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特報・船井電機にふたつの「代表印」、臨時株主総会の開催に疑義

 破産手続き中の船井電機(株)(TSR企業コード:697425274)の周辺が依然として騒がしい。
 登記上の代表者らが申し立てていた破産に対する抗告は2024年12月26日、却下・棄却された。争点だった株主総会における役員改選について、裁判所は代表印の相違や部屋の予約状況などから株主総会が開催されたとは認め難いと判断した。
 東京商工リサーチ(TSR)は、これに関する決定書を独自入手した。



 船井電機を巡っては、2024年10月24日、取締役の1人で破産申立人が東京地裁へ準自己破産を申請し同日、破産開始決定を受けている。開始決定を受けた場合、通常であれば粛々と手続きが進行し、会社は清算される。
 しかし、9月27日に船井電機の代表取締役に登記上就任(登記日は破産後の11月14日)した原田義昭氏と、船井電機の親会社であるFUNAI GROUP(株)(旧商号:船井電機・ホールディングス(株)、TSR企業コード: 570182948)(以下、抗告人FUNAIG)は10月29日、破産開始決定の取り消しを求める即時抗告を東京高裁に申し立てた。さらに12月2日、原田氏は東京地裁に船井電機の民事再生法を申し立て2025年1月6日、調査委員が選任された。「破産開始決定」と「即時抗告」、「民事再生」が入り乱れる異例の展開だ。
 こうしたなか即時抗告に動きがあり、東京高裁は12月26日、原田氏の抗告は不適法であるから却下すべきのものであり、抗告人会社の抗告は理由がないから棄却すべきもの、と判断をした。

原田氏の即時抗告

 東京高裁の決定書によると、原田氏の主張は以下の4点だ。
  ア.原田氏は、船井電機の2024年9月27日の臨時株主総会で船井電機の取締役に選任されており、破産開始決定の利害関係を有する。
  イ.破産申立人は、10月15日に船井電機の取締役を解任されている。破産申立は、取締役でないものによってなされたもので不適法である。
  ウ.船井電機は既存事業の売却などで資金調達が可能であり、債務超過及び支払不能ではない。
  エ.破産申立人は、不当な目的で申立を行い、破産障害事由がある。

裁判所の判断

 原田氏の主張に対し、東京高裁は抗告棄却を決定した。TSRが入手した資料によると、争点となったのは、原田氏が破産法9条(不服申立て)の「利害関係を有する者に該当するか」だ。
 原田氏は、2024年9月27日付で船井電機の取締役及び代表取締役に就任し、2025年1月14日現在閲覧可能な商業登記でも変更はない。この変更(就任)登記は2024年11月14日にされた。
 変更登記申請に添付された臨時株主総会の議事録では、9月27日10時~10時30分まで船井電機の本店会議室で総会が開催され、代表取締役(当時)であった上田智一氏、取締役(同)の破産申立人(相手方)、M氏、S氏ら9名が出席し、同日で辞任する旨が申出されている取締役の後任として、原田氏ほか2名が取締役として選任する議案が満場一致で可決した、としている。
 しかし、裁判所は、破産申立人やS氏が臨時株主総会に出席した事実や招集がされた事実はなかったほか、同時刻には船井電機の本店会議室に本件の予約が入っていなかったことが認めることができるとし、「本件臨時株主総会議事録によって、本件臨時株主総会の開催があったものとは認め難い」と指摘。原田氏の出席者や実際の総会の経過など「具体的な事実関係の主張立証をせず」として臨時株主総会の開催状況について明らかではないといわざるを得ないと判断した。


船井電機(大阪)
船井電機(大阪)

 また、裁判所は、2024年9月27日に原因が生じたとする原田氏の取締役就任に関する変更登記が同年11月14日まで行われなかったことについて、原田氏から合理的な説明がされているとはいい難いことなども併せて考慮し、「臨時株主総会が開催されたということは困難であるというほかならない」と指摘した。
 結果、原田氏が船井電機の取締役であることに疑義があるとし、「利害関係を有するものにあたると認めることが出来ない」とし、原田氏の申立を却下した。
 また、債務超過及び支払不能について、資金調達やその見込を認める事実関係を認定できず、2024年11月5日時点で現預金は約5億4,000万円にとどまるため支払不能が認められると判断した。

抗告人会社の抗告について

 抗告人FUNAIGについて、裁判所は船井電機の債権者一覧表上に債権者として掲げられており、少なくとも原決定につき利害関係を有すると判断している、抗告人FUNAIGの主張は以下の2点だ。

  ア.抗告人FUNAIGは船井電機の完全親会社で船井電機のために50億円の資金を準備していたので、船井電機は支払不能ではなく、船井電機が債務超過であるという事実もない。
  イ.破産申立人は、不当な目的で本件申立を行い、破産障害事由がある。

裁判所の判断

 争点の1つは、船井電機の破産を申立(申請)した取締役が、申立時点でも取締役だったのかどうかだ。
 商業登記によると、破産申立人及びS氏は10月15日付で船井電機の取締役をいずれも解任されている。この変更登記は同年11月14日付だ。裁判に提出された資料によると、解任は株主総会議事録に記載されている。議事録作成者は、船井電機の代表取締役となった原田氏だ。
 しかし、破産申立人及びS氏は、10月16日、船井電機の経営企画部担当者より、同月29日開催の経営会議についての参加案内メールを受信し、取締役として会議への参加を求められたほか、S氏は、船井電機の取締役として10月17日、船井電機のグループ会社の緊急融資の件に関する協議書に押印したとの証拠から、裁判所は、解任された10月15日以降も、取締役として業務執行し、船井電機の内部も両名を取締役として認識していたというべきであると判断した。
 さらに、解任や代表就任が決まった株主総会議事録の記載を裁判所が認めなかった理由もTSRが入手した裁判資料には記載されている(以下要約)。

 株主総会議事録として、原田氏が代表者としてした船井電機の代表印に係る押印部分の印影は、船井電機の10月17日時点の法務局届出印の印影とは一致しない。


異なる印影

 裁判所は、印影が一致しないことを考慮し、「10月15日付の株主総会議事録は、後日、日付を遡らされ作成された疑いがあるものと言わざるを得ない」と指摘。そのため、破産申立人及びS氏が「解任」されたと認めることができないとし、破産申立人は破産申立日の10月24日時点で、船井電機の取締役であり、「破産申立は適法に認めることが相当」として、抗告人FUNAIGの抗告を棄却した。
 裁判の証拠として添付されている株主総会議事録の印影と、印鑑証明書の印影を確認すると、確かに全く異なる。
 この点について、船井電機の破産管財人の調査によると、少なくとも10月17日までは、破産申立当時、本店経理部の金庫に保管され、破産開始決定後に破産管財人が保管している印章が10月17日までの登記所届出印(実印)として登録されていた印章だったが、10月18日以降、何者かによって届出印が変更されているという。

抗告人原田氏のコメント

 12月27日、原田氏は報道陣へ書類を送付し、「このような脆弱な根拠で、当方の主張が否定されたことは、極めて遺憾であり、上訴も視野に入れると同時に、従来どおり民事再生に向けて全力を注ぎ努力していきたい」とコメントした。




(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年1月17日号掲載「取材の周辺」を再編集)

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