• TSRデータインサイト

粉飾発覚の堀正工業、不動産・株式投資と「異常な保険勘定」

 粉飾決算が発覚した後、再度の資金ショートを引き起こし、行き詰まりを表面化した堀正工業(株)(TSR企業コード:291038832、東京都)。金融機関約50行から集めた300億円以上の資金はどこに流れたのか。弁護士の手で調査が進められているが、まだ詳細は明かされていない。
 関係先にヒアリングすると、資金使途は複数の可能性が浮上する。
 1つ目は、「赤字補填」だ。金融機関に送付した通知書には、「継続的に債務超過状態」と記載されている。取り繕われた決算書(2022年9月期)の純資産額は約50億円の資産超過となっているが、実態は赤字が常態化し、繰越損失を抱えていた可能性がある。
 資産背景を探ると、堀正工業の代表者は自身の名義で東京都港区のタワーマンション(1室)を保有していた。取得後、数年間は無担保だったものの、親族が保有する大田区内の不動産とともに担保に提供し、2009年6月に堀正工業を債務者として3億円の根抵当権が設定された。この担保は2010年5月に解除されたが、一時的な資金需要を伺わせる。また、複数の金融機関は、かなり以前に決算書へ疑問を持っており、取引終了が資金繰り悪化に拍車をかけた可能性もある。
 2つ目は、不動産や株式の購入、保険契約への充当だ。代表者名義では、前述の東京都港区のタワマンを2005年12月に取得(2020年11月売却)している。堀正工業名義では2022年5月、著名人が保有していた長野県の高級別荘地の不動産(土地・建物)を購入している。
 また、東証プライムの(株)アイケイ(TSR企業コード: 400747812、現:(株)IKホールディングス)の大株主(12万株、割合1.56%、2023年5月期中間決算時点)に堀正工業が名を連ねていることが確認され、ベアリング商社の株式も取得している。また、代表者個人でも、複数企業の株式を保有している。最近では、東北の企業と提携に向け堀正工業として資金調達を画策していた。
 関係先に提出された決算書の勘定科目明細によると、投資等資産に複数の勘定に分かれて保険料が計上され、総額は数十億円にのぼる。計上内容が事実だとすると、これへの資金充当も考えられる。なお、複数の金融機関に堀正工業を紹介したとされる人物は保険関係の営業で、この点も関心を集めている。
 3つ目は、海外を含めた関連会社や堀正工業の代表者が経営に関与する企業への資金流出だ。東京商工リサーチ(TSR)のデータベースでは、国内企業だけで約10社が確認される。イチゴ栽培や保育所、飲食店の運営などで、こうした企業に飛び火した場合、法人取引だけでなく広い分野に影響が及ぶ可能性もある。
 TSRの調査によると、粉飾決算の発覚後、堀正工業の代表者は兼任する一部企業の代表を退任している。
 稀にみる煩雑な粉飾決算を仕掛けた堀正工業に、一部の金融機関は捜査機関への相談や訴訟を検討するなど対応に手を焼いている。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月27日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

ハンバーガー店の倒産、最多更新 ~ 材料高騰、大手と高級店の狭間で模索 ~

年齢を問わず人気のハンバーガー店が苦境だ。2024年は1件だった倒産が、2025年は8月までに7件に達し、過去最多の2014年の年間6件を上回った。

2

  • TSRデータインサイト

2025年「全国のメインバンク」調査 ~GMOあおぞらネット銀行 メイン社数の増加率2年連続トップ~

「2025年全国企業のメインバンク調査」で、GMOあおぞらネット銀行が取引先のメインバンク社数の増加率(対象:500社以上)が2年連続でトップとなった。

3

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

「葬儀業」は老舗ブランドと新興勢力で二極化 家族葬など新たな潮流を契機に、群雄割拠

全国の主な葬儀会社505社は、ブランド力の高い老舗企業を中心に、売上高を堅調に伸ばしていることがわかった。 ただ、新たに設立された法人数が、休廃業・解散や倒産を上回り、市場は厳しい競争が繰り広げられている。

5

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

TOPへ