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「美容室」の倒産 107件で過去最多を更新 新規開店に加え、物価高・人手不足が経営を直撃

2024年1-11月「美容業」の倒産状況


 コロナ禍で痛手を受けた美容室の倒産が、最悪ペースで増加中だ。2024年1-11月の美容室の倒産は、107件(前年同期比37.1%増)に達し、すでに2000年以降で年間最多の2019年(105件)を超えた。
 対面サービスが基本の美容室は、コロナ禍では感染リスク回避で利用控えが広がったが、コロナ関連支援策に支えられ、倒産は2020年78件、2021年65件、2022年70件と落ち着いて推移していた。
 しかし、2023年は各種支援策が相次いで縮小・終了したことに加え、円安加速でシャンプーなどの美容資材、水道や光熱費、美容師確保のための人件費など、“3重・4重の高騰”に苦しめられて倒産が急増。2024年は、さらに新規出店増もあって顧客の奪い合いが激しさを増し、倒産は過去最多を塗り替えている。

 美容室は、美容師の資格があれば開業でき、もともと参入ハードルは低い。厚生労働省が10月29日に公表した「令和5年度 衛生行政報告例」によると、2023年度末の美容所数は27万4,070施設で、2022年度末の26万9,889施設を4,181施設(1.5%増)上回り、過去最多となった。
 だが、開業してもし烈な競争が待ち受けている。店舗デザインや仕上がり、接客態度、価格設定など、さまざまな要素で高い顧客満足度を求められる。さらに、顧客はクーポン付き紹介サイトなどで割安な新規店を探し、顧客ニーズの多様さも定着率の低さに拍車をかけている。
 人手不足も深刻で、人気スタイリストの引き留めだけでなく、新人が一人前のスタイリストに成長する前に辞めてしまうケースも多い。このため、人件費の負担は増す一方になっている。
 美への意識は女性だけでなく、男性でも高まっている。だが、原材料や人件費が上昇しても料金の値上げは顧客離れにつながりかねず、技術と価格に見合う差別化が難しくなっている。

※本調査は、日本標準産業分類の「美容業」の倒産(負債1,000万円以上)を集計、分析した。


美容業の倒産 年次推移


原因別は、最多が「販売不振」の97件(構成比90.6%)で9割を占めた。次いで、「他社倒産の余波」が3件、「事業上の失敗」と「既往のシワ寄せ(赤字累積)」が各2件で続く。

形態別は、最多が「破産」の96件(構成比89.7%)。「特別清算」2件と合わせ、消滅型が98件(同91.5%)だった。一方、再建型の民事再生法は8件。このほか、取引停止処分が1件発生した。美容室は顧客ニーズへの対応が重要で、信用を棄損した美容室の再建は難しいようだ。

資本金別は、「1百万円以上5百万円未満」が44件、「個人企業他」が42件の順。「1百万円未満」6件を含め、5百万円未満が92件(構成比85.9%)で、美容室倒産の約9割を小・零細規模が占めた。一方、5千万円以上は発生がなかった。

負債額別は、「1千万円以上5千万円未満」が93件(構成比86.9%)で約9割を占めた。このほか、 「5千万円以上1億円未満」が10件、「1億円以上5億円未満」が4件だった。

従業員数別は、「5人未満」が93件(構成比86.9%)で最多。「50人以上300人未満」が1件発生したが、これ以外はすべて従業員20人未満で、小・零細規模の店舗の苦境が目立つ。

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