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2023年度の不動産売却は94社 譲渡損益総額は過去最高額を計上

2023年度「上場企業 不動産売却」調査


 2023年度に東京証券取引所に上場している3,836社のうち、国内不動産の売却を開示したのは94社で、前年度の114社から20社減少した。売却土地の総面積は84社が公表し、合計98万5,595平方メートル(前年度186万2,195平方メートル、公表100社)で、前年度からほぼ半減(47.0%減)した。
 市場内訳は、プライム49社(前年度同数)、スタンダード43社(同58社)、グロース2社(同7社)。

 譲渡損益を公表したのは88社で、総額は5,680億700万円(前年度比27.9%増)だった。2022年度から東証の市場再編により集計基準が変更したため単純比較はできないが、譲渡益は2021年度の5,267億9,200万円を上回り、地価上昇の恩恵を受けて2001年度以降で最高額を更新した。
 88社のうち譲渡益を計上した企業は82社で、全体の9割(構成比93.1%)を超えた。構成比は、前年度(同90.0%)から3.1ポイント上昇した。

 売却土地面積が合計1万平方メートル超の企業は17社(前年度38社)で、前年度の半数以下に減少した。売却土地面積トップは日野自動車(プライム)の38万1,000平方メートルで、本社のある日野工場の一部や埼玉県日高市の完成車両置き場を売却した。

 2023年度に不動産を売却した上場企業のうち、直近の最終利益が赤字は約2割(構成比19.1%、18社)で、構成比は前年度(28.9%)から9.8ポイント低下した。

 コロナ禍では、経営悪化を理由に手元資金を確保するための不動産売却が多くみられた。一方、2023年度は経済活動が本格的に再開し、業務の効率化や設備投資のための資金確保など、戦略的な不動産売却が目立った。

※本調査は、東証プライム、スタンダード、グロース上場企業3,836社(2024年3月末時点、不動産投資法人等を除く)を対象に、2023年度(2023年4月~2024年3月)に国内不動産(固定資産)の売却を開示した企業を集計、分析した(契約日基準、各譲渡価額・譲渡損益は見込み額を含む)。
※東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益、または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合とされている。
※2022年から東証の市場再編により集計基準を変更したため、2021年度以前(東証1部・2部企業を対象)のデータはすべて参考値。

開示企業の9割が譲渡益計上

 不動産売却を開示したのは94社(前年度114社)で、2年ぶりに100社を下回った。譲渡損益を公表した88社(前年度110社)のうち、譲渡益の計上は82社(同99社)で、総額は5,684億8,200万円(前年度4,465億9,400万円、前年度比27.2%増)と前年度を大幅に上回った。一方、譲渡損の計上は5社(前年度11社)にとどまり、損失額は▲4億7,500万円(同▲26億7,400万円)に圧縮された。このほか、譲渡損益ゼロが1社みられた。
 譲渡益トップは、日野自動車(プライム)の900億円。次いで、京浜急行電鉄(同)の850億円、ブリヂストン(同)の634億円が続き、譲渡益100億円以上は13社(前年度9社)で前年度から4社増加した。譲渡損失の最大は、東天紅(スタンダード)の▲2億3,700万円だった。

年度別 上場企業 不動産売却企業数の推移

公表売却土地総面積、合計98万平方メートル

 2023年度の売却土地総面積は84社が公表し、合計98万5,595平方メートル(前年度186万2,195平方メートル、公表100社)だった。前年度から約半分(前年度比47.0%減)に縮小した。
 売却土地面積が合計1万平方メートル超は17社(前年度38社)と半減、売却土地面積が合計10万平方メートル超も1社(同3社)と減少し、合計面積は大幅に縮小した。
 一方、1社当たりの平均売却土地面積は、1万1,733平方メートル(前年度4,135平方メートル)で、前年度から大きく拡大した。

公表売却土地面積 トップは日野自動車の38万平方メートル

 公表売却土地面積トップは、トラック・バスなど製造の日野自動車(プライム)で38万1,000平方メートル。同社の直近決算(2024年3月期)では、原材料の高騰などで経常利益は92億円の赤字だったが、固定資産の売却で最終利益は170億円の黒字を計上した。
 2位はオーミケンシ(スタンダード)の8万4,000平方メートル、3位はひらまつ(プライム)の8万833平方メートル。

譲渡価額総額 公表8社合計で30億円

 譲渡価額を公表した8社(前年度24社)の総額は、30億8,900万円(同317億1,800万円)。
 トップは、衛生用品製造機メーカーの瑞光(スタンダード)の15億3,000万円。譲渡理由は、経営資源の有効活用と資産効率の向上を図るためとしている。2位は、クリエートメディック(スタンダード)の8億6,000万円、3位はオキサイド(グロース)の2億8,000万円だった。

業種別 卸売業が最多の13社

 業種別では、卸売業が13社で最多だった。本社や事務所の移転・統合など、業務環境の見直しに伴い、経営資源の有効活用を図るため売却に至った企業が多かった。13社のうち、最新期の最終利益が赤字の企業は1社(構成比7.6%)にとどまる。
 2位は小売業の10社で、このうち最新期の最終利益が赤字の企業は2社(構成比20.0%)だった。
 前年度に最多だったサービス業は4社(前年度15社)に減少した。

左:不動産売却企業 譲渡差益合計推移 右:業種別 売却社数・売却土地面積(社数降順)



 2024年3月に国土交通省が発表した令和6年地価公示では、全用途平均、住宅地、商業地のいずれも3年連続で地価が上昇し、上昇幅も拡大した。インバウンド需要の回復が著しい観光地や、大手半導体メーカーの工場が進出するエリアで地価の上昇が目立つ。

 不動産を売却した上場企業は減少したが、譲渡損益の総額は5,680億700万円と2001年度以降で最高額を更新した。地価上昇を背景に好条件で売却した企業が多かったとみられる。

 本社・本部移転を理由に不動産を売却した企業は10社(前年度4社)と倍増した。働き方改革や改善を目的とした売却がトレンドとなっているようだ。東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営の実現を要請しており、資本効率の向上を目的とした売却もみられた。こうした戦略的な体質強化の動きが続くと、今後不動産の売却件数が増える可能性もある。

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