全国の三セク鉄道 売上高トップは 「つくばエクスプレス」 三セク鉄道の約9割が輸送人員増も、6割が経常赤字
2023年度 「全国第三セクター鉄道61社」経営動向調査
全国の第三セクター鉄道運営会社(以下、三セク鉄道)は、コロナ禍を経て9割が売上を伸ばした一方で、6割が経常赤字から抜け出せず、地域によって明暗を大きく分けたことがわかった。
三セク鉄道61社の2023年度(2023年4月期~2024年3月期)の業績は、55社(構成比90.1%)が前年度から増収だった。ただ、経常赤字は37社で6割(同60.6%)と半数を超えた。
特に旧国鉄から分離され、赤字路線などを承継した「旧国鉄転換型」の三セク鉄道の経営は深刻で、経常赤字が30社中、27社と9割にのぼる。コロナ禍で落ち込んだ観光需要も急回復し、各社とも輸送人員の増加が目立つが、本業だけでは黒字化が難しい構造的な問題を抱えている。
三セク鉄道の売上高(営業収入)トップは、東京・千葉・茨城を走る「つくばエクスプレス」を運営する首都圏新都市鉄道(TSR企業コード:294028587、東京都千代田区)の452億3,500万円だった。2位以下も首都圏や近畿圏などの「都市型三セク鉄道」が上位を占めた。都市型三セク鉄道は沿線の人口増やインバウンド需要を確実に取り込むが、先行投資の回収も課題に浮上し、債務超過の3社はいずれも都市型三セク鉄道だった。
※第三セクター鉄道は、地方公共団体と民間事業者との共同出資で設立された法人。このうち、国鉄民営化に伴い、旧国鉄から分離され赤字路線などを継承した「旧国鉄転換型」、私鉄や新幹線開通後の路線を転換した「私鉄・新幹線転換型」、大都市圏を中心に開業した「都市型三セク鉄道」の3分類が対象。
※第1種鉄道事業者及び第2種鉄道事業者が対象、鉄道施設の保有のみ行う第3種鉄道事業者、貨物専業の第三セクター鉄道は対象外。
※2023年度及び2022年度の決算を公表している旧国鉄転換型(30社)、私鉄・新幹線転換型(11社)、都市型三セク鉄道(20社)の計61社が対象。
都市型三セク鉄道の業績回復が顕著
三セク鉄道61社の2023年度の売上高合計は2,329億4,500万円(前年度比9.3%増)で、198億7,200万円の増収だった。1社あたりの平均輸送人員は1,487万9,000人(同9.3%増)で、前年度から127万人増加し、売上高と同水準の伸びをみせた。コロナ禍で停滞した人流の回復に加え、インバウンドを含めた観光需要が寄与したとみられる。
三セク鉄道を3分類すると、売上高では都市型三セク鉄道が1,856億2,800万円(同9.4%増)で、三セク鉄道全体の約8割(79.6%)を占めた。売上高は旧国鉄転換型の12倍、私鉄・新幹線転換型の約6倍にのぼり、輸送人員もケタ違いに多い。もともと人口の多い都市圏で展開し、沿線開発による人口増が追い風となり利用者の拡大につなげている。
一方、旧国鉄転換型は売上高152億4,300万円(前年度比9.6%増)、輸送人員平均126万人(同8.9%増)といずれも伸長したが、損益面は56億6,600万円の経常赤字だった。旧国鉄転換型は営業キロ数では都市型三セク鉄道の4倍にも達する。もともと不採算路線を分離継承した経緯もあり、多くは過疎化が進む地域を拠点にしている。このため、株主である自治体からの援助なしでは経営が成り立たず、採算割れの厳しい経営が続いている。
旧国鉄転換型、9割が経常赤字
社数を比較すると、都市型三セク鉄道(20社)は、売上高では北総鉄道(千葉県鎌ケ谷市)の1社を除き19社が増収だった。輸送人員は判明した16社すべてが増加した。北総鉄道は2022年10月に実施した運賃値下げ効果で輸送人員は伸びたが、顧客単価の下落などが影響して減収に転じた。
私鉄・新幹線転換型(11社)は、売上高は全社が増収で、輸送人員も判明9社中8社が増加したが、経常赤字の比率は81.8%(11社中9社)に達し、採算割れ企業が目立った。
旧国鉄転換型(30社)は売上高の増収が30社中25社、輸送人員の増加も30社中24社といずれも8割に達したが、経常赤字は30社中27社と9割に達し、難しい経営が続いている。
売上高、経常利益ともに都市型三セク鉄道が上位を独占
