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 「トランプ関税」 企業の52.3%が「マイナス」 「賃上げ見送り」や在庫調整、設備投資の減少も

2025年4月「トランプ関税」に関するアンケート調査


 4月2日、トランプ米大統領が「相互関税」の導入を発表し、9日午後に発動されたが、翌10日未明に一時停止が明らかになった。不透明感を増す中、日本への税率はすべての国に対する一律10%の基本税率と国別に課される追加関税を合計した24%、自動車関税25%で、自動車産業などの製造業を中心に影響が懸念されている。
 アンケート調査によると、 相互関税が「マイナス」と回答した企業は52.3%と半数を超えた。一方、「プラス」の回答はわずか1.3%にとどまり、規模・産業を問わず、経営への打撃を懸念する企業が多い。

 東京商工リサーチ(TSR)は4月1日~8日、企業対象のアンケート調査を実施した。
 産業別で「マイナス」の影響があると回答した企業は、製造業が64.4%で最多だった。次いで、卸売業56.4%、運輸業51.5%、農・林・漁・鉱業51.2%の4産業で半数を超え、輸出関連や流通を担う産業を中心に、幅広い産業に影響が広がる可能性を示唆している。
 相互関税への対応は、「特になし」が65.1%(951社中、620社)で最も多く、現時点では自社への影響を精査中の企業が多いようだ。
 すでに対応が具体化している企業では、「保有する原材料、仕掛品、在庫の量を減らす」が9.7%、「設備投資、拠点開設を取りやめる(縮小する)」が9.0%などがあった。
 また、賃上げや採用に弊害が出るとの回答もあり、業績への影響が表面化すると賃上げ抑制に動く企業が増える可能性もある。

 トランプ米大統領の相互関税に関連して、中国が報復関税を課す措置をとるなど、為替や株式市場が乱高下している。日本経済にも影響が広がることが確実で、行政や金融機関が企業とコミュニケーションをとり、寄り添った支援を行うことが必要になってくるだろう。

※ 本調査は、2025年4月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,372社を集計・分析した。Q2のみ、4月7日~8日に設問を追加した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を中小企業と定義した。



Q1.ドナルド・トランプ米大統領は日本を含め諸外国からの輸入品への関税引き上げの方針を示しています。アメリカの関税引き上げは貴社の業績にどのように影響しますか?(単一回答)

◇「マイナス」が52.3%で「プラス」1.3%を51.0ポイント上回る
 関税引き上げの影響を聞くと、「影響は生じていない」が46.2%(5,314社中、2,457社)でトップだった。規模別では、比較的内需型の企業が多い中小企業が46.9%(4,896社中、2,300社)で、大企業の37.5%(418社中、157社)を9.4ポイント上回った。
 次いで、「少しマイナス」が30.3%(1,610社)、「大いにマイナス」が22.0%(1,173社)で続き、「マイナス」回答を合算すると52.3%(2,783社)で半数を超えた。
 一方、「大いにプラス」の0.3%(19社)と「少しプラス」1.0%(55社)を合算した「プラス」回答は1.3%(74社)にとどまった。

Q1.アメリカの関税引き上げは貴社の業績にどのように影響しますか? ◇「マイナス」が52.3%で「プラス」1.3%を51.0ポイント上回る

【産業別】農・林・漁・鉱業、製造業、卸売業、運輸業で「マイナス」が5割以上

 産業別では、「マイナス」が最も高い産業は、製造業で64.4%(1,424社中、918社)だった。製造業は輸出企業も多く、自動車産業などを中心に関税上昇の影響が深刻だ。規模の大きい企業では、アジア諸国など他国に生産拠点を持つ企業も多く、高い関税が課せられる国についてはサプライチェーンの見直しを迫られる懸念も高い。
 次いで、卸売業が56.4%(1,045社中、590社)、運輸業が51.5%(227社中、117社)、農・林・漁・鉱業が51.2%(41社中、21社)と続き、上位4産業で「マイナス」が半数を超えた。
 「プラス」が最も高かった産業は、小売業で3.6%(273社中、10社)。次いで、不動産業(165社中、3社)と卸売業(1,045社中、19社)が各1.8%と続く。
 「プラス」が5%を超える産業は見られなかった。

