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必要なのは地域に対するコミットメントと「面」での取り組み ~ TRAIL 戸田隆行代表 単独インタビュー(後編) ~

―報酬体系について

 基本はリテイナーでの月額支援料を頂戴している。ただ、我々の目的はスモールカンパニーの経営変革にあるため、インセンティブ型で共同事業パートナーのようにやっていく方がお互いにより健全だ。特に、再建や再生の局面ではただでさえお金がないので、支援料が(破たんの)決め手でした、みたいな話にもなりかねない。

―インセンティブの基準は
 黒字化やEBITDA等の経営指標の目標達成などを基準に、幹部社員のような意味合いで業績賞与に近い位置づけでボーナスをいただく。株式売却等に連動したフィーのほうが大きいこともあるが、会社や社員の方に目が向かなくなり、うまくいかないと思っている。
 変な言い方だが、別に一つの案件で大きく儲からなくてよい。重要なのは、いろんなポートフォリオに「面」で取り組むこと。日本はとくに地縁を大事にするので、地域に対するコミットメントが必要。同じ地域なのに、こっちの会社は助けてこっちは助けない、というのはなるべくやめたほうがいい。その意味では、利益が見込まれるまでに長い時間を要するような案件にも真摯に対応している。

―株式の所有は
 大学発ベンチャーの支援等ではありえる。だが、VCなど機関投資家のご意向もあるので、そこで大きく利益回収できるほどの保有率にはならない。また、株式を持ち始めると、例えばここのラーメン屋の株を持っているので隣の蕎麦屋は助けない、というようなことにもなってくる。そうではなく、我々は囲い込むよりも、支援できる会社の裾野を広く、大きく間口として取っていきたい。


インタビューに答える戸田代表
インタビューに答える戸田代表

―世間は余剰人材の流動化に向かっている
 新規事業や再建といった経営変革の現場は、プロダクトマーケットフィットの実現が一つの鍵を握る局面だ。特に再建の場合は、市場や時流とのズレをもう一度組み直すことになる。これは通常の経営に比べて100倍以上に難しい感覚。そんなところに“(他の都合で)余っている人材”を、といっても、ぴったりの人材はほぼいないのではないか。

―公的支援の機運も高まっているが差別化は
 正直、差別化はとくに意識していない。ただ、「実際に当事者として経営をやったことがある人」は、世の中に圧倒的に少ない。当たり前だが、経営者はずっと自社の経営をやっているし、能力のある経営企画もなかなか社外に出ない。だから、我々のようにわざわざ経営変革の業務を当事者として一定期間、インハウスで受けるという面倒なことをやる人は、これからも少ないと思うし、ましてやこれを組織化するのは簡単ではない。
 また、本業支援を具体化できる専門家の先生も少ない印象で、そうなると結局は、会社側に任せることになる。だが、そもそもそれができないからこそ厳しい状況に陥っている。我々は、そういった会社の内に入って、ビジネスそのものを変えていく支援においてご評価をいただいてきた。

―最近は「ハンズオン」での支援、という言葉をよく聞く
 ハンズオンという言葉そのものが、コンサル会社や投資家による外部者からの視点。だから、外部から現地に常駐すれば物理的にはハンズオンだが、中身が経営管理をするだけでは経営変革にまでつながりにくい印象だ。
 我々の事業のコアは、変革ミッションの見極めと時間軸の区切り方、さらには高度の経験を有するメンバーを機会を逃すことなくチーム編成し、適正な価格で請け負うといった、中小企業の様々な局面と現場を見てきたからこその変革現場の運用ノウハウにある。言葉で伝わりづらいが、これはハンズオンという定義を超えたアプローチだと感じる。

―アフターコロナの現場で足りないものは
 自社の対象としている顧客や需要の形、そのマーケットの見立てや変化の捉え方ではないか。業績が悪い会社の多くは、今までの歴史がある一方で、マーケットに対する視野が非常に狭くなっており、戦略の選択肢も少なく、業態も陳腐化していることが多い。
 また、昨今の需要として実際、コロナ前のトップラインまで戻っていない会社も多く、「アフターコロナは2019年の姿に戻ることではない」ことを踏まえた経営戦略や事業計画に仕切り直すことをお勧めしている。

―あまり好調ではない会社の社長が交代になると、信用不安として捉えられがちだ
 個人的には、社長交代の事実や経緯がはっきりと外部に示されないほうが不透明で、むしろ良くないと思っている。会社が難しい局面にあるとしても、それはそれで身の丈通りに評価してもらうこと自体は、透明性という観点からは問題ないのではないか。
 経営という仕事や立場は、結局のところ、透明性を高くしていくしかないと思っている。業績の悪い会社の社長交代そのものは信用不安の原因になり得るかもしれないが、新しく着任した人が今までやってきたことや、社長にアポイントされた経緯を見てもらい、いいきっかけにすることがむしろ大事だ。

―地域社会にとっての「続けるに値する会社」とは
 一概に言えないが、意識しているのは、支援先の会社に勤めているお父さんやお母さんは、その給料でお子さんの教育や、或いは介護中のおじいちゃん、おばあちゃんの生活を支えている。その一つ一つが地域(コミュニティ)の基盤を形成しているので、この流れが極力、止まらないようにすることが大切。
 頭の良い方だと、リスキリングや資格取得で人材が流動できると思っている。でも、実際にはそう上手くはいかない。しかも、一回事業を壊してしまった後に新しいところに行くのは、個人にとっても会社にとっても大変だ。それならば、まずは今のところでもう一度再起を図り、勝ち筋を見つける方がいい。

―スモールカンパニーの経営変革はまずは「止める」ことから?
 余白が大切になってきていると感じる。生産性は大事だが、やや意識が偏り過ぎているかもしれない。私も含め、宿題をこなすことに慣れた日本人は、課題をこなすことで仕事をしたと思いがちだ。でも実際には、新しく何かを生み出すことが、本来その日にやるべきことだったかもしれない。そして、余白がないと生まれないことは絶対にあるので、きれいごとかもしれないが、一定の余白があってこそ、経営の変革につながるのだと思う。
 

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年7月4日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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