売上高トップは、「つくばエクスプレス」を運営する首都圏新都市鉄道の452億3,500万円(前年度比10.7%増)。秋葉原~つくば間58.3kmを結ぶ同路線は、2005年の開業以来、沿線開発が進んで輸送人員を伸ばした。コロナ禍が深刻だった2021年3月期の売上高は348億1,800万円まで落ち込み、大幅赤字を計上した。だが、その後は回復し、コロナ禍前の468億500万円(2020年3月期)には及ばないものの、業績回復が鮮明となっている。
2位は、東京臨海高速鉄道(りんかい線)の179億2,700万円。以下、東葉高速鉄道、北総鉄道、横浜高速鉄道と続き、トップ10社すべてを都市型三セク鉄道が占めた。大都市圏はもともと利用者が多いうえに、沿線の宅地開発などで人口増が続く路線が上位を占めている。
また、前年度との比較で売上高上位10社中、最も高い伸びを見せたのはゆりかもめ(東京都江東区)で、約3割(28.1%増)の増収となった。同社も2021年3月期は半減以下の売上高44億7,700万円にまで落ち込んだ。その後は急回復し、2020年3月期(売上高107億1,600万円)以来、4年ぶりに売上高100億円台を達成した。お台場、豊洲市場などの人気観光スポットを抱え、インバウンド需要も取り込んでさらなる業績拡大も見込まれる。
経常利益でも売上高ランキングと同じ傾向で、トップ10を都市型三セク鉄道が占めた。利用客の増加が投資効率に影響し、収益力の違いを見せつけた格好となった。
経常赤字ワースト 10社中8社は旧国鉄転換型
経常赤字額のワーストは、私鉄・新幹線転換型の肥薩おれんじ鉄道(熊本県八代市)で、▲8億7,900万円の経常赤字だった。九州新幹線開業で、JR九州から移管された八代~川内間の116.9kmを結ぶ。2023年度の輸送人員はコロナ禍前に迫る100万人超えを達成したが、損益は開業以来、29年連続の経常赤字だった。
次いで、三陸鉄道(宮古市)の▲6億6,700万円。営業キロ数は三セク鉄道で最長の163.0kmを誇り、震災復興のシンボル的存在だが、経常赤字からの脱却は難しい。
なお、2023年度決算で経常黒字だった旧国鉄転換型の三セク鉄道は、智頭急行(鳥取県智頭町)、南阿蘇鉄道(熊本県高森町)、信楽高原鐵道(甲賀市)の3社だった。
自己資本比率平均38.6% 都市型3社が債務超過
自己資本比率は、全社平均38.6%だった。レンジ別では、20~30%台が16社(構成比26.2%)で最多。以下、0~10%台が14社(同22.9%)、40~50%台が13社(同21.3%)と続く。
3分類の自己資本比率は、旧国鉄転換型が平均40.9%、私鉄・新幹線転換型が同36.3%、都市型が同36.5%だった。旧国鉄転換型は、分離の際に旧国鉄清算事業団を通じ国からの転換交付金のほか、自治体からの補助金や増資等で比較的厚い自己資本を保有している。
2023年度末の債務超過は、仙台空港鉄道(宮城県名取市)、広島高速交通(広島市安佐南区)、沖縄都市モノレール(那覇市)で、3社とも都市型三セク鉄道だった。
コロナ禍は、移動制限や観光需要の消失を引き起こし、三セク鉄道の業績に多大な悪影響を及ぼした。旧国鉄転換型や都市型を問わず、売上はコロナ禍前から半減し、大幅赤字を計上した三セク鉄道は多い。だが、コロナ禍も落ち着き、都心部に拠点を置く都市型三セク鉄道はインバウンド需要も取り込み、業績回復が顕著になっている。
その一方で、旧国鉄転換型や私鉄・新幹線転換型の三セク鉄道は、改善の兆しはあるものの、慢性的な赤字体質からは脱却できていない。これらの三セク鉄道は社会インフラ維持を目的に、赤字路線を継承した歴史的経緯もあり、採算だけを基準に同列に評価はできない。ただ、財務がぜい弱な自治体は三セク鉄道への補助金が財政圧迫を招く可能性もあり、過疎化と少子高齢化に地域振興、財政負担のジレンマが複雑に絡んで難しい舵取りを求められている。
国土交通省によると、2000年度以降で廃止された鉄軌道路線は三セク、民間含め全国で47路線、営業キロ数は1,275.3kmに及ぶ。近年は、JR北海道管内の不採算路線で廃線が相次いだ。
三セク鉄道の廃線は、2008年12月の高千穂鉄道(宮崎県)以来、発生していない。だが、経営改善プロジェクトや存続の可否を含めた検討会は各地で起きている。補助金依存から抜け出し、自立経営を含めた最適な資源配分が俎上に乗ることも予想される。こうした議論を交えながら、三セク鉄道経営はこれまで以上に真価を問われることになりそうだ。