• TSRデータインサイト

2023年上半期(1-6月)の「後継者難」倒産 過去2番目の209件、2年ぶり前年同期を下回る

~ 2023年上半期(1‐6月)の「後継者難」倒産 ~


 2023年上半期(1-6月)の後継者不在に起因する「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は209件(前年同期比7.1%減)で、上半期では2年ぶりに前年同期を下回った。ただ、調査を開始した2013年以降、最多だった前年同期(225件)に次ぐ2番目の多さで、依然として高水準をたどっている。

 要因別は、代表者の「死亡」が99件(前年同期比18.8%減)と最多。次いで、「体調不良」が76件(同5.5%増)と続く。「高齢」は24件(同9.0%増)で、2年連続で前年同期を上回った。
 高齢の経営者が業績不振や事業意欲の喪失で後継者探しを諦めるケースも増えている。
 産業別では、最多が建設業(同1.9%減)とサービス業他(同9.0%減)の各50件。次いで、製造業38件(同11.7%増)、卸売業27件(同27.0%減)、小売業22件(同8.3%減)の順。
 資本金別では、1千万円未満が117件(同9.3%減)と半数以上(構成比55.9%)を占め、小・零細企業を主体にしている。
 事業規模が小さいほど人的・資金的な制約があり、独自の事業承継や後継者育成の取り組みには限界を抱えている。一方、規制緩和で金融機関が独自に投資専門子会社を設立し、事業承継の支援のために企業買収を行うことも可能になった。また、個人が投資家の支援を受けて自分で経営したい会社を探す「サーチファンド」も注目され始めている。経済活動が平時に戻るなかで、中小企業の事業承継や後継者育成に本格的な支援が必要な時期を迎えている。

※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2023年上半期(1-6月)の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。


上半期の「後継者難」倒産 2年ぶりに減少も200件台と高水準

 2023年上半期(1-6月)の「後継者難」倒産は、209件(前年同期比7.1%減)と上半期では2年ぶりに前年同期を下回った。しかし、2年連続で200件超を持続し、調査を開始した2013年同期以降、前年同期の225件に次いで2番目の多さとなった。
 コロナ禍の収束が見えなかった2022年は、3月に過去最多の月間50件が発生するなど増勢をたどった。しかし、2023年はコロナ禍の沈静化もあり、一進一退で推移した。
 後継者の有無は、企業が事業継続する上で重要な意味を持つ。これは金融機関だけでなく、企業でも取引する際の判断材料にもなっている。ただ、中小企業は代表者の高齢化が進む一方で、コロナ禍の市場激変を背景に、後継者の育成や事業承継の準備まで手が回らなかったのが実情だ。
 後継者不在による企業の倒産や廃業は、ひとつの企業だけでなく、地域雇用の受け皿や衰退に直結する問題でもある。アフターコロナでは、自治体や金融機関などが事業承継の支援に取り組み始めているが、高齢化が加速する下では時間との競争にもなっている。

年上半期「後継者難」倒産推移

【要因別】「体調不良」「高齢」が増加

 要因別は、最多が代表者などの「死亡」の99件(前年同期比18.8%減)で、上半期では4年ぶりに前年同期を下回った。構成比は47.3%で、前年同期54.2%から6.9ポイント低下した。
 次いで、「体調不良」が76件(前年同期比5.5%増、構成比36.3%)で、2年連続で前年同期を上回った。
 「死亡」と「体調不良」は計175件(前年同期比9.7%減)で、4年ぶりに前年同期を下回ったが、構成比は83.7%(前年同期86.2%)と80%台を維持している。
 また、「高齢」が24件(前年同期比9.0%増)で、2年連続で前年同期を上回った。代表者の年齢が年々上昇するなか、業績低迷から抜け出せない企業は代表者が事業意欲を喪失し、事業継続を諦めるケースも増えている。
 多くの中小・零細企業は、経営者の判断が資金調達を含めて経営全般を差配している。特に、コロナ禍では日々の業務に追われ、後継者育成や事業承継への対応が後回しになってきた。事業承継には5~10年ほどの期間が必要と言われ、代表者に不測の事態が発生すると、方向性を見失い事業継続が困難に陥るケースが少なくない。

「後継者難」倒産 要因別(上半期)

