マレリが説明会、法的申請前の「債務履行」明言できず
6月11日にチャプター11を申請したマレリ(株)(TSRコード:291139833)は12日、取引先向け説明会をオンラインで開催した。ただ、取引先の全てが招かれたわけではなく、開催を聞きつけた取引先が参加をマレリ側に要請しても断わられるケースもあった。
参加者によると、説明会には日産自動車(株)(TSRコード:350103569)の購買部門の管掌者も参加した。ただ、倒産(法的申請)前の請求分の支払いに関する明確な説明がなく、チャプター11に至った経緯や今後の方針に内容は終始したという。
東京商工リサーチ(TSR)には、「あれほど腹立たしい(債権者向け)説明会は初めてだ」「日産は支援すると言っているが具体的な内容がなかった」「日産購買の同席はラインを止めるんじゃないぞ、取引を継続しろとのプレッシャーに感じた」など参加各社から不満の声が続々と寄せられている。マレリへの憤りだけではなく、日産への失望にも繋がっている。
参加者によると、オンライン説明会には200社前後が参加したようだ。マレリの代表取締役・藤井司氏と、副社長執行役員・小林秋司氏、購買本部VPの担当者が出席。日産の購買執行職も参加した。
冒頭、藤井代表がチャプター11申請に至った背景や目指している方向などを説明した。説明会への参加や支援のお礼の言葉はあったが、謝罪がないままスタートした。チャプター11については、「協議を重ねた結果、最終的に申請がベストと判断した」と説明。市場環境の想定を超えた変化が数年続く可能性があり、債務も減らず、財務基盤の強化も想定通りでなかったという。
申請の目的は、財務基盤の健全化と、日産などOEM先への納入を含むオペレーションの保全であることが強調された。申請により、裁判所の管轄下で事業を継続しながらレンダー(金融債権者)と協議を進めることができる点を重視したという。さらに、「主要レンダーの8割以上の同意を得た再建プランを確立し、包括的な負債の削減や金融支援の合意を得たプレパッケージの状態で申請できた」「チャプター11期間の運転資金も、DIPファイナンスを11億ドル(約1,600億円)確保のコンセンサスを得ており、十分な資金を準備した状態で申請した」と胸を張った。
また、マレリを巡って様々な報道が出たことについて、「深くお詫び申し上げる」と限定的な謝罪があったという。
藤井代表はさらに、「数カ月分の十分な流動性は担保できると想定している」とし、チャプター11の申請日、またはそれ以降の提供されたすべての製品やサービスに対しては通常通り支払いすると明言した。その上で、「オペレーションは通常通りに履行し、生産・調達に支障が生じることはなく、なるべく短い期間でプロセスを完了させ、健全な財務基盤に戻した状態で、さらなるOEMへの貢献やビジネスを継続したい」と参加者に理解と支援を求めた。
申請前の債務履行
続いて、購買本部の担当者が説明に立った。チャプター11申請により、申請前の請求の取り扱いはマレリの判断が制限されている旨を発言したという。確実な支払い履行への明言がないなか、説明会の画面上には「既にご提供された商品やサービスが未払いと思われる場合、請求手続きを含む法的手続きに関する追加情報を以下にて入手可能」と表示され、請求代理人のウェブサイトや電話、Eメールが案内された。
説明会の終了後、参加者はTSRの取材に対して「購買担当者よりお詫びがないので、倒産前の請求は支払われると理解したい」「裁判所の承認が必要とのことだが、承認されないことがあるのか説明がない」「未払いと思われる場合とは何を指すのか」と不満を隠さなかった。
日産、支援を表明も具体策の明示なし
オブザーバーとして参加した日産の購買執行職は、オペレーション・サプライチェーンの維持を前提とした手続きを開始した取り組みに感謝を示した。その上で、「日産としても安定した事業運営を維持できるようマレリを支援する。これは日産社内でも確認済み」と述べた。ただ、支援内容について、具体的な言及はなかった。
さらに現時点で経営陣の変更は考えていないという発言もマレリ側からあったという。
参加する取引先を限定した説明会を受け、関係先では情報開示に消極的との印象が広がっている。取引先のなかには、取引量やこれまでの交渉態度などが説明会への参加可否の判断材料になったと感じている企業もある。
参加者は、「チャプター11申請前の請求について、マレリで判断できないという無責任な説明だ。今後も大切だが、(倒産前の)請求分を支払うのか、支払えないのかを明言しないまま、取引継続を求める姿勢は納得できない」と憤りを隠さない。別の参加者は、「(チャプター11申請自体への)謝罪がなく、情報も足りない。不信感しか残らない説明会だった」と切り捨てる。
そのほか、「日産には丁寧に対応し、参加者への対応は軽視した態度にみえた」「安心できる説明会では一切なかった。質問を受け付けず、一方的に終わった」「マレリに決定権がなく、裁判所の判断待ちという点はわかるが、あの上から目線の説明態度は何様だ」などの声がTSRには次々と寄せられている。
マレリの親会社(マレリHD)の民事再生後も取引を継続した取引先の多くが、チャプター11申請前の請求が履行されるか気をもんでいる。不安が増す取引先への丁寧な説明と真摯な対応が今のマレリには必要だ。説明会の案内すら届かなかった債権者の憤りは当然だ。
サプライチェーンの維持は欠かせないが、それを人質にとったプレッシャーと感じる債権者もいる。支援を求める前に十分な説明が必要なことは言うまでもない。チャプター11申請時のプレスリリースには「チャプター11申請前に発生した債務については、お客様、サプライヤーやビジネスパートナーと協議し、支払条件に関する合意に達するよう努める」との記載がある。真意は何か。
マレリのオペレーションは、生きているのではなく、生かされているのだ。そのことを念頭に置いた対応が求めらている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年6月16日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)