• TSRデータインサイト

広告業界の倒産急増、年間100件超の可能性 コロナ禍で加速したデジタル化への対応が課題に

2024年(1‐4月)「広告関連業」倒産状況


 広告業界の倒産が増えてきた。2024年1-4月の広告関連業(「広告業」「広告制作業」)倒産は40件(前年同期比37.9%増)で、同期比較では2015年(40件)以来、9年ぶりに40件台に乗せた。
 コロナ禍では外出自粛やイベントの中止要請などの影響を受け、広告業界は受注減少に見舞われた。しかし、コロナ関連の資金繰り支援策の下支え効果などで、2020年以降、広告業界の倒産は年間100件を下回る状態が4年続いた。1-4月も2021年以降、3年連続で20件台にとどまっていたが、経済活動が平時に戻ると同時に急増に転じた。この水準で推移すると、2024年はコロナ禍前の2019年以来、5年ぶりに年間100件台に乗せる可能性が出てきた。

 経済産業省発表の「特定サービス産業動態統計調査」によると、広告業の売上高はコロナ禍の2020年は前年比14.1%減と大幅に減少した。ただ、広告関連業は過大な設備投資が不要で、固定費は家賃や人件費が中心のため、コロナ関連の支援策による資金繰り緩和の効果も高く、コロナ禍の倒産は大幅に抑制されていた。ところが、コロナ禍が収束に向かい、各種支援の終了・縮小が相次いだ2023年は前年の1.4倍の82件に急増。2024年も月平均10件とリーマン・ショックや東日本大震災以来の高水準で推移している。

 経済活動や人流が本格的に戻ったことによる広告需要の回復は好材料だが、一方でコロナ禍で広告出稿先がアナログからデジタルへのシフトが加速するなど、広告業界が直面する環境は大きく変化している。AIやビッグデータの活用など、マーケティング手法も多様化しており、顧客の新たなニーズに対応できない広告関連業者を中心に、淘汰が加速し倒産は増勢をたどるとみられる。

※本調査は、2024年1-4月の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、日本産業分類の「広告業」「広告制作業」を集計・分析した。


2024年は4月までに40件、年間では100件超のペースに

 2024年1-4月の「広告関連業」の倒産は40件(前年同期比37.9%増)で、2015年以来、9年ぶりの40件台に増加した。
 コロナ関連支援の効果などで2020年以降、広告関連業の倒産は4年連続で年間100件を下回り、2022年(56件)には1989年以降の最少件数を更新した。しかし、各種支援の終了・縮小とともに、コロナ禍で悪化した業績の立て直しが遅れた事業者の淘汰が目立ち始め、2023年は82件(前年比46.4%増)に急増した。
 その後も広告関連業倒産は増勢が続き、月次では2024年2月に2023年3月(12件)以来、11カ月ぶりの月間10件台となる12件発生した。以降も3月11件、4月10件と、3カ月連続で10件台で推移している。このペースで推移すると、2024年の広告関連業倒産はコロナ禍前の2019年(114件)以来、5年ぶりに年間100件を超える可能性が高まっている。

広告業・広告制作業 倒産件数 年次推移

【負債額別】1億円未満が9割

 負債額別は、「1億円未満」が37件(前年同期比68.1%増)で、構成比では広告関連業倒産の92.5%を占めた。
 内訳は、「1千万円以上5千万円未満」が29件(同70.5%増)、「5千万円以上1億円未満」が8件(同60.0%増)。
 「1億円以上5億円未満」は3件(前年同期6件)にとどまり、前年同期1件だった「5億円以上」は発生がなかった。

負債額別倒産状況

【形態別】すべて消滅型

 形態別では、広告関連業倒産の40件すべてが法的倒産だった。
 うち、破産が39件(前年同期比34.4%増)で、広告関連業倒産に占める構成比は97.5%にのぼった。特別清算の1件(前年同期ゼロ)と合わせ、40件すべてが「消滅型」の倒産だった。
 コロナ禍の影響や広告媒体の変化などにより業績不振に陥り、立て直しに取り組めないまま、消滅型の破産を選択して事業継続を断念せざるを得ない企業が少なくないとみられる。

【資本金別】「1千万円未満」が6割

 資本金別は、「1千万円未満」が26件(前年同期比85.7%増)で、構成比65.0%を占めた。 内訳は、「1百万円以上5百万円未満」が12件(前年同期比100.0%増)、「5百万円以上1千万円未満」が8件(同100.0%増)、「1百万円未満」が5件(同400.0%増)、「個人企業他」が1件(同66.6%減)。
 「1千万円以上5千万円未満」は14件(前年同期比6.6%減、構成比35.0%)だった。

【地区別】関東が約6割

 地区別では、関東が最多の23件(前年同期比27.7%増)で、構成比では約6割(57.5%)を占めた。次いで、近畿が6件(前年同期比50.0%増、構成比15.0%)、九州が5件(同400.0%増、同12.5%)、中部が4件(同33.3%増、同10.0%)の順。
 都道府県別では、東京が最多の15件(前年同期16件)。以下、大阪5件(同2件)、福岡4件(同1件)、神奈川(同1件)と三重(同ゼロ)がそれぞれ3件と続く。

地区別倒産状況


人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「人材派遣業」は大手企業がシェア席巻 黒字企業が8割も、コロナ後初の減益

深刻な人手不足と賃上げを背景に、転職市場が活況を呈している。だが、その一方で人材派遣業は、人手不足による人件費上昇などで利益が追い付かず、大手と中小事業者の業績格差が年々拡大している。

2

  • TSRデータインサイト

ひと足早く始まった低金利の終焉、金利上昇が加速へ

2024年3月、日本銀行は2016年2月に始まったマイナス金利政策の解除を決定した。 コロナ禍も利下げは止まらず、ピークの2023年3月末は、金利0.5%未満が貸出金全体の37.0%を占めた。金融機関は10年余りの間、本業での収益悪化が続いたが、コロナ禍を経て状況が一変した。

3

  • TSRデータインサイト

船井電機、登記変更と即時抗告と民事再生

10月24日に東京地裁へ準自己破産を申請し同日、破産開始決定を受けた船井電機(株)(TSR企業コード:697425274)を巡って、大きな動きが続いている。

4

  • TSRデータインサイト

脱毛サロンなどエステ業の倒産が過去最多ペース 1-10月累計87件、初の年間100件超も視野に

脱毛サロンなど、エステ業界の倒産が急増している。2024年は10月までに87件に達した。現在のペースで推移すると、2024年は過去最多の2023年の年間88件を上回ることは確実で、100件を超える勢いだ。

5

  • TSRデータインサイト

登記上の本社同一地の最多は4,535社 代表ひとりが兼任する企業の最多は628社

全国で同じ住所に法人登記された社数の最多は、「東京都港区南青山2-2-15」の4,535社だった。 また、1,000社以上が登記しているのは14カ所で、上位10位までを東京都の港区、渋谷区、中央区、千代田区の住所が占めた。

TOPへ