• TSRデータインサイト

「雇調金等」の不正受給、倒産発生率29倍に激増 コンプライアンス違反のツケ、大きく信用失墜

 コロナ禍で休業や営業縮小を余儀なくされた事業主に対し、従業員の雇用を維持するための雇用調整助成金等(以下、雇調金等)の不正受給が相次いで発覚している。不正受給額100万円超の悪質な事業所名は、各都道府県労働局が社名を公表している。
 東京商工リサーチが2025年2月末までに集計した全国の公表数は1,620件に達する。
 このうち、倒産した企業は2月末までで92社で、不正受給した企業の5.6%を占める。これは2024年の全企業の倒産発生率 0.19%の29.4倍と異常にハネ上がる。


最大の倒産は結婚式場の(株)アルカディア

 雇調金等を不正受給した企業のうち、2月までに最大の倒産は2024年2月に破産申請した旅館経営の(株)長榮舘(TSRコード:170046001、岩手県)で負債総額は28億7,400万円だった。次いで、2023年12月に会社更生法を申請した東証スタンダード上場の衣料品卸、(株)プロルート丸光(TSRコード:570194873、大阪府)の同27億300万円。
 倒産した92社は、負債1億円未満の小規模事業者が48件と半数(構成比52.1%)を占めている。産業別では、最多はサービス業他の44件(同47.8%)で、飲食業や旅行業などコロナ禍に打撃を受けた業種が目立つ。
 倒産に至る経緯は、雇調金等の不正受給発覚がダメ押しするケースが少なくない。不正受給した助成金の返還に加え、延滞金の納付や取引先からの信用失墜などで金融機関の信用を失い、資金繰りに窮する企業が多い。

 2025年2月に事業を停止し、3月21日に破産開始決定を受けた(株)アルカディア(TSRコード:930096622、福岡県、結婚式場運営)は、負債53億7,000万円で負債総額の記録を塗り替えた。雇調金等10億1,800万円を不正受給し、前社長らが詐欺容疑で逮捕された。突然の事業停止で結婚式を挙げられなかったカップルは100組を超え、全国的に混乱が報じられた。

雇調金等不正受給公表企業 主な倒産


 「雇調金等」を不正受給した企業が倒産すると、助成金が全額返還されない事態も起きる。不正受給が公表される前の倒産は36件(39.1%)と約4割に及ぶ。
 雇調金等は、事業主と従業員の双方が負担する雇用保険料で、事業主負担分を積み立てた「雇用安定資金」が主な財源だ。公平性の観点から“逃げ得”は許されない。
 コロナ禍から5年を経過するが、不正受給の調査は今後も継続される。不正受給に手を染めたきっかけは様々でも、社名公表で信用失墜した報いは避けられない。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年4月1日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

M&A総研の関わりに注目集まる資金流出トラブル ~ アドバイザリー契約と直前の解約 ~

東京商工リサーチは、M&Aトラブルの当事者であるトミス建設、マイスHD、両者の株式譲渡契約前にアドバイザリー契約を解約したM&A総合研究所(TSRコード: 697709230、千代田区)を取材した。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業、中高年の活用に活路 「早期・希望退職」は大企業の2.8%が実施

 「早期希望・退職」をこの3年間実施せず、この先1年以内の実施も検討していない企業は98.5%だった。人手不足が深刻化するなか、上場企業の「早期・希望退職」募集が増えているが、中小企業では社員活用の方法を探っているようだ。

3

  • TSRデータインサイト

【解説】秀和システムの法的整理、異変察知は「船井電機より前」

(株)秀和システム(TSRコード:292007680、東京都)への問い合せは、船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の破産の前後から急増した。ところが、あるベテラン審査マンは「ERIが弾けた時からマークしていた」と耳打ちする。

4

  • TSRデータインサイト

1-6月の「訪問介護」倒産 2年連続で最多 ヘルパー不足と報酬改定で苦境が鮮明に

参議院選挙の争点の一つでもある介護業界の倒産が加速している。2025年上半期(1-6月)の「訪問介護」の倒産が45件(前年同期比12.5%増)に達し、2年連続で過去最多を更新した。

5

  • TSRデータインサイト

2023年度「赤字法人率」 過去最小の64.7% 最小は佐賀県が60.9%、四国はワースト5位に3県入る

国税庁が4月に公表した「国税庁統計法人税表」によると、2023年度の赤字法人(欠損法人)は193万650社だった。普通法人(298万2,191社)の赤字法人率は64.73%で、年度集計に変更された2007年度以降では、2022年度の64.84%を下回り、最小を更新した。

TOPへ