• TSRデータインサイト

企業が恐れる「連鎖倒産」が急増、過去は景気後退のシグナル

 8月の企業倒産は、29カ月ぶりに前年同月を下回った。資材や燃料代の上昇が激しかった運輸業や建設業など一部で価格転嫁が緩やかに進み、その効果がジワリと出た格好だ。だが、28カ月連続で倒産が増加したシワ寄せで、「連鎖倒産」が過去10年で最多ペースを呼び込んでいることがわかった。



 2024年1-8月の連鎖倒産は、370件に達した。前年同期は288件で、約3割(28.4%増)の増加だ。連鎖倒産の最多記録は1998年の1,390件で、これに比べ約7割(73.3%減)少ないが、コロナ禍で急減した連鎖倒産が再び増勢を強めていることは注意が必要だ。
 現在の連鎖倒産は、コロナ禍や物価高で体力が疲弊したところに、親会社や取引先の倒産が直撃し、事業継続を断念するケースが目立つ。連鎖倒産が増加する時期は、これまで景気後退局面(リセッション)が多かった。果たして、2024年の連鎖倒産増は異変の前の静けさなのか。


連鎖倒産と景気後退

 東京商工リサーチの倒産集計は、1952(昭和27)年から開始した。今は国内唯一の一貫基準で集計されたデータとして、政府や日銀、官公庁でも採用されている。
 倒産原因は、「販売不振」や「既往のシワ寄せ」、「過小資本」など、10区分される。その1つに連鎖倒産を示す「他社倒産の余波」がある。
 連鎖倒産は、親会社や取引先が倒産し、焦げ付きなどで連鎖的に行き詰まるケースが対象になる。「日本列島総不況」と呼ばれ、倒産が年間1万8,988件発生した1998年に過去最多の1,390件を記録した。ITバブル崩壊の2002年は1,212件、リーマン・ショックの2008年は770件発生し、連鎖倒産は、リセッションと同じ動きをみせていた。
 2024年1-8月の370件のうち、負債1億円未満は247件で、約7割(構成比66.7%)を占めた。一方で、負債10億円以上の大型倒産も16件(同4.3%)発生している。
 形態別では、破産が314件(同84.8%)で、再建型の民事再生法と会社更生法は計28件(同7.5%)にとどまる。

 「連鎖倒産」件数推移(1-8月)



 8月は倒産が減少したが、1-8月累計は6,607件(前年同期比18.8%増)に達し、物価高や人件費上昇なども継続している。この勢いで推移すると、倒産は11年ぶりに年間1万件も視野に入っている。
 さらに、今後は金利上昇や、最低賃金の引き上げに伴う収益悪化も見込まれる。
 連鎖倒産の増加の先には、何が待っているのか・・・。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年9月13日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

私立大学の経営、売上トップは(学)順天堂 赤字企業率5割に迫る、損益は地域格差が鮮明に

私立大学を経営する全国の543法人のうち、約半数の253法人が2024年決算で赤字だった。赤字企業率は46.5%にのぼり、前期(40.8%)から5.7ポイント上昇し、5割に迫った。

2

  • TSRデータインサイト

企業倒産、破産の割合が9割超で過去最大 ~ 背景に「手形減少」と「準則型私的整理」 ~

企業倒産のうち、破産の構成比が90.3%に達し、過去最大を記録した。民事再生法はわずか2.2%にとどまる。破産は、売上不振や財務内容が悪化し、再建が見通せない企業が選択する。なぜ今、破産の構成比が高まっているのか――。

3

  • TSRデータインサイト

リフォーム・塗装工事の倒産が急増 ~ 点検商法などのトラブル多発 ~

リフォーム・塗装工事の倒産が急増している。2025年上半期(1-6月)の倒産は119件に達し、過去20年で最多だったリーマン・ショック後の2009年同期の111件を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

M&A総研の関わりに注目集まる資金流出トラブル ~ アドバイザリー契約と直前の解約 ~

東京商工リサーチは、M&Aトラブルの当事者であるトミス建設、マイスHD、両者の株式譲渡契約前にアドバイザリー契約を解約したM&A総合研究所(TSRコード: 697709230、千代田区)を取材した。

5

  • TSRデータインサイト

1-6月の「人手不足」倒産 上半期最多の172件 賃上げの波に乗れず、「従業員退職」が3割増

中小企業で人手不足の深刻な影響が広がっている。2025年上半期(1-6月)の「人手不足」が一因の倒産は、上半期で最多の172件(前年同月比17.8%増)に達した。

TOPへ