• TSRデータインサイト

粉飾発見に王道なし=2023年を振り返って(6)

 2023年ほど粉飾決算が注目された年はない。なかでも堀正工業(株)(TSR企業コード:291038832、取引停止処分後の7月破産)の粉飾決算は、後世に語り継がれるだろう。1933年創業の老舗ベアリング商社で、大手メーカーの代理店で地盤を固め、「堅い企業」と自他ともに認めていた、はずだった。
 堀正工業は3~4行の金融機関との取引を公表していた。だが、6月初めに全国各地の地銀東京支店の担当者が堀正工業を訪れ、お互いの顔を見合わせた。本社を訪問した地銀担当者の数は約50行。堀正工業が公表する金融機関の数を大きく超えていた。
 借入金も対外的に数十億円と説明していたが、実態は300億円を優に超える。金融機関ごとに勘定科目など細かく調整した決算書を作成し、融資を得ていた。
 関係筋によると、粉飾決算は約20年前から手を染めていたという。融資を受けるために利益を出す必要があり、売上高を水増しした。金融機関の多くは、大手行の元行員から堀正工業を紹介されたと話す。堀正工業の実態は、現在、破産管財人の調査が進められており、2024年には世紀の粉飾事件の闇が明らかにされる。
 一方で、150年の歴史を誇る医療器械商社の白井松器械(株)(TSR企業コード:570090164、9月民事再生法)も20年以上にわたる粉飾決算が発覚した。黒字を装うため売上高を水増ししたが、売掛金なども増大し、歪な数値となる。そのため決算書は、緻密に勘定科目などを調整した堀正工業とは対照的に、単純に売掛金などを大幅に減少させ、異常値が出ないようにした。大胆な粉飾が発覚した契機は、150周年の記念品を金融機関が贈ったことで取引行の数に疑念が生じたようだ。2社とも粉飾決算には最大の留意をしたが、どこかに穴が開いていた。
 産業用ロボット部品製造の(株)トガシ技研(TSR企業コード: 212044419、2月民事再生法)の粉飾も衝撃的だったが、どこか昭和のレトロな粉飾だった。親密先の(株)オフィスエフエイ・コム(TSR企業コード:262040085)が2022年7月、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。その債権者名簿にトガシ技研への支払手形22億円が記載されていた。22億円はトガシ技研の年商の約半分に匹敵する。尋常でない手形の存在が明るみになり、トガシ技研は融通手形、架空売上を関係者に告白した。
 金融再編で統合された金融機関同士で取引内容を突き合わせ、早い段階で異変を察知した金融機関はあったが、取引を停止するだけで他行にその情報は洩れなかった。粉飾発見に王道はない。常識と財務分析に頼らず、持てるリソースを総動員して警戒するしかない。

堀正工業が入居していたビル(6月)
堀正工業が入居していたビル(6月)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