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「みんな電力」のUPDATER・大石社長、非FITの小規模発電所との提携「他社ではできない」 単独インタビュー(後編)

―設立当時(2016年)は、原発事故などで従来の電力大手にアレルギーを持つ人もいたのでは

 大半は“それとこれとは別”という感じだった。原発事故に対しては憤っているけれど、「家の電気は安いほうがいい」という声が圧倒的だった。(反原発を訴える)一部の方は当社に変更していただいた。そういう方は、「自分の電気代をしっかりと自分の意思するところに払いたい」という思いからだ。
 あの頃は、「自由化しましたので、電気代は安くなります」という報道が先行していた。携帯電話契約とのセット割引が代表的で、注目を浴びたのは「安売りの新電力」だった。
 ただ、インフラ周りは、安定志向もあって「電力会社を変えたら停電するのではないか」、「自宅によくわからない電線を引きに来る」などと思い込まれる層もあり、「新電力だと不安だ」という声は少なくなかった。


―契約者が増えたきっかけは

 初動はやはりメディアの力だ。電力自由化は、始まるタイミングで連日報道されていた。テレビの特集は、パターンが決まっていて、まず、東京電力は電力自由化にあたって、こういう戦略でやります、次に、それを迎え撃つ東京ガスや大阪ガス、対抗軸として携帯電話会社も参入、という流れだ。一方、当社は「よくわからないベンチャーが100%再エネの電気を高く売っています」というオチとして扱われていた。ただ、そこでユニークな会社として認知され、知名度は徐々に広がっていった。その後は“顔の見える電力”として、電力の生産者と直接契約を結んでいる独自の取り組みに支持が広がった。


―調達先を明らかにするのは難しい

 昨今は、環境を破壊してメガソーラーを作るとか、パーム油によるバイオマス発電なんかも再エネとして扱われる。また、アマゾンで違法伐採したものを焚いて「再エネです」と言っている業者もいる。同じ再エネでも、実際は一緒ではない。当社の電気はブロックチェーンを活用し、トレーサビリティ を付けて提供している。家電製品を動かすという意味では一緒かもしれないが、こだわって(電力を)仕入れることが、むしろ付加価値という考えでずっとやっている。


―丸井、スターバックス、カシオ、TBSなどの企業がみんな電力の供給を受けている

 脱炭素の流れが日本にもやってきたタイミングでこうした企業からも注目いただいた。今、日本で出回っている再エネのほとんどは、「実質再エネ」と呼ばれる電気だ。これら事業者の多くは、非化石証書というカーボンクレジットを別に買っている。購入した電力会社は、化石電源を使っていても「実質再エネ」と名乗ることができる。国内では、皆さんご存じない方がほとんどだが、グローバル企業ではこのからくりが結構知られていて、実質再エネを嫌う外資もある。国内でもRE100企業 の多くは当社を使っている。




―なぜ他の新電力は100%再エネをやらないのか

 当初は発電所6カ所だった調達先が、現在900カ所まで拡がった。今後、もしかしたら大きな資本が、どこかの風力を使いますという事例が出てくるかもしれない。ただ、我々のような分散型の小規模の再エネ発電所の集まりはできない。そんな面倒なことをしようとするプレーヤーはいないだろう。
 大量の細かい再エネをまとめた際に、集めたエネルギーは“群”になる。電力の量は多いが、集めた“群”の需給管理が重要となる。それを管理するノウハウを持っている業者がいない。例えば、風力発電所も非FIT になると、供給過多の場合、発電インバランスとなり、ペナルティが発生する。当社の再エネは、群になっているから発電所1カ所で発電量がブレても、他の発電所が補うため、電力がバランスする。群になっていく方がブレ幅は総合して小さくなり、平均化されていく。


―競合は再エネも手掛ける大手エネルギーか

 大手の再エネは、実質再エネなので競合しないと思っている。今はマーケティング力で実質再エネが割とスタンダードになっている。当社としては、そこに与する必要はなく、質を高め続ける逆張りで生きていくことが大事だと思っている。結果的には100%再エネの良さを分かってもらえて、「どうせ選ぶのだったら、本当の再エネ」という意識に変わっていけばいい。「セット売り」も興味はない。

 大手のメガソーラーなどではなく、小規模分散型を集めて、地域に根ざした再エネ発電所に適切にお金を循環させていくのが当社の役割だと思っている。安売りするとブランド価値の低下も招きかねない。


―調達動向によっては電力会社への販売も強化するのか

 非FITの分を売っていく。結局はペナルティの問題も絡んでくるので、発電・需要予測が重要になる。 再エネ専業で、風力の予測技術や需給管理ノウハウのある会社はそうそうない。そのノウハウを活かすという意味でも非FIT電力の買取、販売をさらに強化したい。



 新電力企業でありながら、電力卸売価格の連動を半分に抑えた料金プランを開始し、注目されたUPDATER。近年は卒FIT電源など、非FIT電源・発電所からの調達割合を増やし、卸電力取引所に頼らない電力調達を進めている。100%市場連動価格を採用している電力会社を中心に、冬の需要期には電気代が高騰し、1カ月の電気代が10万円を超える家庭も散見された。大石社長は「その10万円のうち半分以上が市場に支払われている。もったいない」と語る。
 上場企業は、気候変動リスクなどESGに関するテーマの開示も本格化を迎える。今後、100%再生可能エネルギーを活用した電力への需要は企業、家庭を問わず高まっていくだろう。膨らむ需要に応じた非FIT電源の調達をどこまで拡大できるか注目される。


                                  取材に応じる大石社長(6月初旬)


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