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コロナ禍の巣ごもり需要で市場拡大、リスキリング支援も追い風に 通信教育業界は2年連続増収も、収益は悪化

~ 「通信教育事業者」動向調査 ~


 教室などの施設を保有せず、オンラインなどを主体とした通信教育事業の主要73社の最新決算は、売上高合計が3,601億900万円(前年比2.8%増)で、2年連続で増収だった。一方、利益合計は18億8,800万円の赤字に転落した。赤字企業率は31.8%で、前期(25.6%)より6.2ポイント悪化した。

 コロナ禍のリモートワークの浸透や巣ごもりなどで、自宅でも手軽に習得できるeラーニング需要が高まり、資格取得や語学、趣味などの通信教育の市場が拡大している。
 ウィズコロナ時代のニーズにマッチした「非接触型」のビジネスモデルが受け入れられるとともに、政府が後押しする人材開発のリスキリング支援の追い風にも期待がかかる。その一方で、競合や低価格、初期投資の負担などで逆に収益は悪化し、採算確保の難しさも浮上している。
 通信教育業界は売上高5億円未満の事業者が6割以上(66.0%)、資本金1,000万円未満もほぼ半数(51.6%)と小規模事業者が中心で、売上高100億円以上の大手は5社にとどまる。
 ニーズの高まりを背景に、多くのサービスと事業者が乱立しており、市場規模の拡大と同時に競合がますます加速する可能性が高まっている。

※本調査はTSR企業データベースから、主・従業種が日本標準産業分類で「社会教育通信業」、通信教育事業や通信講座の運営を手掛けている主な企業を抽出した。
※通信教育事業を実施していても、主力事業が教室などの施設を有する業態の企業は除外した。
※2022年1月期~12月期の決算を最新期決算とし、売上高と最終利益(もしくは売上高と最終利益のいずれか)が判明した企業(118社)を対象にした。


コロナ禍で2期連続増収

 3期連続で業績の比較が可能な73社の最新期の売上高の合計は3,601億900万円(前年比98億9,500万円増、2.8%増)と増収だった。
 実質的にコロナ禍1年目となる前々期(売上高合計3,320億8,000万円)からの3年間を比較すると、前期に引き続いて2年連続で増収だった。
 一方、最新期の利益合計は18億8,800万円の赤字で、前期(94億600万円の黒字)から大幅に落ち込み、利益悪化が鮮明となった。
 競合激化による利益率の低下に加え、サービスを開始して間もない企業はシステム関連の初期投資や広告宣伝費などの負担が重く、採算が悪化したとみられる。


通信教育事業者 73社の業績

増収企業は4割超え

 最新期の売上高が増収企業は43.1%で、減収企業の35.2%を7.9ポイント上回った。
 増収企業の構成比は、前期と比べ3.3ポイント落ち込んだが、2年連続の4割超えで減収企業を約8ポイント上回り、堅調な市場拡大を続けている。

通信教育事業者 対前年増減収別

最新損益 赤字企業率が上昇

 損益別の構成比では、最新期は黒字が68.1%に対して赤字が31.8%だった。赤字企業率は前期(25.6%)から6.2ポイント上昇し、3年間で初めて3割を上回った。
 プレイヤーの増加とともに、事業計画通りの受講生を確保できず、採算割れに陥る企業が増えている。

通信教育事業者 損益別

売上高5億円未満が6割超え

 最新期の売上高別(対象112社)では、最多が売上高1億円未満の48社(構成比42.8%)。次いで、10~50億円未満が27社(同24.1%)、1~5億円未満が26社(同23.2%)と続く。
 売上高5億円未満の小規模企業が74社(同66.0%)で、6割以上を占めた。
 一方、100億円以上は5社(同4.4%)にとどまり、売上高の最大は(株)ベネッセコーポレーション(TSR企業コード:712135910、岡山市)の1,894億2,100万円で、2位の(株)ユーキャン(TSR企業コード:290956471、新宿区、売上高380億3,482万円)を大きく引き離した。


通信教育事業者 売上高別

2000年代創業が約半数

 業歴別は、10~50年未満が最多の62社(構成比52.5%)で、全体の約半数を占めた。以下、50~100年未満が37社(同31.3%)、5~10年未満が13社(11.0%)と続く。
 2000年代の創業が54社と、半数近くを占め、インターネットなど通信インフラの整備とともに創業した企業が多い。一方、業歴50年以上の企業は、公益法人や一般社団法人が運営する特定のジャンルの教育支援などが中心。

通信教育事業者 業歴別



 2022年10月、岸田首相は所信表明演説で個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じると表明し、通信教育業に注目が集まっている。特にオンライン上でサービスが完結するeラーニング関連は、コロナ禍でのニーズとマッチして成長を続けるが、距離的・時間的な制約がなくリスキリングとも親和性は高い。
 施設の確保をはじめ、多大なランニングコストが必要な学校形式の業態と比較すると、通信教育事業はシステム開発等はあるがコストを抑えられるメリットがある。このため、受講料を安価に設定できる点も消費者の支持を得ている。
 一方で、直近決算では収益悪化の事業者が目立ち、プレイヤーの増加による競合や差別化による選別が進んでいる実態も透けて見える。今後は、施設を持つ従来型の教育関連業者の通信教育への本格参入も予想される。充実した講座のラインナップや特色あるコンテンツなど、他社との差別化を通じた顧客の囲い込みがますます重要になっている。

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