2022年度の「人手不足」関連倒産 79件 コロナ禍で最多を記録、景気回復も逆風に
2022年度(4-3月)の「人手不足」関連倒産は79件(前年度比51.9%増)で、コロナ禍では2020年度(74件)を超え、最多を記録した。前年度を上回ったのは3年ぶり。
「人手不足」関連倒産のうち、「従業員退職」が33件(前年度比50.0%増)、「求人難」が29件(同20.8%増)で、この2要因で計62件(同34.7%増)と約8割(構成比78.4%)に達した。経済活動の本格的な再稼働で、好条件の企業へ労働力が移動する懸念も強まっている。また、「人件費高騰」が17件(前年度比183.3%増)と、前年度(6件)の3倍近くに増加した。大手から中小企業まで賃上げの機運が高まるなか、人件費アップによる収益悪化に直面する中小企業の苦境が浮かび上がる。
産業別では、最多がサービス業他の29件(前年度比26.0%増)。次いで、建設業14件(同27.2%増)、運輸業13件(同160.0%増)と続き、7産業で前年度を上回った。
資本金別では、1千万円未満が49件(構成比62.0%)、負債額別では1億円未満が47件(同59.4%)と、小規模の倒産が大半を占めた。また、形態別では、破産が77件(同97.4%)と、業績回復が遅れるなか、人手不足で受注機会を喪失し、事業継続に支障をきたす企業が少なくない。
本格的な事業の再開で人手不足が深刻さを増し、人材確保のため賃上げが避けられなくなっている。だが、過剰債務を抱えて、業績回復が遅れた中小企業には賃上げは容易ではない。こうした二律背反の状況に追い込まれた中小企業を中心に、「人手不足」関連倒産が増勢を強めている。
※本調査は、2022年度(4-3月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業 員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。
倒産件数79件、3年ぶりに前年度を超える
2022年度の「人手不足」関連倒産は79件(前年度比51.9%増)で、3年ぶりに前年度を上回った。コロナ禍初期の2020年度の74件を上回り、経済活動の再開とともに人手不足が顕在化し、「人手不足」関連倒産も増勢に転じた。
人手不足が顕著となった2019年度は160件と、調査を開始した2013年度以降で最多を記録した。その後、2020年2月の新型コロナウイルス感染拡大で経済活動が停滞、市場が縮小すると、一転して「人余り」が顕著になり、2020年度は74件、2021年度は52件と急激に減少した。
しかし、アフターコロナを迎え、経済活動が活発になると賃上げが大きなテーマに浮上し、人手不足が明らかになった。大手企業や金融機関などが相次いで賃上げを発表し、さらに中小企業を追い詰めている。もともと経営体力が脆弱な中小企業は、賃上げは資金繰りに直結する。さらに、赤字に陥ると金融機関からの融資にも影響を及ぼす。エネルギー上昇や物価高などでコストアップが重くのしかかり、人手不足は受注機会を逃し業績回復がさらに遅れかねない。こうした厳しい環境下で、事業継続の断念に追い込まれる企業が増加する可能性が高まっている。
【要因別】最多が「従業員退職」の33件
要因別の最多は、「従業員退職」の33件(前年度比50.0%増)で、3年ぶりに増加した。構成比は41.7%で、前年度の42.3%より0.6ポイント低下した。
次いで、「求人難」の29件(前年度比20.8%増、構成比36.7%)で、4年ぶりに前年度を上回った。
従業員を確保できない「求人難」と人材喪失の「従業員退職」は計62件(前年度比34.7%増、構成比78.4%)で、3年ぶりに前年度を上回った。
このほか、人材確保のための賃金上昇による「人件費高騰」が17件(前年度比183.3%増)と急増した。
賃上げ機運が高まる反面、経営基盤の脆弱な企業ほど賃金アップは資金繰りの悪化を招きかねない。また、賃上げが消極的な企業は従業員の定着率の低下につながり、求人を出しても人が集まらない悪循環に陥っている。経済活動が本格的に再開するとともに、「人手不足」関連倒産がさらに増える環境が出来つつある。
【産業別】10産業のうち、7産業で増加
産業別では、10産業のうち、卸売業、金融・保険業、不動産業を除く7産業で前年度を上回った。
最多は、サービス業他の29件(前年度比26.0%増、構成比36.7%)で、3年ぶりに前年度を上回り、2020年度と同件数だった。
このほか、建設業14件(前年度比27.2%増)と運輸業13件(同160.0%増)が、それぞれ4年ぶりに前年度を上回った。建設業はコロナ禍の前から人手不足が深刻で、運輸業は「2024年問題」を前に人材確保が最優先課題になっている。
また、農・林・漁・鉱業1件(前年度ゼロ)と製造業11件(前年度比1000.0%増)、小売業4件(同33.3%増)、情報通信業3件(同50.0%増)が、それぞれ3年ぶりに増加した。
一方、卸売業は3件(同50.0%減)で、2年ぶり前年度を下回った。不動産業は前年度と同件数の1件、金融・保険業は2年連続で発生しなかった。
業種別では、一般貨物自動車運送業(5→9件)、土木工事業(2→5件)、豆腐・油揚製造業、貨物軽自動車運送業、中古自動車小売業、配達飲食サービス業、通所・短期入所介護事業(各ゼロ→2件)などで前年度を上回った。産業別で件数が最も多かったサービス業他は、焼肉店、そば・うどん店、酒場,ビヤホール、エステティック業、劇団、有床診療所、看護業、介護老人保健施設などでも「人手不足」関連倒産が発生した。
【形態別】ほとんどが消滅型の破産
形態別では、「破産」が77件(前年度比50.9%増、構成比97.4%)で、3年ぶりに前年度を上回った。ただ、空前の人手不足だった2019年度(145件)の半分にとどまった。
一方、再建型の「民事再生法」は1件(前年度ゼロ)で、3年ぶりに発生した。
業績不振が続く企業は、資金繰りに余裕がなく給与水準が低い企業が多い。このため、求人をかけても従業員の増員は難しく、一方で賃上げ機運が高まるなか、より良い待遇を求めて従業員が退職するケースも少なくない。
コロナ禍の停滞から経済活動が本格化しつつあるが、人手不足で受注に応えられないことから事業継続が困難となり、破産を選択するケースが多い。
【負債額別】1億円未満が約6割
負債額別では、「1億円未満」が47件(前年度比62.0%増)で、3年ぶりに前年度を上回った。構成比は59.4%で、前年度の55.7%より3.7ポイント上昇した。1億円未満のうち、「1千万円以上5千万円未満」が34件(前年度比142.8%増)で、3年ぶり前年度を上回った。一方、「5千万円以上1億円未満」は13件(同13.3%減)で、3年連続で前年度を下回った。
このほか、「1億円以上5億円未満」が23件(同15.0%増)で4年ぶり、「5億円以上10億円未満」が7件(同250.0%増)で3年ぶり、「10億円以上」が2件(同100.0%増)で4年ぶりに、それぞれ前年度を上回った。
【地区別】9地区のうち6地区で増加
地区別件数は、9地区のうち6地区で前年度を上回った。減少は中国の1地区、同件数は北海道と中部の2地区だった。
東北6件(前年度比200.0%増)と関東32件(同68.4%増)、近畿7件(同75.0%増)、九州15件(同66.6%増)が3年ぶり、北陸1件(前年度ゼロ)と四国4件(前年度比100.0%増)が4年ぶりに、それぞれ前年度を上回った。