不足がネック

幅広いビジネスシーンで注目される生成AIだが、その活用を推進している企業は25.2%(6,645社中、1,679社)にとどまることがわかった。

TOPへ