2024年度「上場企業」の不動産売却は85社 大型取引が増え、土地の総面積は約1.6倍
2024年度「上場企業 不動産売却」調査
東京証券取引所に上場している3,826社のうち、2024年度に国内不動産の売却を開示したのは85社で、前年度の97社から12社減少した。一方、売却地の総面積は70社が公表し、合計157万494平方メートル(前年度99万6,760平方メートル、公表85社)で、社数は減少したが、面積は約1.6倍に増えた。
市場内訳では、プライム32社(前年度50社)、スタンダード50社(同45社)、グロース3社(同2社)で、スタンダード市場に上場する企業で売却が目立った。
譲渡損益の公表は81社で、総額は2,918億5,500万円だった。2022年度の東証の市場再編で集計基準を変更したため単純に比較はできないが、譲渡益は2001年度以降で最高額を更新した前年度(5,774億5,600万円)から大幅に減少。2019年以来、5年ぶりに3,000億円を下回った。
81社のうち、譲渡益を計上した企業は76社で、全体の9割(構成比93.8%)を超えた。構成比は、前年度(同93.4%)から0.4ポイント上昇した。
売却地の面積が合計1万平方メートル超だったのは24社(前年度17社)で、前年度の1.4倍に増加した。売却地の公表面積トップは、シャープ(プライム)の45万平方メートルで、堺工場の一部をソフトバンク、積水化学工業へ計1,250億円(売却益861億円)で売却した。
コロナ禍は、手元資金の確保や働き方の変化を理由とした不動産売却が多く、2022年に不動産を売却した上場企業は114社と、2011年以降では唯一100社を超えた。2023年以降はこうした動きは落ち着き、2年連続で社数が減少している。
※本調査は、東証プライム、スタンダード、グロース上場企業3,826社(2025年3月末時点)を対象に、2025年5月31日までに2024年度(2024年4月~2025年3月)における国内不動産(固定資産)の売却を開示した企業を集計、分析した(契約日基準、各譲渡価額・譲渡損益は見込み額を含む)。
※東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益、または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合とされている。
※2022年から東証の市場再編により集計基準を変更したため、2021年度以前(東証1部・2部企業を対象)のデータはすべて参考値。
開示企業の9割が譲渡益計上
不動産売却を開示したのは85社(前年度97社)で、2年連続で100社を下回った。譲渡損益を公表した81社(前年度91社)のうち、譲渡益の計上は76社(同85社)で、総額は2,992億4,400万円(前年度比48.2%減)と前年度(5,779億3,100万円)からほぼ半減した。
譲渡損を計上したのは5社(前年度同数)と前年度と同数だったが、損失額は▲73億8,900万円(同▲4億7,500万円)に膨らんだ。
譲渡益トップは、シャープ(プライム)の861億3,900万円、次いで、日野自動車(同)の340億円、ヤマトホールディングス(同)の242億円が続く。譲渡益100億円以上は5社(前年度13社)で前年度から大きく減少した。譲渡損失の最大は、中国電力(プライム)の▲70億円だった。
公表売却土地総面積 合計157万平方メートル
2024年度の売却土地総面積は70社が公表し、合計157万494平方メートル(前年度99万6,760平方メートル、公表85社)で、前年度から約1.6倍(前年度比57.5%増)に拡大した。
売却土地面積が合計1万平方メートル超は24社(前年度18社)、売却土地面積が合計10万平方メートル超が3社(同1社)に増え、合計面積は大きく拡大した。
1社当たりの平均売却土地面積は、2万2,435平方メートル(前年度1万1,726平方メートル)だった。
公表売却土地面積トップは、電気機器製造のシャープ(プライム)で45万平方メートル。堺工場敷地内の液晶パネル工場エリアをソフトバンク(プライム)に、遊休地だった一部を積水化学工業(プライム・土地面積公表なし)に、それぞれ売却した。譲渡理由は、「ブランド事業を中心とした事業構造を確立する」、「財務改善を図る」、「ソフトバンク社による速やかなAIデータセンターの構築に協力する」などを挙げている。
2位は中国電力(プライム)の32万6,000平方メートル、3位は日野自動車(プライム)の15万5,000平方メートルだった。
譲渡価額総額 公表17社合計で約18億円
譲渡価額の公表は17社(前年度8社)で、総額は1,785億5,700万円(同30億8,900万円)だった。
トップは、シャープ(プライム)の1,250億円。2位は、アークランズ(プライム)の205億円、3位は第一興商(グロース)の85億円の順。
業種別 小売業が最多の10社
業種別では、小売業が10社(前年度同数)で最多。経営資源の有効活用、及び財務基盤の強化を図るため売却した企業が多かった。10社のうち、最新期での最終利益が赤字は5社(構成比50.0%)と半数にのぼった。
2位はサービス業の9社(同5社)で、9社すべて最新期の最終利益は黒字だった。
前年度に最多だった卸売業は6社(同13社)と半減した。
2025年3月に国土交通省が発表した令和7年地価公示は、全用途平均、住宅地、商業地のいずれも4年連続で上昇し、上昇幅も拡大した。商業地は、オフィス空室率の低下やインバウンド観光客の増加などで高い上昇率を示した地域が多い。工業地は、高速道路等へのアクセスが良好で労働力も確保しやすいエリアで高い上昇率となった。
不動産を売却した上場企業は減少したが、 10万平方メートル超の大型不動産の譲渡が増え、売却した土地の総面積は前年度から約1.6倍(前年度比57.5%増)に拡大した。
コロナ禍では、赤字補填やリモートワークなどの普及による働き方改革を理由とした売却が多かったが、その動きが落ち着き、上場企業の不動産売却は減少している。ただ、金利上昇などを背景に、大手を中心に設備投資を早める動きも一部でみられるため、今後は一進一退を繰り返しながら不動産売却の件数が増加に転じる可能性もある。