• TSRデータインサイト

アフターコロナの営業戦略「増員」が最多 企業は「人海戦術」頼み、AI活用は1割未満

~ 「営業戦略・AIツールに関するアンケート」調査 ~


 コロナ禍で停滞した経済活動の再活性化で、企業は新たな営業戦略を模索している。東京商工リサーチが6月に実施したアンケート調査では、約半数(46.2%)の企業が営業戦略の重点策として「営業担当者の増員」と回答した。また、AIツールを業務に活用している企業は7.8%と1割に満たず、約8割(76.8%)は「方針は決めていない」と回答した。政府は「新しい資本主義」の実行計画で、生産性向上や省力化に向けDX導入を進めるが、ビジネス現場ではAIツールより、マンパワーで難局を乗り切ろうとする実態が浮かび上がった。

 今回のアンケート調査で、営業戦略は「営業外注の導入・強化」を除くすべての項目で大企業が中小企業を上回った。投資余力のある大企業ほど、アフターコロナに向け着々と始動している。だが、「営業担当者の増員」や「展示会への出展」など、アナログな手段が営業戦略の上位を占めるなど、旧態依然とした側面もみせた。
 AIツールの活用は、約8割の企業が「方針を決めていない」と回答し、情報通信業でも5割台にとどまった。情報通信業はAIツールの「活用」も「禁止」も、それぞれ産業別のトップだった。AI技術への関心は高いが、セキュリティと同時に資金面がネックになっている可能性もある。
 人口減少で人手不足と効率化が経営課題として重みを増している。人海戦術に頼らない営業戦略が重要になるが、企業がDX導入などの省力化や効率アップに取り組むには時間がかかりそうだ。

※ 本調査は、2023年6月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,565社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1. 活性化する経済活動を自社に取り込むため、貴社ではどのような営業戦略を立てていますか?(複数回答)

「営業担当者の増員」が最多
 営業戦略では、最多は「営業担当者の増員」の46.2%(4,363社中、2,016社)で、次いで、「Webマーケティングの導入・強化」30.2%(1,319社)、「展示会への出展」21.5%(939社)の順だった。DXより、手っ取り早く増員や展示会での認知アップに取り組む姿勢がうかがえる。
 規模別では、「展示会への出展」は大企業32.0%(552社中、177社)に対し、中小企業19.9%(3,811社中、762社)で、12.1ポイントの差が開いた。また、「CRM(顧客関係管理)の導入・強化」は大企業23.7%(131社)、中小企業14.8%(566社)、「営業担当者の増員」は大企業53.8%(297社)、中小企業45.1%(1,719社)で、それぞれ大企業が上回った。
 一方、「営業外注の導入・強化」は大企業10.5%(58社)に対し、中小企業は19.8%(3,811社)で、中小企業が上回った。中小企業は、生産設備や人員増強への投資を含め、営業活動への投資が難しく、外注に依存する傾向を強めているようだ。

「営業担当者の増員」が最多

Q2.貴社ではAIツールを業務に活用していますか?(択一回答)

「方針未定」が約8割
 業務効率化や省力化への対応としてAIツールを業務に活用しているかを聞いた。5,565社から回答を得た。
 最多は「方針は決めていない」で約8割(76.8%、4,274社)の企業が、AIツールの業務活用に消極的で、現段階では方針を決めていないことがわかった。
 一方、「会社として活用を推進している」は3.5%(197社)、「部門によっては活用している」は4.3%(242社)で、社内活用を推奨する企業は合計7.8%(439社)と1割に満たなかった。
 規模別では、大企業は「会社として活用を推進している」が4.2%(686社中、29社)、「部門によっては活用している」が5.9%(41社)に対し、中小企業はそれぞれ3.4%(4,879社中、168社)、4.1%(201社)で、AIツールの活用率は大企業が上回った。ただ、大企業では「業務への活用は禁止している」も6.1%(42社)で、中小企業の2.4%(119社)を3.7ポイント上回った。大企業でも、セキュリティ面を含め業務の効率化へのAIツールへの対応が分かれている。
 産業別では、情報通信業が「会社として推進」11.1%(341社中、38社)、「部門によっては活用」9.0%(31社)、「個人では活用」22.8%(78社)、「業務では禁止」6.7%(23社)のすべてで他9産業を上回った。IT関連企業も多い情報通信業では、いち早くAIツール導入の検討を進めながらも、運用は部署や個人任せの姿勢も目立つ。

「方針未定」が約8割

「インターネット付随サービス業」は約4割

 AIツールの活用状況を業種別(中分類、母数10社以上)で分析した。
 「会社として活用を推進している」と「部門によっては活用している」の合計が最も高かったのは、「インターネット付随サービス業」の36.3%(11社中、4社)だった。次いで、「各種商品卸売業」の21.8%(32社中、7社)、「映像・音声・文字情報制作業」の21.7%(23社中、5社)の順。
 上位10業種のうち、4業種を「サービス業他」、3業種を「情報通信業」が占めた。

「インターネット付随サービス業」は約4割

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年1-6月「負債1,000万円未満」倒産 261件 2010年以降で3番目の高水準「破産」が約98%

2024年上半期(1‐6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)は4,931件で、年間1万件を超えるペースで増勢をたどっている。また、負債1,000万円未満の小規模倒産も261件(前年同期比6.9%増)で、2010年以降では3番目の高水準となった。

2

  • TSRデータインサイト

2024年上半期「バー」「キャバクラ」等の倒産47件 過去10年で最多、コロナ禍と物価高で変わる夜の街

コロナ禍が落ち着き、街にはインバウンド需要で外国人観光客が増え、人出が戻ってきた。だが、通い慣れたお店のドアは馴染み客には重いようだ。2024年上半期(1-6月)の「バー,キャバレー,ナイトクラブ」の倒産は、過去10年間で最多の47件(前年同期比161.1%増)に急増した。

3

  • TSRデータインサイト

上半期の「飲食業倒産」、過去最多の493件 淘汰が加速し、「バー・キャバレー」「すし店」は2倍に

飲食業の倒産が増勢を強めている。2024年上半期(1-6月)の飲食業倒産(負債1,000万円以上)は493件(前年同期比16.2%増、前年同期424件)で、2年連続で過去最多を更新した。現在のペースで推移すると、年間では初めて1,000件超えとなる可能性も出てきた。

4

  • TSRデータインサイト

2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」が年間最多 件数175件、流出・紛失情報も最多の4,090万人分

2023年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は、175件(前年比6.0%増)だった。漏えいした個人情報は前年(592万7,057人分)の約7倍の4,090万8,718人分(同590.2%増)と大幅に増えた。社数は147社で、前年から3社減少し、過去2番目だった。

5

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均は1ドル=143.5円 3期連続で最安値を更新

株式上場する主要メーカー109社の2024年度決算(2025年3月期)の期首の対ドル想定為替レートは、1ドル=145円が54社(構成比49.5%)と約半数にのぼることがわかった。 平均値は1ドル=143.5円で、前期から14.5円の円安設定だった。期首レートでは2023年3月期決算から3期連続で最安値を更新した。

TOPへ