• TSRデータインサイト

2023年の「飲食業」倒産が過去最多を更新 人件費や食材費、光熱費の高騰で苦境に

~ 2023年「飲食業の倒産動向」調査 ~


 2023年の「飲食業」倒産(負債1,000万円以上)は、893件(前年比71.0%増)に達し、コロナ禍の需要激変で倒産が急増した2020年の842件を抜き、過去最多を更新した。
 コロナ関連支援策の終了や縮小に加え、客足や業績がコロナ禍前に戻らないまま、深刻な人手不足や物価高が収益を圧迫し、倒産を押し上げた。
 また、「新型コロナ関連」倒産も548件(同71.7%増)と大幅に増加した。飲食業倒産に占める構成比は61.3%(前年61.1%)と2年連続で6割を超え、アフターコロナでも飲食業は厳しい環境に置かれている。

 コロナ禍での外出抑制や新しい生活様式、時短営業や休業でアルバイトやパートなど従業員を削減した。だが、コロナ禍が落ち着いても離職した従業員は戻らず、深刻な人手不足に見舞われている。2023年の飲食業倒産では、「人手不足」関連倒産が集計を開始した2013年以降で最多の51件(前年28件)発生した。「物価高」倒産も59件(同9件)と前年の6倍超に急増し、コロナ禍の売上減少から回復できないまま、コストアップで資金繰りが悪化した飲食業者は少なくない。
 特に、コロナ禍で市場が急拡大した「宅配飲食サービス業」を中心に、「専門料理店」、「居酒屋」の3業種は過去最多を更新した。増加率では、「持ち帰り飲食サービス業」55件(前年比175.0%増)、「宅配飲食サービス業」67件(同97.0%増)の急増ぶりが目立った。

※ 本調査は、日本産業分類の「飲食業」(「食堂,レストラン」「専門料理店」「そば・うどん店」「すし店」「酒場,ビヤホール」「バー,キャバレー,ナイトクラブ」「喫茶店」「その他の飲食店」「持ち帰り飲食サービス業」「宅配飲食サービス業」)の2023年(1-12月)の倒産を集計、分析した。


飲食業倒産、前年の1.7倍に増加で過去最多

 2023年の「飲食業」倒産は3年ぶりに増加し、過去最多の893件(前年比71.0%増)だった。
 コロナ禍前の2019年は、人手不足と消費増税で飲食業界に厳しい環境が続き、飲食業の倒産は799件と東日本大震災のあった2011年(800件)に次いで、過去2番目に多かった。2020年は新型コロナ感染拡大と相次ぐ緊急事態宣言の発令で、過去最多だった2011年を上回る842件発生した。その後、手厚いコロナ関連支援の下支え効果で、飲食業倒産は2年連続で大幅に抑制された。
 2023年は5月に新型コロナ感染症が5類に移行し、インバウンド需要や人流の回復を中心に、アフターコロナへの動きが急ピッチで進んだ。一方で、各種コロナ関連支援は終了や縮小が相次ぎ、コロナ禍から業績が回復していない飲食業者は資金繰りに苦慮している。さらに、食材をはじめとする原材料費や光熱費の高騰、人手不足や最低賃金改定に伴う人件費の上昇、価格転嫁による客足の減少など、飲食業者の収益を圧迫する課題は山積している。飲食業倒産は、月次でも2022年11月から14カ月連続で前年同月を上回った。食材費や光熱費、人件費といったコストの上昇に収束の兆しは見えず、今後も飲食業の幅広い業態で廃業や倒産が増勢を強める可能性が高い。

飲食業の倒産 年推移

業種別 全業種で増加、「専門料理店」「居酒屋」「宅配飲食サービス業」は過去最多

 飲食業はすべての業種で前年より増加した。最多は日本料理店や中華料理店、ラーメン店、焼肉店を含む「専門料理店」の213件(前年比80.5%増、構成比23.8%) だった。以下、「食堂,レストラン」の203件(同81.2%増、同22.7%)、「酒場,ビヤホール(居酒屋)」の176件(同46.6%増、同19.7%)と続く。
 「専門料理店」「居酒屋」「宅配飲食サービス業」の3業種では、過去最多件数を更新した。
 増加率の最大は、「持ち帰り飲食サービス業」の前年比175.0%増(20→55件)。次いで、「宅配飲食サービス業」の同97.0%増(34→67件)。これら「持ち帰り」や「宅配」はコロナ禍で急速に需要が拡大したが、コロナの5類移行による顧客の減少や新規参入による競争激化により、淘汰に歯止めがかかっていない。

