• TSRデータインサイト

「パン屋さん」の倒産が急増し年度最多を更新 小麦価格の上昇などコストアップが痛手に

~ 2023年度(4-3月)「パン製造小売の倒産動向」調査 ~

 「パン屋さん」の倒産が急増している。店舗や自社工場の焼き立てパンがブームを呼び、コロナ禍では中食需要を取り込んで根強い人気を誇っていた。だが、2023年度(4-3月)の「パン製造小売(パン屋さん)」の倒産は37件(前年度比85.0%増)で、前年度の約2倍に急増、年度では過去最多を記録した。

 2023年度に倒産した「パン屋さん」のうち、コロナ関連倒産は17件(前年度13件)で 半数近く(構成比45.9%)を占めた。パン屋さんはコロナ禍のテイクアウトブームに加え、飲食店と同様の支援を受けられたことから、コロナ関連倒産は2020年度1件、2021年度3件と低水準だった。しかし、各種支援の効果が薄れると、コロナ禍の影響が次第に顕在化してきた。
 また、物価高もパン屋さんの経営に大きな打撃を与えている。2023年度の「物価高」倒産は10件(前年度5件)で、前年度から倍増した。円安や燃料高、ロシアのウクライナ侵攻による、パン原材料の小麦やバター、牛乳などの価格上昇の影響が深刻だった。賞味期限の短い焼き立てパンは、他の食材と比較しても廃棄率が高くなりがちなことも、パン屋さんの利益を圧迫している。
 さらに、一大ブームを巻き起こした高級食パンブームにも陰りがみえる。新たな需要の創出やコスト管理、価格転嫁など、パン屋さんに課せられた経営課題は多い。
※本調査は、日本産業分類の「パン小売業(製造小売)」の2023年度(4-3月)に発生した倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、集計・分析した。


「パン屋さん」の倒産が過去最多

 2023年度(4-3月)の「パン屋さん」倒産は、37件(前年度比85.0%増、前年度20件)だった。コロナ禍で、焼き立てパンを自分でトレーに乗せるセルフ方式は一部敬遠された。だが、個包装や入店人数制限などの工夫で中食需要を取り込み、各種コロナ関連支援にも支えられたパン屋さんの倒産は抑制された。

 しかし、コロナ特需や支援策の縮小・終了、2022年2月以降のウクライナ情勢や長引く円安により、パン製造に欠かせない小麦の価格が上昇。さらに、原油価格の高騰などで光熱費の負担も重く、コストアップがパン屋さんの利益を圧迫する環境が続いている。
 倒産推移でも、人手不足や消費増税の影響も受けた2019年度は29件に増加したが、コロナ禍の2020年度(17件)、2021年度(13件)は2年連続で減少し、いずれも10件台にとどまった。しかし、物価高の影響が深刻化した2022年度以降は、パン屋さんの倒産は再び増加に転じ、2023年度は過去最多を記録した。「物価高(材料高)」倒産も2021年度ゼロ→2022年度5件→2023年度10件と増加が続く。
 BtoCで人々の習慣に溶け込み、なくてはならないほど日常生活に密接なパン屋さんだが、コスト上昇分の価格転嫁は容易ではない。集客と採算の間で板挟みになるパン屋さんの倒産は、今後も高止まりすることが懸念される。

「パン屋さん」倒産 年度推移

原因別 『不況型』が約9割

 原因別の最多は、「販売不振」の32件(前年度比100.0%増、前年度16件)で、パン屋さん倒産の8割超(構成比86.4%)だった。

 以下、「事業の失敗」と代表者死亡などを含む「その他」が各2件(前年度ゼロ)、「既往のシワ寄せ」が1件(同3件)だった。
 『不況型』倒産(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は33件(前年度比73.6%増、前年度19件)で、約9割(構成比89.1%)を占めた。

「パン屋さん」倒産 原因別

形態別 「破産」がほとんど

 形態別は、最多が「破産」の36件(前年度比89.4%増、前年度19件)で、全体の97.3%を占めた。

 以下、「内整理」が1件(前年度ゼロ)だった。
 『不況型』倒産が約9割を占め、原材料高なども背景に、コロナ禍で業績が悪化していたパン屋さんのなかには、立て直しが進んでいない事業者も少なくない。こうした状況下で、倒産したパン屋さんのほとんどは再建を目指すだけの余力もなく、消滅型の「破産」の選択を余儀なくされている。


負債額別 規模が二極化

 負債額別の最多レンジは、「1千万円以上5千万円未満」の21件(前年度比75.0%増、前年度12件)で、構成比では56.7%だった。「5千万円以上1億円未満」の7件(同75.0%増、同4件)と合わせて28件と、4件に3件(構成比75.6%)が負債「1億円未満」の小規模倒産だった。

 一方で、「1億円以上5億円未満」が8件(前年度4件)、「5億円以上」も1件(同ゼロ)発生した。
 自社でパンの製造から販売まで手掛けるパン屋さんは一定の設備投資も必要なため、負債が膨らむケースもあるとみられる。

「パン屋さん」倒産 負債額別

従業員数別 5人未満の小規模経営が8割

 従業員別は、最多レンジが「5人未満」の30件(前年度比87.5%増、前年度16件)だった。

 以下、「5人以上10人未満」が4件(前年度同数)、「20人以上50人未満」が2件(同ゼロ)、「10人以上20人未満」が1件(同ゼロ)の順。
 パン屋さんの倒産のうち、8割以上(81.0%)が従業員数5人未満の小規模経営だった。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「戸建住宅」メーカー115社 増収増益 3年連続増収も、減益企業は半数に

全国の主要戸建メーカー、ハウスビルダー115社の2023年度決算(2023年4月期-2024年3月期)は、売上高8兆1,214億円(前年度比3.8%増)、利益4,728億円(同17.8%増)と増収増益だった。 2023年度の新設住宅着工戸数(持家+分譲戸建、国交省)は、前年度から1割減(9.9%減)の35万3,237戸にとどまった。

2

  • TSRデータインサイト

2024年の「早期・希望退職」募集1万人が目前 上場企業53社、人数非公開の大型募集相次ぐ

2024年1月から11月15日までに「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は53社(前年同期36社)で、前年同期の約1.5倍のペースで推移している。集計の対象人員は、9,219人(同2,915人)と3倍に増加し、すでに2023年の年間社数、人数を上回った。

3

  • TSRデータインサイト

2024年1-10月「後継者難」倒産396件 後継者不在が深刻、年間最多の500件も視野

代表者の高齢化など、後継者不在による倒産が増勢をたどっている。10月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は49件(前年同月比32.4%増)発生し、1-10月の累計は396件(前年同期比10.3%増)と1-10月の最多を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

「雇用調整助成金」の不正受給公表が累計1,446件 全国ワーストは愛知県、年商を上回る不正受給は31社

全国の労働局が10月31日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給件数が、2020年4月から累計1,446件に達したことがわかった。不正受給総額は463億7,025万円にのぼる。2024年10月公表は35件で、4月(23件)に次いで今年2番目の低水準だった。

5

  • TSRデータインサイト

船井電機「破産開始」への対抗、天文学的な成功率

船井電機(株)(TSR企業コード:697425274)の破産手続きが混沌としている。10月24日に東京地裁へ準自己破産を申請し同日、開始決定を受けた船井電機の破産手続きに対抗する動きが明らかになった。

TOPへ