• TSRデータインサイト

「人手不足」企業、69.3%で前年よりも悪化 建設業は8割超が「正社員不足」で対策急務

2024年 企業の「人手不足」に関するアンケート調査


 コロナ禍からの経済活動の再活性化で人手不足が深刻さを増し、「正社員不足」を訴える企業が増加している。特に、2024年問題や少子高齢化による生産年齢人口の減少などが、人手不足に拍車をかけている。
 アンケート調査では、「正社員不足」の企業は約7割(69.3%)に達し、前年(66.5%)からさらに悪化した。2024年春闘では大企業の満額回答が相次いだが、一方で、賃上げ圧力の弱い中小企業が置かれた状況は厳しさを増している。人手不足で人材需給に差が開くなか、新規採用や定着率向上のために、企業の負担が増加することが懸念される。

 東京商工リサーチ(TSR)が4月上旬に実施したアンケートで、「正社員不足」は大企業が8割近く(77.6%)に対し、中小企業は68.4%で、大企業ほど人手不足が切迫している。

 厚生労働省によると、2023年平均の有効求人倍率は1.31倍で、前年から0.03ポイント上昇した。コロナ禍前(2018年)の1.61倍には届かないが、高い水準での推移が続いている。

 業種別では、「道路旅客運送業」は「正社員不足」が100.0%に対し、「印刷・同関連業」は「正社員過剰」が24.1%を占め、業種で人手不足に濃淡が広がっている。リスキリングなどの活用による、人手過剰な業界から不足の業界への人材の再配置や流動化も課題になっている。

※本調査は、2024年4月1日~8日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,619社を集計、分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。前回調査は2023年4月17日発表。


Q1. 貴社の正社員の状況は以下のどれですか?(択一回答)

◇建設業の「正社員不足」が8割超え
 正社員が「非常に不足している」の11.8%(4,619社中、546社)と「やや不足している」の57.5%(2,656社)を合わせ、「正社員不足」の企業は69.3%(3,202社)を占めた。「充足」は26.0%(1,201社)、「やや過剰」は4.4%(205社)、「非常に過剰」は0.2%(11社)だった。
 規模別では、大企業の「正社員不足」が77.6%(421社中、327社)に対し、中小企業は68.4%(4,198社中、2,875社)で、9.2ポイントの差がついた。「充足」は大企業の18.2%(77社)に対し、中小企業は26.7%(1,124社)で、中小企業が8.5ポイント上回った。
 産業別では、「正社員不足」が最も高かったのは建設業で84.4%(674社中、569社)だった。次いで、運輸業の77.9%(186社中、145社)、情報通信業の76.3%(241社中、184社)の順。
 2024年問題に直面する建設業と運輸業に加え、DX推進などで人手不足が慢性化する情報通信業で正社員不足が深刻な傾向にある。

貴社の正社員の状況は以下のどれですか  ◇建設業の「正社員不足」が8割超え

Q2. 貴社の非正規社員の状況は以下のどれですか?(択一回答)

◇「非正規社員不足」、小売業では半数近く
 非正規社員が「非常に不足している」の5.1%(3,800社中、197社)と「やや不足している」の33.5%(1,275社)を合わせ、「非正規社員不足」の企業は38.7%(1,472社)だった。「正社員不足」の69.3%を30.6ポイント下回り、非正規社員への依存度は落ち着いている。
 また、「充足」は56.9%(2,163社)、「やや過剰」は3.9%(150社)、「非常に過剰」は0.3%(15社)だった。
 規模別では、大企業の「非正規社員不足」が42.7%(388社中、166社)なのに対し、中小企業は38.2%(3,412社中、1,306社)で、大企業が4.5ポイント上回った。「充足」は大企業の51.8%(201社)に対し、中小企業は57.5%(1,962社)で、中小企業が5.7ポイント高かった。
 産業別は、「非正規社員不足」の割合が最も高かったのは小売業で、半数近い48.9%(188社中、92社)だった。次いで、農・林・漁・鉱業の48.3%(31社中、15社)、サービス業他の48.0%(608社中、292社)の順。元々パートやアルバイトなど非正規社員への依存度が高い小売業やサービス業他に加え、繁忙期と閑散期に波のある農・林・漁・鉱業などでも目立った。

貴社の非正規社員の状況は以下のどれですか? ◇小売業では半数近く

「道路旅客運送業」と「宿泊業」の人手不足が顕著

 人手不足の割合をさら細かい業種別(中分類、母数10以上)でみると、 「正社員不足」のトップは「道路旅客運送業」の100.0%(11社中、11社)だった。以下、「宿泊業」の92.8%(14社中、13社)、「設備工事業」の86.0%(200社中、172社)と続く。
 「非正規社員不足」は「宿泊業」が100.0%(13社中、13社)で最大。次いで、「道路旅客運送業」の90.0%(10社中、9社)、「飲食店」の88.0%(25社中、22社)の順。
 「正社員不足」では建設業の3業種すべてが上位10業種にランクインしたが、「非正規社員不足」では圏外だった。建設業は、正社員を新たに採用したい意向が強いとみられる。

業種別 左:「正社員不足」 右:「非正規社員不足」

「人手過剰」の業種別、製造業が上位

 人手過剰の割合を業種別(中分類、母数10以上)でみると、 「正社員過剰」のトップは「印刷・同関連業」の24.1%(62社中、15社)だった。次いで、「繊維工業」の17.0%(41社中、7社)、「ゴム製品製造業」の15.0%(20社中、3社)の順。
 「非正規社員過剰」は「輸送用機械器具製造業」が16.1%(62社中、10社)で最も高く、以下、「ゴム製品製造業」の15.0%(20社中、3社)、「繊維工業」の11.1%(36社中、4社)。
 「人手過剰」の上位は製造業が占めた。特に、コロナ禍で加速したデジタル化で紙媒体需要の減少が著しい「印刷・同関連業」の正社員は、唯一、過剰率が2割を超えた。


前年比 すべての規模で進む「正社員不足」

 人手不足の状況を、前年(2023年4月調査)と比較した。
 正社員が「非常に不足している」は11.4%→11.8%で0.4ポイント、「やや不足している」は55.0%→57.5%で2.5ポイント、合計では66.5%→69.3%で2.8ポイント上昇した。「充足」は28.6%→26.0%で、2.6ポイント低下した。
 非正規社員は「非常に不足」が5.7%→5.1%で0.6ポイント低下し、「やや不足」が32.5%→33.5%で1.0ポイント上昇、合計では38.2%→38.6%で0.4ポイントとわずかに上昇した。「充足」は57.5%→56.9%と0.6ポイントの低下だった。
 規模別では、大企業の「正社員不足」は73.2%→77.6%と4.4ポイント上昇したのに対し、中小企業は65.5%→68.4%と2.9ポイントの上昇だった。一方、「非正規社員不足」は大企業が43.2%→42.7%と0.5ポイント低下したのに対して、中小企業は37.5%→38.2%で0.7ポイント上昇した。

人手不足の状況を前年(2023年4月調査)と比較 (左:正社員 右:非正規社員)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