企業のカスハラ対策に遅れ、未対策が7割超 「カスハラ被害」で従業員の「休職・退職」 13.5%の企業で発生
「企業のカスタマーハラスメント」に関するアンケート調査
近年、不当な要求など理不尽で著しい迷惑行為のカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化している。東京商工リサーチ(TSR)が8月上旬に実施した企業向けアンケート調査で、「カスハラ」を受けたことがある企業が約2割(19.1%)あることがわかった。業種別では、「宿泊業」、「飲食店」が上位に並んだ。
カスハラの影響で「休業や退職の発生」に追い込まれた企業も13.5%あった。だが、「対策を講じていない」と回答した企業が7割超あり、カスハラ被害の広がりへの対策が遅れている実態も浮き彫りになった。
顧客や取引先からのクレームで、業務や商品の問題点が見つかることも少なくない。これまで企業は、ブランド保護に重要な情報との観点から丁寧な対応に努めていた。だが、悪質なクレームが、対応する担当者を精神的に追い詰め、企業にも多くの損失を与えるようになった。
今回のアンケート調査で、カスハラを受けたことがある企業が約2割に達した。特に、個人客と接する機会が多い業種で目立つ。具体的内容は、「口調が攻撃的・威圧的」の回答が多かった。さらに、カスハラによる休職や退職も1割強発生しており、カスハラ対策が急務になっている。
アンケート調査では、「ハラスメントする企業とは取引中止」、「地元警察と連携し、特に悪質な場合の通報体制を整えた」、「従業員ではなく代表が対応」など、研修や対応方針の策定、相談窓口の設置などの対策を講じている企業もある。だが、カスハラ対策を講じていない企業が7割超に達し、中小企業の取り組みは遅れている。
※ 本調査は、2024年8月1~13日、インターネットによる企業向けアンケート調査を実施し、5,748社から回答を得て集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義 した。
Q1.貴社では直近1年間でカスタマーハラスメントを受けたことはありますか?(択一回答)
◇「受けたことがある」が約2割
直近1年間でカスタマーハラスメントを受けたことが「ある」と回答した企業が19.1%(5,748社中、1,103社)と約2割に達した。5社に1社が「カスハラ」を受けている。 一方、「ない」との回答は80.8%(4,645社)だった。
規模別では、受けたことが「ある」との回答は、大企業が26.1%(567社中、148社)、中小企業は18.4%(5,181社中、955社)で、大企業が7.7ポイント高かった。大企業ほど「カスハラ」を受けていることがわかった。
一方、「ない」は大企業が73.9%(419社)、中小企業が81.5%(4,226社)だった。
大企業ほど取引先、顧客が多く、クレームに接する機会が多いことが背景にあるようだ。
「カスハラを受けた」業種別
「カスハラ」を受けた経験がある企業の業種別(母数10社以上)は、「宿泊業」が72.0%(25社中、18社)でトップ。宿泊客とのトラブルなどで「カスハラ」を受けるケースが多いようだ。
次いで、「飲食店」の64.8%(37社中、24社)、タクシーやバスなど「道路旅客運送業」の55.5%(18社中、10社)が続く。個人客と接することが多いサービス業や小売業が上位を占めた。
Q2.その結果、従業員の退職や休職が発生しましたか?(択一回答)
◇「休職や退職が発生」が13.5%
「カスハラ」を受けたことがある企業から回答を得た。その結果、「休職が発生した」が4.3%(1,040社中、45社)、「退職が発生した」が5.3%(56社)、「休職と退職が発生した」が3.8%(40社)で、「休職や退職が発生した」は合計13.5%(計141社)と1割超に及び、企業の10社に1社がカスハラによる休職や退職を経験していることがわかった。
規模別では、「休職や退職が発生した」は大企業が17.4%(132社中、23社)、中小企業が12.9%(908社中、118社)で、大企業が4.5ポイント高かった。
一方、「退職や休職には至らなかった」は、全企業で86.4%(899社)、大企業は82.5%(109社)、中小企業は87.0%(790社)だった。
「休職・退職が発生」した業種
「休職や退職が発生した」と回答した企業の業種別(母数5社以上)は、最大が「窯業・土石製品製造業」の50.0%(6社中、3社)だった。次いで、「道路旅客運送業」(10社中、4社)、「化学工業」(5社中、2社)の各40.0%、「各種商品小売業」の33.3%(6社中、2社)、「不動産取引業」の26.0%(23社中、6社)と続く。
「カスハラ」による休職や退職は、幅広い業種に広がっている。
Q3.カスタマーハラスメントの内容はどのようなものでしたか?(複数回答)
◇「口調が攻撃的・威圧的」が73.1%
「カスハラ」の内容について尋ねた。最多は「口調が攻撃的・威圧的だった」が73.1%(1,047社中、766社)だった。次いで、「長時間(期間)にわたって対応を余儀なくされた」が50.1%(525社)、「大きな声を上げられた」が38.9%(408社)、「一方的に話し続けられた」が37.5%(393社)、「過度に謝罪を要求された」が24.5%(257社)、「自社担当者の人格否定があった」が24.0%(252社)と続く。
一方、少なかった回答では、「暴力を振るわれた」が2.1%(22社)、「録画・録音された」が3.3%(35社)など。
規模別では、「口調が攻撃的・威圧的」は大企業が72.6%(139社中、101社)、中小企業が73.2%(908社中、665社)で大きな差はなかった。一方、「長時間(期間)にわたって対応を余儀なくされた」は大企業が59.7%(83社)、中小企業は48.6%(442社)で大企業が11.1ポイント高かった。
Q4.貴社ではカスタマーハラスメントについて、どのような対策を講じていますか?(複数回答)
◇「対策は講じていない」が7割超
「カスハラ」への対策は、「特に対策は講じていない」が71.5%(5,651社中、4,041社)と7割超が対策を講じていなかった。現場の社員に対応を任せ、会社として組織的な対策は広がっていない。一方、講じた対策のうち最も多かったのは、「従業員向けの研修を行った」が12.4%(701社)、「従業員向けの相談窓口を設置した」が8.7%(496社)、「カスタマーハラスメントの対応方針(に類するものを含む)を策定した」が6.3%(359社)など。
規模別では、「特に対策を講じていない」は大企業が54.4%(569社中、310社)、中小企業が73.4%(5,082社中、3,731社)と中小企業は大企業より19.0ポイント高かった。
また、従業員向けの「研修」実施は大企業24.0%(137社)、中小企業11.0%(564社)、「相談窓口の設置」は大企業18.8%(107社)、中小企業7.6%(389社)で、いずれも中小企業は大企業より10ポイント以上低いが、大企業でも対策は進んでいない。