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連鎖破たん相次ぐテックコーポレーション、取引実態に疑問の声

いまだ真相はやぶの中だ――。

 話題の中心にいるのは、3月18日に負債191億9,486万円を抱えて破産開始決定を受けた(株)テックコーポレーション(TSR企業コード:740278177、広島県、以下テック社)だ。債権者数400名を超え、連鎖破たんは確認されるだけで約10社にのぼる。
 一部の債権者は手形を振り出し、受け取ったテック社はそれを割引に廻していた。これから決済期日を迎える手形もあり、途方にくれる振出人(企業)もいる。  
 テック社に多額の手形を振り出していた企業の代表者が東京商工リサーチ(TSR)の単独インタビューに応じた。
 代表者は「テックコーポレーションの倒産後に(取引実態を)調べたら、詐欺的手法だとわかった。取引時はまったく疑わなかった」と悔やみきれない胸中を語った。



 テック社は、電解水生成装置など環境機器を販売していた。展示会などで商品をPRし、顧客への販売の大半は代理店が手掛けていた。また、全国の企業にアプローチし、販売代理店網を広げていた。代理店となった企業は別に本業があり、環境機器の販売と親和性が薄いように思えるケースもある。
 債権者などへの取材によると、テック社の商流は大まかに次の通りだ。

1.テック社が商品(環境機器)の購入先(エンドユーザー)をみつけ、販売代理店に注文書を示す
2.販売代理店は注文を受けるとテック社に環境機器の製造代に対応する形の手形を振り出す
3.テック社は受け取った手形を割引し、環境機器を製造。約半年後に購入先に納品する
4.テック社は、手形を振り出した販売代理店に手形決済日の数日前に手形額面に5%を上乗せした金額を振り込み、装置を買い戻す

テック社 商流の一例

 だが、テック社の破産で代金は振り込まれない。見返りの入金がないまま手形の決済を迫られ、不渡りに追い込まれる企業が相次いでいる。


架空の注文書

 テック社に手形を振り出していた企業の代表者はTSRの取材に応じ、「注文先から『テック社から形式的で良いので注文書を書いて欲しいと頼まれ、複数枚書いた』と打ち明けられた」と語る。「架空の注文書を書いた企業の多くは、実際の取引に注文書が使われていることを知らなかった」と続ける。
 その上で、「いつからかはわからないが、(テック社は)架空の注文書を利用して詐取した手形を金融機関に持ち込み、割引して運転資金に充てていた」と分析する。ただ、「購入先に実態があり、(自振手形額面に)5%を上乗せして戻ってくる取引もあった。だが、いつの間にか架空取引になっていた」という。
 実際の販売が低迷するなかで販売代理店から手形を振り出してもらうため、5%を上乗せするスキームを多用していた可能性が出てきた。


取引を「まったく疑わなかった」

 浮かび上がったスキームは異様にみえる。なぜ疑問を持たなかったのか。代表者は「当然、(テック社の)決算書や風評を調べ、購入先のホームページも確認した」と取引チェックをしていたという。
 代表者は「コロナ禍で先が見通せないなか、5%は魅力的だった。入金もあり、実際に商流があったので取引している時はまったく疑わなかった」と語る。
 5%を上乗せしている以上、この取引においてテック社は損失が発生する。それでも繰り返されたのは、単なる資金繰りを維持するためだったのか。
 代表者は「(自身の調査で)架空発注がみつかり、詐欺的手法だったとわかった。被害者がまとまり、真相究明や経営陣の責任追求などをできればと思っている」と憤る。また、「(振り出された手形の)枚数は多く、割り引いていた金融機関も責任が重いのではないか。架空取引の手形を割り引き、利益をあげる行為は問題だ。(テック社が)不審な取引をしていると金融機関が気づけば、ここまで被害が広がらなかった」と述べた。
 代表者はインタビューの最後に「破産管財人は(破産手続きにおける調査で)詐欺的取引がみつかれば、捜査機関に告発して徹底的に調べてほしい」と要望した。
 TSRはテック社の破産管財人に取材を申し込んだが、「債権者集会まで個別の質問に答えることはできない」と回答している。
 テック社の債権者集会は、7月19日に予定されている。

テック社が入居していたビル

テック社が入居していたビル

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年5月30日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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