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2023年の「合同会社」の新設法人、初の4万社超 他の法人格にはないメリットとインボイス制度が寄与か

2023年「合同会社」の新設法人調査


 2023年に新たに設立された法人のうち、「合同会社」が4万655社(前年比9.6%増)と初めて4万社を上回ったことがわかった。合同会社は、設立までの期間短縮やコスト削減、設立後も株主総会や取締役会の制度がないなど、他の法人に比べて優位性を持つ。コロナ禍が落ち着き、起業活動が一気に動き出したようだ。
 また、2023年10月に始まったインボイス制度に伴い、個人事業主から法人化の動きが加速した可能性もある。

 2023年の新設法人15万3,405社のうち、合同会社は4万655社(構成比26.5%)と大幅に増加した。年間1,000社以上設立された法人格の増加率では、株式会社(8.6%増)を抜いて合同会社が最大で、4社に1社が合同会社だった。

 合同会社は、2006年5月の会社法改正でスタートした比較的新しい法人格だ。合同会社の特徴は、設立手続きの容易さと手続きコストの安さが挙げられ、株式会社の半分の費用で設立できるケースもある。また、設立までの期間も短期間で済み、株式会社と違い株主総会の開催や決算公告も必要がなく、出資者が会社の業務を行うため意思決定が早いメリットもある。このため、アマゾンジャパンやグーグルなど、有力な外資企業の日本法人も合同会社を選んでいる。
 2023年10月に始まったインボイス制度で、個人事業主が合同会社で法人化した可能性もあり、合同会社の人気に拍車がかかってきた。

※ 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象約400万社)から、2023年(1-12月)に全国で新しく設立された全法人15万3,405社のうち、合同会社を抽出し、分析した。

合同会社 新設法人 年間推移


個人事業主の法人化で合同会社を選択した可能性も

 2023年10月に始まったインボイス制度は、2022年は法人の登録が進んだが、個人事業主の登録は低調だった。2023年に入り法人登録が一巡すると、個人事業主の登録が徐々に増え、開始時には駆け込み登録もみられた。課税事業者となった個人事業主の一部が法人化した可能性もある。

産業別 7産業で増加

 合同会社の産業別は、10産業のうち7産業で前年を上回った。減少は、金融・保険業1,511社(前年比5.4%減)、農・林・漁・鉱業592社(同3.8%減)、不動産業4,425社(同0.02%減)。
 一方、増加率のトップは、建設業2,482件(同31.6%増)だった。次いで、サービス業他の1万8,016社(同13.9%増)、運輸業732社(同10.0%増)、情報通信業4,941社(同9.9%増)が続く。
 増加率の高い産業は、一人親方などの建設業や、飲食店などのサービス業他、軽貨物運送など運輸業、システムエンジニアなど情報通信業が目立ち、小・零細規模の個人事業主が法人化したケースが多かったようだ。

産業別 合同会社 新設法人

業種別 学術研究,専門・技術サービス業が最多

 産業別をさらに細分化した業種別では、最多は経営コンサルタントなど学術研究,専門・技術サービス業が6,502社(構成比15.9%、前年比17.7%増)と増加した。次いで、ソフトウェアの開発など情報サービス・制作業の4,850社(同11.9%、同9.6%増)、不動産業の4,425社(同10.8%、同0.02%減)、飲食業の2,828社(同6.9%、同17.1%増)が続いた。

都道府県別 増加率トップは岩手県、減少率は長崎県が最大

 都道府県別で合同会社の新設法人数の最多は、東京都の1万2,876社(構成比31.6%)で、全体の約3分の1を占めた。次いで、大阪府3,333社(同8.2%)、神奈川県3,031社(同7.4%)と続く。
 前年との増加率は、トップが岩手県の前年比35.8%増(163社)だった。2位は鳥取県の同34.9%増(112社)、3位は宮城県の同26.1%増(444社)で、3県ともに2022年に前年から減少した反動が影響したようだ。
 一方、減少率の最大は、長崎県の同25.0%減(180社)だった。長崎県は2022年も前年比4.7%減の240社と減少が続き、合同会社の人気が落ちている。次いで、福井県の同13.6%減(120社)、佐賀県の同9.7%減(121社)で、前年を下回ったのは10県だった。

都道府県別 合同会社 新設法人

法人格の構成比 合同会社は26.5%に上昇

 法人格の構成比を分析した。2018年の新設法人は、株式会社が68.2%(8万8,092社)に対し、合同会社2万8,662社(22.2%)だった。認知度が高まった2019年は、合同会社が3万社を超え、構成比も23.0%と上昇。その後も構成比は緩やかに上昇し、2023年は26.5%にまで高まった。
 一方、合同会社のシェアアップに伴い、株式会社は2022年には65.6%まで低下した。しかし、2023年は10万社を上回り、構成比も66.1%に上昇した。
 新設法人の法人格は、株式会社と合同会社に偏り、2法人で構成比は92.6%に達する。一般社団法人や特定非営利活動法人、医療法人などが伸び悩み、合同会社の存在感が増している。

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