【産業別】増加3産業、減少5産業、同件数2産業

 産業別は、10産業のうち、増加が3産業、減少が5産業、同件数が2産業だった。
 製造業38件(前年同期比11.7%増)が2年連続、金融・保険業1件(前年同期ゼロ)と不動産業8件(前年同期比14.2%増)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 一方、建設業50件(同1.9%減)と小売業22件(同8.3%減)が2年ぶり、卸売業27件(同27.0%減)と運輸業6件(同40.0%減)が4年ぶり、サービス業他50件(同9.0%減)が8年ぶりに、それぞれ前年同期を下回った。
 農・林・漁・鉱業2件と情報通信業5件が、前年同期と同件数だった。


 業種別では、一般管工事業8件(前年同期6件)、木造建築工事業7件(同2件)、食堂,レストラン5件(同2件)、不動産代理業・仲介業4件(同2件)、中古自動車小売業(同2件)と訪問介護事業(同ゼロ)が各3件。また、ガラス工事業、電気通信工事業、めん類製造業、一般製材業、製缶板金業、建設機械・鉱山機械製造業、食肉卸売業、肥料・飼料卸売業、鮮魚小売業、花・植木小売業、測量業、日本料理店、そば・うどん店、喫茶店、配達飲食サービス業、劇団、有床診療所、職業紹介業が各2件などで、前年同期を上回った。

「後継者難」倒産 産業別(上半期)

【形態別】消滅型の破産が9割

 形態別は、「破産」が191件(前年同期比7.2%減)で、上半期では4年ぶりに前年同期を下回ったが、構成比は91.3%(前年同期91.5%)と9割を占めた。また、「特別清算」は、前年同期と同件数の6件だった。「民事再生法」は、前年同期と同件数の1件にとどまった。
 中小・零細企業は、高齢の代表者が死亡、体調不良に直面した場合、後継者がいない場合は、経営再建より破産を選択するケースが多いことを示している。

「後継者難」倒産形態別(上半期)

【資本金別】1千万円未満が半数以上を占める

 資本金別は、「1千万円未満」が117件(前年同期比9.3%減)で、上半期では2年ぶりに前年同期を下回った。構成比は55.9%(前年同期57.3%)に低下した。
 このほか、「5千万円以上1億円未満」が5件(前年同期比37.5%減)で、7年ぶりに前年同期を下回った。一方、「1千万円以上5千万円未満」が87件(同1.1%増)で、4年連続で前年同期を上回った。「1億円以上」は、2年ぶりに発生しなかった。

「後継者難」倒産資本金別(上半期)

【負債額別】1億円未満が7割超

 負債額別は、「1億円未満」が156件(前年同期比2.6%増)で、上半期では2年連続で前年同期を上回った。構成比は74.6%(前年同期67.5%)に上昇した。
 このほか、「5億円以上10億円未満」が8件(前年同期比33.3%増)で、2年ぶりに前年同期を上回った。一方、「1億円以上5億円未満」が45件(同30.7%減)で、4年ぶりに前年同期を下回った。「10億円以上」は、2014年同期以来、9年ぶりに発生がなかった。

「後継者難」倒産 負債額別(上半期)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

ハンバーガー店の倒産、最多更新 ~ 材料高騰、大手と高級店の狭間で模索 ~

年齢を問わず人気のハンバーガー店が苦境だ。2024年は1件だった倒産が、2025年は8月までに7件に達し、過去最多の2014年の年間6件を上回った。

2

  • TSRデータインサイト

2025年「全国のメインバンク」調査 ~GMOあおぞらネット銀行 メイン社数の増加率2年連続トップ~

「2025年全国企業のメインバンク調査」で、GMOあおぞらネット銀行が取引先のメインバンク社数の増加率(対象:500社以上)が2年連続でトップとなった。

3

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

「葬儀業」は老舗ブランドと新興勢力で二極化 家族葬など新たな潮流を契機に、群雄割拠

全国の主な葬儀会社505社は、ブランド力の高い老舗企業を中心に、売上高を堅調に伸ばしていることがわかった。 ただ、新たに設立された法人数が、休廃業・解散や倒産を上回り、市場は厳しい競争が繰り広げられている。

5

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

TOPへ