• TSRデータインサイト

企業の物価高 直近1年で総コストは平均2割上昇、価格転嫁は上昇分の1割

20252月「物価高・価格転嫁に関するアンケート」調査


 全国の2月のレギュラーガソリン価格が185円/ℓ(経済産業省)など、エネルギー価格や物価の上昇が止まらない。為替も乱高下し、物価高の先行きが不透明ななか、企業の約9割(86.1%)が総コストが1年前より上昇したと回答した。
 コスト上昇分を販売価格に転嫁できた企業は、78.8%(3,056社中、2,409社)で8割に迫る。ただ、レンジ別では27.8%(850社)の企業が、コスト上昇分の「1割以上2割未満」の転嫁にとどまっている。また、価格転嫁できていない企業が21.1%(647社)あり、コスト上昇への対応はまだ不十分な実態がうかがえる。
 
 賃上げと価格転嫁の相関関係もみえてきた。価格転嫁できた企業ほど賃上げに積極的なこともわかった。政府は価格転嫁サポート窓口を設置しているが、受注企業が自ら積極的な価格交渉をできる環境作りが重要だ。価格転嫁によって賃上げ原資を確保できるかが企業の生き残りのカギとなっている。

※本調査は2025年2月3~10日にインターネットによるアンケート調査を実施。有効回答4,103社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
※賃上げについては、2月20日リリースの2025年2月「賃上げ」に関するアンケート調査を参照。



Q1.物価高や人件費高騰、円安の影響などによって、貴社の総コスト(原価・販売管理費)は1年前と比較して何割上昇していますか?

◇「上昇した」が約9割


 総コストが前年より上昇した企業は86.1%(4,103社中、3,536社)だった。
 レンジ別上昇幅は、「1割以上2割未満」が35.4%(1,453社)で最多。次いで、「2割以上3割未満」が25.4%(1,043社)、「上昇なし」が13.8%(567社)と続く。
 規模別は、「1割以上2割未満」は大企業49.3%(235社中、116社)、中小企業34.5%(3,868社中、1,337社)だった。 
 「2割以上3割未満」は、大企業20.0%(47社)、中小企業25.7%(996社)で、中小企業が上回った。


産業別 コスト上昇の回答は運輸業が9割超で最多

 上昇した回答が最も多かったのは運輸業の93.3%(150社中、140社)、最低は金融・保険業の68.7%(48社中、33社)だった。レンジ別では10産業すべて、「1割以上2割未満」が最も多く、情報通信業は全産業平均の35.4%を上回る44.1%だ。

Q2.総コスト増加のうち、何割を価格転嫁できていますか?

◇「価格転嫁できず」は21.1%

 総コストを価格転嫁できていると回答したのは78.8%(3,056社中、2,409社)だった。しかし、レンジ別では、「1割以上2割未満」が27.8%(850社)と最も多く、次いで「価格転嫁できていない」が21.1%(647社)と続く。
 規模別では、「2割以上」の価格転嫁ができている大企業は59.7%(169社中、101社)である一方、中小企業は50.5%(2,887社中、1,458社)だった。



 直近1年で上昇した総コストの平均値は2.1割、中央値は2割だった。一方、価格転嫁ができていても、「1割以上2割未満」が最多だった。
 TSRが2月20日にリリースした2025年2月「賃上げ」に関するアンケート調査によると、賃上げを実施すると回答した企業は85.2%(5,278社中、4,498社)、「実施しない」と回答した企業は14.7%(780社)だった。これと価格転嫁の相関関係をみると、賃上げを実施する企業のうち、価格転嫁ができていない割合は17.3%(2,365社中、411社)にとどまった。一方で、賃上げを実施しない企業のうち、3割超(36.4%)が価格転嫁できていないと回答した。
 公正取引委員会は、下請法勧告一覧を公開しており、勧告数は2022年度が6件、2023年度は13件、2024年度は16件(2025年2月20日現在)となった。また、下請法及び優越的地位の濫用に関する相談件数は、2022年度に1万6,101件、2023年度に2万1,017件と急増しており、値上げしにくい背景がうかがえる。
 取引構造にメスを入れて適性価格が実現できる商慣習作りは欠かせず、公正取引委員会などは「下請け」の名称の見直しにも取り組むが、官が過度に主導する価格転嫁には危うさもある。
 価格転嫁がしにくい背景は、取引構造や商慣習だけなのか、自社の商品やサービスが競争力を失い、代替可能性が高まっている恐れはないのか。高い価格でも受け入れられる努力を欠かすことはできない。


人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