「トランプ関税」、日本の「景気を後退」が8割超 自社への影響が「マイナス」は約3割に半減
2025年8月「トランプ関税」に関するアンケート調査
8月7日、日米間で合意した新しい「相互関税」が発動された。東京商工リサーチ(TSR)は、発動直前の7月30日~8月6日に「トランプ関税」に関する第3回目の企業アンケートを実施した。
今回のアンケートでは、トランプ関税が「マイナス」と回答した企業は31.9%で、6月調査の57.6%から2カ月で▲25.7ポイントと大幅に低下した。
しかし、日本の「景気を後退させる」と回答した企業が86.0%に達し、自社への影響は少なくても、日本経済全体には「マイナス」と捉える企業が多いことがわかった。特に、 農・林・漁・鉱業、運輸業は、製造業を抜いて9割近い回答率だった。関税への警戒が静かに広がっているようだ。
トランプ関税に対し、企業が政府や行政に求める支援では「法人税率の引き下げ」が50.0%と半数を占めた。大企業(43.0%)、中小企業(50.7%)ともに回答率は最大で、税負担の軽減で資金負担を軽減したいと考える企業が多いようだ。
この他の支援としては、中小企業は「事業や雇用維持に向けた返済義務のない給付金・助成金の支給」(39.2%)など資金繰り支援を求める声が多かった。
一方、大企業は「省力化・デジタル化のための補助金の支給」(32.9%)、「トランプ政権の動向が自社業界にあたえる影響の情報提供」(32.0%)など、業務効率の向上や情報の見極めに関する支援を求める声が多かった。
トランプ関税の発動で、日本企業はそれぞれ対応を迫られている。アメリカ国内の拠点に生産をシフトする方策は一部の大企業でのみ可能な対策だ。多くの中小企業は、トランプ関税発動によるアメリカ国内の需要減を、アメリカ以外の海外市場や国内市場で開拓を迫られることになる。また、物価高の中で、販売価格の引き上げを実現できなければ業績の悪化を招きかねない。
今後、関税の影響が顕在化するにつれ、製造業以外の関連産業への波及や、実質賃金が6カ月連続でマイナスのなか、個人消費へ影響が出ることも懸念される。
※ 本調査は、2025年7月30日~8月6日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答7,284社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を中小企業と定義した。
Q1.今年4月以降にトランプ政権が導入した関税措置(トランプ関税)は貴社の今期業績にどのように影響していますか?(単一回答)
◇「マイナス」が31.9%で「プラス」0.7%を31.2ポイント上回る
関税引き上げの影響は、「影響は生じない」が67.2%(7,284社中、4,896社)でトップだった。
次いで、「少しマイナス」が24.2%(1,766社)、「大いにマイナス」が7.7%(564社)で続く。「マイナス」の合算は31.9%(2,330社)で、2025年6月調査の「マイナス」57.6%からほぼ半減した。現在、日米間で関税軽減措置の内容について認識の再確認が実施されているが、日本政府の主張する合意内容であれば、自社への影響は少ないと考える企業が多いようだ。
業種(中分類)別の「マイナス」では、最大が「生産用機械器具製造業」59.8%。次いで、「ゴム製品製造業」58.6%、「鉄鋼業」58.1%と続く。上位10業種のうち、9業種が製造業だった。
Q2.(「マイナス」回答企業へ)トランプ関税の影響により、貴社は廃業・会社売却(全事業の閉鎖・売却)や一部事業部門の閉鎖・売却を検討する可能性はありますか?(単一回答)
Q1で「マイナス」と回答した企業へ、廃業・会社売却や一部事業部門の閉鎖・売却を検討する可能性を聞くと、「廃業・会社売却を検討する可能性がある」が1.6%(2,205社中、36社)、「一部事業部門の閉鎖・売却を検討する可能性がある」が3.8%(85社)になり、合計で5.4%の企業が事業継続を諦めたり、事業規模の縮小を検討していることがわかった。
廃業・会社売却や事業部門の閉鎖等を検討している企業の構成比を産業別でみると、最大が不動産業の8.1%(49社中、4社)だった。次いで、製造業が7.1%(741社中、53社)、サービス業他が6.4%(327社中、21社)、運輸業が5.2%(96社中、5社)で続き、4産業で構成比が5%を上回った。
Q3.日米で合意した15%の関税措置は日本経済にどのように影響すると思いますか?(単一回答)
トランプ関税が日本経済に与える影響を聞くと、「景気を少し後退させる」が69.6%(6,827社中、4,756社)で最大だった。次いで、「景気を大きく後退させる」が16.3%(1,119社)で続く。
Q1では、自社の業績に与える影響は少ないとする企業が多かったが、日本経済全体に対しては、悪影響だと捉える企業が多いようだ。
「景気を後退させる」の回答率が最も高かった産業は、農・林・漁・鉱業の89.5%(48社中、43社)。次いで、運輸業88.5%(271社中、240社)、製造業87.7%(1,703社中、1,494社)で続く。
すべての産業で「景気を後退させる」が8割を超えた。
Q4.トランプ関税に関連して、政府や行政に求める支援策は何ですか?(複数回答)
◇大企業、中小企業ともに「法人税率の引き下げ」がトップ
政府や行政に求める支援策を聞き、6,449社から回答を得た。
構成比の最高は、「法人税率の引き下げ」の50.0%(3,230社)だった。トランプ関税が日本経済の景気を後退させると考える企業は多く、税負担の軽減で運転資金や投資資金を確保したいとの声が多い。
次いで、「事業や雇用維持に向けた返済義務のない給付金・助成金の支給」が38.6%(2,491社)、「低利または実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資の促進」が31.6%(2,038社)で続く。
中小企業では、「低利または実質無利子・無担保(ゼロゼロ)融資の促進」で8.7ポイント、「事業や雇用維持に向けた返済義務のない給付金・助成金の支給」で7.4ポイント、それぞれ大企業を上回り、資金的な支援への期待が強かった。コロナ禍で資金繰り支援の給付・助成金、ゼロゼロ融資など手厚い支援が受けられたという背景があるほか、過剰債務を軽減したいといった思惑もあるとみられる。
一方、大企業は、「トランプ政権の動向が自社業界にあたえる影響の情報提供」で9.8ポイント、「省力化・デジタル化のための補助金の支給」で8.6ポイント、それぞれ中小企業を上回り、情報の見極めや業務効率の向上を意識する姿勢が表れた。
その他の意見では、消費税引き下げなどの内需拡大に向けた施策、円安の是正のほか、価格転嫁の実態把握などの中小下請け企業への支援策を求める意見もみられた。