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上場企業の雇調金活用は861社、累計1兆円弱に 支給額100億円超は鉄道、航空を中心に16社

~第12回上場企業「雇用調整助成金」調査~


 新型コロナ感染拡大に伴う雇用支援策で、2020年4月分から適用された雇用調整助成金(以下、雇調金)の特例措置制度が3月末をもって終了する。上場企業は3,918社(2023年3月17日時点)のうち、2割超(21.9%)の861社が雇調金を受給したことが分かった。日本国内で初めて感染が確認されてから3年が経過し、この間、対面でのサービス提供を行う外食やサービス、小売、交通インフラ、観光などを中心に、雇用維持に活用された。

 雇調金の特例措置を活用した上場企業861社への支給額は、3年間で累計9,226億1,244万円(判明分)にのぼり、100億円以上を計上した企業は16社あった。
 このうち、半数を超える9社が航空会社や鉄道会社などの運送関連だった。特に、鉄道会社は旅行や出張需要の低迷や、在宅勤務の急増による鉄道利用の減少に加え、系列の百貨店やホテルなどの関連企業も休業や時短営業を余儀なくされ、人余り状態に陥った。
 2022年3月以降は、全国で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除され、外食や観光など、大きな打撃を受けた業種でも需要が急回復し、雇調金の申請は急減した。
 3期目の雇調金計上額は、ピークだった1期目と比較して89.8%減の502億5,600万円に減少。サービス業などでは、需要回復と併せて採用活動も活発化した。
 一方、未上場企業を含めて雇調金の不正受給が各地で摘発されている。コロナ禍の雇用維持に効果を発揮した雇調金だが、今後の制度維持のためにも活用状況の検証が必要だ。

計上額別

※ 本調査は、雇用調整助成金の受給、または申請を情報開示した上場企業を対象に、2020年4月1日~2023年3月7日までの開示資料で金額、および活用や申請を記載した企業を対象に集計した。今回の調査は、12回目。2020年4月期から2021年3月期決算までを1期目、2021年4月期~2022年3月期決算を2期目、2022年4月期決算以降を3期目とする。


【計上額別】「100億円以上」は16社、うち9社が「運送」

 上場861社の計上額は、最多が1億円以上5億円未満の288社(構成比33.4%)だった。次いで、1億円未満248社(同28.8%)、10億円以上50億円未満119社(同13.8%)、5億円以上10億円未満67社(同7.7%)と続いた。
 100億円以上は16社で、このうち4社が300億円以上を計上した。16社のうち、9社が鉄道、航空を含む運送業。次いで、観光を含むサービスと外食が各3社、カラオケ機器の販売・リースを主に手掛ける卸売が1社だった。


申請社数・計上額推移

【業種別】業種別では製造が最多、一方で計上額は運送(鉄道・航空)がトップ

 上位6業種を受給企業数の推移でみると、1~3期目すべてで製造が最多だった。次いで、観光やテーマパークなどを含むサービスが続いた。
 一方、1期目と3期目を比較すると、企業数の減少率では、トップが卸売(81.8%減)で、以下、製造(78.5%減)、サービス(77.6%減)の順。鉄道・航空を含む運送は56.8%減で、航空会社は長期にわたる減便等が雇用に影響した。
 上位6業種の計上額は、外食とカラオケ機器の販売を含む卸売が2期目で増加に転じた。外出自粛や度重なる営業制限から、需要低迷が長引き、人員施策に影響した。

上位6業種 受給企業数の推移



 雇調金の特例措置の受給が判明した上場企業は、2020年4月からの3年で861社を数えた。この間の計上額は、判明分だけで9,226億1,244万円と1兆円に迫る。
 累計100億円超を計上した企業は16社に拡大し、300億円以上の計上は4社だった。上位は、航空会社や観光、アミューズメント関連、鉄道会社、外食が占めた。対面型サービス業で、多くの人員を擁する労働集約型産業が最も打撃を受けたことを示している。
 東京商工リサーチが集計した「上場企業の早期希望退職調査」でも、2020年は外食の募集が5年ぶり、観光の募集が10年ぶりに、それぞれ発生した。雇調金の活用が進んだ一方で、これらの業種では大規模なリストラ策も並行して進めた。
 2021年末以降、外食や宿泊などのサービス関連は需要が徐々に回復し、人手不足が顕在化してきた。これを裏付けるように、2023年1月まで15カ月連続でこれらの業種で新規求人が前年を上回る水準で推移している。雇用環境は、コロナ前の水準まで復調してきたが、雇用支援を巡っては不正受給防止のための支給基準の見直しや、産業間の人材移動とリスキリングなどの課題も浮かび上がった。3月で特例措置は役目を終えるが、今後の緊急時の雇用支援のあり方も問われている。

上位6業種の計上額推移

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