• TSRデータインサイト

2023年の学習塾倒産 過去20年間「最多」の45件 市場拡大も、多様なニーズで「競争激化」

~ 2023年「学習塾」の倒産 ~


 少子化が進むなか、激しい競争が続く学習塾業界では、中小・零細規模の塾の淘汰が続いている。2023年の学習塾の倒産は45件(前年比28.5%増)で、2004年以降の20年間で最多を更新した。市場が拡大をたどる一方で、進学実績や授業方法など、特徴のない塾の生き残りは厳しさを増している。

 経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、学習塾の売上高は2004年の3,078億2,600万円から2023年は5,540億6,500万円(速報値)へ、20年間で約1.8倍に拡大している。
 また、受講生数も944万5,570人から1,409万2,656人へ約1.5倍に伸びている。

 少子化でも子どもへの学習投資は膨らんでいる。学習塾側も、集団指導から個別指導にシフトし、オンライン授業やタブレットなどのIT技術を活用するなど、サービス開発に注力する事業者が増えている。資金力のある大手学習塾がIT化を進め、実績やブランド力、認知度を高めて値上げを行い、シェアを広げている。一方で、中小・零細規模の学習塾は資金や講師陣のリソース面の制約からニーズに対応できず、市場からの撤退が加速している。

 形態別は、破産が40件(前年比14.2%増、構成比88.8%)で約9割、資本金別でも1千万円未満が41件(同46.4%増、同91.1%)と9割を占めた。いったん生徒離れが進むと、業績不振から抜け出せないまま消滅型の破産を選択せざるを得ない苦境を示している。
 地区別では、近畿が18件(前年比63.6%増)で最多。次いで、関東が13件(同8.3%増)と続き、この2地区で約7割(構成比68.8%)を占めた。生徒数の多い大都市圏で、大手から中小・零細規模の塾が乱立し、淘汰の波が押し寄せている。

 学習塾では、時代により指導方法や授業スタイルのニーズが変化している。また、物価上昇により実質賃金が上がらないなかでも、学習塾の受講料は年々上昇し、親の子供への教育投資も増え続けている。学習塾は、合格実績やSNS、口コミの評判で受講生数が左右されやすいだけに、生き残りをかけて他の塾との差別化がより重要になっている。

※本調査は、負債1千万円以上の倒産集計から日本標準産業分類「学習塾」の倒産を抽出し、分析した。


学習塾の倒産は45件、前年の約1.3倍

 2023年の学習塾の倒産は45件(前年比28.5%増)で、5年ぶりに40件を上回った。過去20年では、2018年(42件)を上回り、最多件数を更新した。
 「新型コロナウイルス」関連倒産は13件(前年比18.1%増)で、前年を上回った。年次推移でも2020年3件、2021年6件、2022年11件、2023年13件と増勢が続いている。
 学習塾は、対面授業が当たり前だったため、コロナ禍の外出自粛などで、受講生が大きく減少した塾が多い。ゼロゼロ融資などの資金繰り支援で、2021年の学習塾の倒産は21件(同32.2%減)と抑制された。だが、支援効果が薄まり、ニーズの変化に対応できなかった塾の脱落で、2022年以降倒産は2年連続で増加した。

学習塾の倒産 年次推移

【原因別】販売不振が9割

 原因別は、最多の「販売不振」が41件(前年比46.4%増)で、全体の9割(構成比91.1%)を占めた。次いで、「事業上の失敗」(前年2件)、「運転資金の欠乏」(同1件)、「他社倒産の余波」(同4件)、「既往のシワ寄せ」(同ゼロ)が各1件だった。
 『不況型』倒産(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は、42件(前年比50.0%増)で全体の9割(構成比93.3%)を占めた。

2023(令和5)年 学習塾 原因別倒産状況

【形態別】消滅型が9割

 形態別は、消滅型が41件(前年比17.1%増)で全体の9割(構成比91.1%)を占めた。内訳は、破産が40件(前年比14.2%増)、特別清算が1件(前年ゼロ)だった。販売不振から先行きが見通せず、消滅型を選択せざるを得ない企業が大半を占めた。
 このほか、再建型は、民事再生法の4件(同ゼロ)だった。

2023(令和5)年 学習塾 形態別倒産状況

【資本金別】1千万円未満が9割

 資本金別では、1千万円未満が41件(前年比46.4%増)で、全体の9割(構成比91.1%)を占めた。内訳は、「1百万円以上5百万円未満」が15件(前年同数)、「個人企業他」が13件(前年比160.0%増)、「1百万円未満」が7件(同133.3%増)、「5百万円以上1千万円未満」が6件(同20.0%増)だった。
 このほか、「1千万円以上5千万円未満」が4件(同42.8%減)で、前年を下回った。

2023(令和5)年 学習塾 資本金別倒産状況

【負債額別】1億円未満が9割超

 負債額別では、負債1億円未満が43件(前年比34.3%増)で、全体の9割超(構成比95.5%)を占めた。内訳は、「1千万円以上5千万円未満」が40件(前年比37.9%増)、「5千万円以上1億円未満」が3件(前年同数)だった。
 このほか、「1億円以上5億円未満」が2件(前年比33.3%減)だった。

2023(令和5)年 学習塾 負債額別倒産状況

【地区別】最多の近畿が18件、次いで関東が13件

 地区別では、近畿が18件(前年比63.6%増)で最多だった。次いで、関東が13件(同8.3%増)、中部と中国が各4件(ともに同33.3%増)と続く。
 件数が10件を上回ったのは関東と近畿の2地区のみで、大都市圏に倒産が集中した。

2023(令和5)年 学習塾 地区別倒産状況

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年の「学習塾」倒産 件数、負債が過去最多 少子化と競争が激化、淘汰の時代に

大学受験予備校などを含む「学習塾」の倒産は、2024年は53件(前年比17.7%増)に達し、2000年以降では2023年の45件を超えて、過去最多を更新した(速報値)。 また、負債総額も117億4,400万円(同827.6%増)で、2023年(12億6,600万円)の9.2倍増と大幅に増え、2000年以降で過去最多となった。

2

  • TSRデータインサイト

2025年の展望=2024年を振り返って(11)

2025年は「私的整理の法制化」が本格的に動き出すが、企業倒産は厳しい見方が有力だ。企業自ら自立し、将来ビジョンをしっかり地に足をつけて描くことが求められる。

3

  • TSRデータインサイト

2025年の“周年企業”最長の900周年は「冠稲荷神社」  「100周年」は2,000社、創業100年超は4万6,601社

2025年は巳年。金運の象徴といわれる蛇にまつわる縁起の良い年と言われる。そんな年に創立900周年(1125年創業)を迎えるのが 「冠稲荷神社」(群馬県)だ。そして、800周年(1225年創業)は、「くじ取らず」の鉾として京都祇園祭で山鉾巡行の先頭を行く「長刀鉾保存会」が名を連ねる。

4

  • TSRデータインサイト

脱毛サロン「ミュゼプラチナム」3度の運営会社が変更 ~「船井電機」倒産余波の真相~

船井電機(株)が破産開始決定を受けて以降、脱毛サロン「ミュゼプラチナム」への関心が高まっている。これまでの運営会社の変遷をまとめた。

5

  • TSRデータインサイト

倒産増加と審査部の真価=2024年を振り返って(5)

審査担当者は長らく、肩身の狭い思いをしてきた。リーマン・ショックの影響が収まらない2009年12月、中小企業金融円滑化法が施行された。これは窮境状態にある企業に金融機関がとどめを刺すことを戒める法律で、返済猶予の件数報告が義務化された。これ以降、企業倒産は減少をたどった。

TOPへ