事業再生研究機構がシンポジウム、「条件付保証」の有用性を共有
5月31日、事業再生研究機構はシンポジウム「経営者保証改革を実践する!」を都内で開催した。2016年に「経営者保証ガイドライン」の運用が始まり、22年3月には「廃業時における『経営者保証ガイドライン』の基本的考え方」が公表(23年11月改定)されるなど、経営者保証に拠らない融資慣行に向けた動きが活発だ。シンポジウムでは、さらなる取り組み加速に向けた検討成果が共有された。
事業再生に精通した弁護士や会計士、金融機関の担当者を中心にオンライン視聴も含め、約200名が参加し、議論を深めた。
「円滑な廃業」と支援パッケージ
過剰債務を抱える企業が高止まりし、企業倒産が増加に転じるなか、雇用の維持や個人(代表者)破産の回避を念頭においた「円滑な廃業」が企業支援のキーワードとして浮上している。
基調講演を務めた中小企業庁・坪内謙課長補佐は、今年3月公表の「再生・再チャレンジ支援円滑化パッケージ」で中小企業活性化協議会の再チャレンジ支援に関わる専門家費用の協議会負担部分が拡充されたことを紹介。その上で、「突然の破産は、事業者や保証人だけでなく、従業員や取引先など地域経済に大きな影響を与える。円滑な廃業、再チャレンジ支援を促進したい」との認識を示した。ただ、各地の協議会に駆け込んだ企業の代表者が廃業に忌避感を示すケースもある。こうした現状を念頭に、「今年4月に再チャレンジ事例集を公表した。(代表者が)決断できる環境を醸成したい。印刷して相談者に渡し、忌避感の回避につなげて欲しい」(坪内氏)と実務家に呼びかけた。
基調報告では、石川貴康弁護士(コンパサーレ法律事務所)は、「破産管財事件のなかで、経営者保証ガイドラインが使えるにも関わらず破産している保証人が少なくない」と課題を報告した。その上で、「金融機関と弁護士の双方が参加する研修や意見交換会はより良い実務を構築する上で有益だ」と提言した。
条件付保証と固有債務
円滑な廃業を強調せざるを得ないのは、融資に際して経営者が個人保証する慣行が長く続き、債務整理の局面で保証履行が生じるためだ。近年の官民挙げた取り組みにより、新規融資に占める保証なしの融資は増加傾向だが、「取り組みは道半ば」との声もある。
パネルディスカッションでは、保証徴求を抑制する具体策について意見が交わされた。四十山千代子弁護士(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)は、2023年10月に経営者保証改革研究会(有志)が公表した「挑戦する中小企業向け保証契約について」を紹介しながら、「過大なモニタリングコストを伴わない停止条件付、または解除条件付保証契約の実務への浸透が必要だ」との認識を示した。
また、宮原一東弁護士(桜通り法律事務所)は、「親切心で保証人に貸し付けた資金が事業資金に充てられているケースがある。こうした保証人の固有債務も整理しないと生活再建に繋がらない。“貸さない親切”の大切さを再確認する必要があると同時に、『廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方』の周知も必要だ」と述べた。
シンポジウムの内容は書籍化される予定。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年6月11日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)