2023(令和5)年(1-12月)飲食業 業種小分類別倒産状況

原因別 「販売不振」が8割超え

 原因別の最多は、「販売不振」の734件(前年比71.8%増)だった。「販売不振」のうち、6割以上(64.7%)にあたる475件は新型コロナ関連倒産で、コロナ禍の影響が長引いている飲食業者は少なくない。
 『不況型』倒産(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は783件(前年比71.3%増)で、飲食業倒産に占める構成比は87.6%(前年87.5%)だった。

2023(令和5)年(1-12月)飲食業 原因別倒産状況

負債額別 「5億円以上10億円未満」が倍増

 負債額別では、最多が「1千万円以上5千万円未満」の648件(前年比94.0%増)で、飲食業倒産の7割(72.5%)を占めた。「5千万円以上1億円未満」の125件(前年比28.8%増)と合わせ、負債1億円未満の倒産が773件(同79.3%増)で、全体の86.5%と8割を超えた。
 飲食業倒産は引き続き小・零細規模を中心に発生しているが、増加率では「5億円以上10億円未満」の前年比100.0%増(5→10件)が最大で、中堅規模以上の飲食業者においても、倒産の増加が顕著になった。

都道府県別 増加34、減少11、同数2

 増加が34都道府県、減少が11県、同数が2県だった。
 10件以上発生した都道府県のうち、増加は、群馬466.6%増(3→17件)、山口233.3%増(3→10件)、三重216.6%増(6→19件)、広島180.0%増(10→28件)、兵庫150.0%増(26→65件)、福岡147.6%増(21→52件)、愛知135.4%増(31→73件)、滋賀133.3%増(6→14件)、東京85.0%増(80→148件)、静岡81.8%増(11→20件)、神奈川77.7%増(18→32件)、大阪70.4%増(61→104件)、奈良66.6%増(9→15件)、北海道56.2%増(16→25件)、千葉53.8%増(13→20件)、栃木45.4%増(11→16件)、茨城40.0%増(10→14件)、和歌山37.5%増(8→11件)、埼玉23.0%増(13→16件)、京都15.6%増(32→37件)、宮城7.1%増(14→15件)。
 減少は、新潟7.6%減(13→12件)だった。

2023(令和5)年(1-12月)飲食業 都道府県別倒産状況

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

約束手形の決済期限を60日以内に短縮へ 支払いはマイナス影響 約4割、回収では 5割超がプラス影響

これまで120日だった約束手形の決済期限を、60日に短縮する方向で下請法の指導基準が見直される。約60年続く商慣習の変更は、中小企業の資金繰りに大きな転換を迫る。 4月1~8日に企業アンケートを実施し、手形・電子記録債権(でんさい)のサイト短縮の影響を調査した。

2

  • TSRデータインサイト

「早期・希望退職者」募集は年間1万人超ペース 空前の賃上げの裏側で加速する構造改革

4月23日現在、「早期・希望退職者」の募集が判明した国内の上場企業は21社で、前年同期の16社を5社上回った。対象人数(国内)は3,724人(前年同期1,236人)で、前年同期の3倍に達した。すでに2023年(3,161人)の年間実績を563人上回り、構造改革の促進で年間1万人超のペースで推移している。

3

  • TSRデータインサイト

今年の“大型連休” 6割の企業が5連休 大企業の2%が10連休超、中小企業は2割が4連休以下

2023年春のゴールデンウィーク(GW)は何連休? 東京商工リサーチ(TSR)が4月3日から11日に実施したアンケート調査で、最多はカレンダー通りの5連休で全体の6割を占めた。

4

  • TSRデータインサイト

2024年の「中堅企業」は9,229社 企業支援の枠組み新設で、成長を促進し未来志向へ

東京商工リサーチの企業データベースでは、2024年3月時点で「中堅企業」は9,229社(前年比1.2%増、構成比0.7%)あることがわかった。うち2023年の中小企業が、2024年に「中堅企業」に規模を拡大した企業は399社だった。一方、「中堅企業」から「中小企業」へ規模が縮小した企業も311社みられた。

5

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】テックコーポレーションと不自然な割引手形

環境関連機器を開発していた(株)テックコーポレーションが3月18日、広島地裁から破産開始決定を受けた。 直近の決算書(2023年7月期)では負債総額は32億8,741万円だが、破産申立書では約6倍の191億円に膨らむ。 突然の破産の真相を東京商工リサーチが追った。

TOPへ