【産業別】農・林・漁・鉱業、製造業、卸売業、運輸業で「マイナス」が5割以上

【業種別】「マイナス」上位10業種のうち8業種を製造業が占める

 産業を細分化した業種別(回答母数10以上)では、「マイナス」の最高が、非鉄金属製造業の83.3%(24社中、20社)。次いで、鉄鋼業が79.4%(39社中、31社)、ゴム製品製造業が79.1%(24社中、19社)で続く。
 上位9業種で「マイナス」が7割を超えた。なお、上位10業種のうち、8業種を製造業が占めた。
 「プラス」の最高は、飲食料品小売業の5.5%(36社中、2社)だった。
 次いで、その他の小売業5.4%(129社中、7社)、映像・音声・文字情報制作業5.2%(19社中、1社)、繊維工業4.1%(48社中、2社)が続く。
 「プラス」の割合が1割を超えた業種はなかった。

業種別(上位)左:「大いにマイナス」「少しマイナス」 右:「大いにプラス」「少しプラス」

Q2.トランプ大統領の相互関税にどう対応しますか?貴社がグローバルで展開している場合は、国内法人について回答ください。(複数回答)※4月7日~8日に回答を募集

◇「特になし」がトップ、次いで「保有する原材料、仕掛品、在庫の量を減らす」
 トランプ大統領の相互関税への対応について聞き、951社から回答を得た。
 構成比の最高は、「特になし」の65.1%(620社)だった。10産業すべてで構成比が最高となった。導入の発表直後のため、自社への影響を精査している企業が多く、現時点では対応を決めかねている企業が多いようだ。
 何らかの対応を行うとした企業では、「保有する原材料、仕掛品、在庫の量を減らす」が9.7%(93社)、「設備投資、拠点開設を取りやめる(または規模を縮小する)」が9.0%(86社)で構成比が高い。
 為替に関しては、社内の想定為替レートを「円高方向に見直す」とした企業が5.3%(51社)で、「円安方向に見直す」の1.0%(10社)を4.3ポイント上回った。
 金融機関からの借り入れは、「減らす」が5.6%(54社)で、「増やす」の3.5%(34社)を2.1ポイント上回った。借入を増やして資金繰りを維持したい企業よりも、過剰債務や返済不能リスクを軽減する意向の企業が多いようだ。
 このほか、「今年度の賃上げを取りやめる」2.7%(26社)、「来年度の賃上げを見送る」4.8%(46社)と、賃上げの実施に弊害が出るとした企業もある。

Q2.トランプ大統領の相互関税にどう対応しますか?◇「特になし」がトップ、次いで「保有する原材料、仕掛品、在庫の量を減らす」

Q3.トランプ大統領の今後の政策で注目することは何ですか?自社の業績への影響の観点で回答ください。(複数回答)

◇政策の注目点は「関税政策の在り方」が54.7%でトップ
 トランプ大統領の政策で注目することを聞き、5,372社から回答を得た。米国大統領の政策については2024年8月、10月、12月に続いて4回目のアンケートとなる。
 構成比の最高は、「関税政策の在り方」の54.7%(2,942社)だった。産業別では建設業、製造業、金融・保険業、不動産業、運輸業、サービス業他の6産業で構成比が最高となった。
 次いで、「通貨・為替政策の在り方」が52.4%(2,816社)、「台湾有事を含めた中国との関係性」が46.0%(2,476社)と続く。上位2項目で構成比が50%を超えた。
 4月3日にトランプ大統領が「相互関税」の導入を発表したことが大きな話題となっており、12月調査と同様に、関税政策や通貨への関心が高かった。
 次いで、地政学リスクに関連した、中国やロシアとの関係性への関心が高い。
 今回新たに項目に追加した「日本独自の規制など非関税障壁への対応方針」は28.3%(1,524社)と、約3割の企業が関心を示した。
 「その他」では、「トランプ氏の政策実施による目まぐるしい環境変化に適応できるか」や「関税などが日本の消費税に影響を与えるか」、「USスチールの動向」などに関心を寄せる意見があった。


Q3.トランプ大統領の今後の政策で注目することは何ですか?◇政策の注目点は「関税政策の在り方」が54.7%でトップ

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