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下請け体質からの脱却、待遇改善に向けて世界を見据える縫製業界

 円安や新興国の経済成長など海外生産のコストアップで、一部の国内アパレルメーカーでは国内回帰に向けた取り組みを進めている。そうしたなか、国内縫製業は下請け体質からの脱却と適正価格での受注促進に努めている。
 2022年(1-12月)の縫製業(外衣・シャツ製造業)の倒産は37件(前年比32.1%増)と急増した。コロナ禍の長引く需要減に加え、原材料高騰、人手不足、そしてコロナ関連の支援効果の薄れも響いた。
 こうした状況下で、下請け体質から脱却し、コストアップに見合う適正価格で加工賃を得られるモノ作りを実現できるか。縫製工場は転換期を迎えている。


アパレルの海外生産、いびつな下請け構造

 国内のアパレルメーカーは、生産コストの削減を目的に1970年頃から中国を中心とした海外に生産拠点を移転した。一方、近年の国内需要は人口減少などで海外からの衣類の流入は頭打ちだ。日本繊維輸入組合の衣類輸入状況によると、2020年の衣類輸入量(ニット製、布帛製など)は94万7360トンと、100万トンを割り込んだ。10年前の2011年から約14万トン減少している。
 こうした動きを背景に、縫製業界はアパレル各社からの受注減と薄利の加工賃が、積年の課題として重くのしかかる。「アパレル業界は製品の上代価格のうち、製造における原価を約2割に抑えるのが一般的。製造の一端を担う縫製の加工賃は約1割以下」と業界関係者は口を揃える。「アパレルに先に上代価格を設定され、加工賃が通知される。工場側から価格交渉の余地はなく、見積書をこちら側から出したことがない」と業界特有の悪しき慣習を指摘する。
 さらに、かつては取引金額が事前に決まらず、約束手形の振り出しなど支払いが確約される商慣習が定着せず、受注後に「歩引き」(下請け代金の減額)となるケースが頻発したという。「注文を受ければ受けるほど、赤字が累積して倒産する」と言われる所以(ゆえん)だ。


コロナ特需も終わり、倒産件数は増勢へ

 コロナ禍の行動制限で、国内アパレルの主戦場だった店舗は相次いで休業や時短営業に追い込まれ、縫製業界も痛手を受けた。
 それでも2020年春、全国の縫製工場が加盟する日本アパレルソーイング工業組合連合会(アパ工連)に国から特需が舞い込んだ。中国からの輸入が停止した医療用ガウンの生産依頼で、全国の約150社が携わった。追加発注を含めると約400万着を手掛けた。だが、特需が2022年春に終わると、再び厳しい状況に直面した。
 東京商工リサーチ(TSR)の調査によると、2022年の縫製業(外衣・シャツ製造業)の倒産は37件(前年比32.1%増)に増えた。ただ、負債総額は31億7300万円(同20.6%減)と小・零細事業者が中心だった。倒産の約7割が婦人・紳士服縫製業で、そのうちテレワークやカジュアル化が進む紳士服は13件で、前年比2倍超に急増した。
 業界関係者は、「紳士服の縫製工場はスーツが主力で、型が婦人服のように多様性がなく、独自性が発揮しにくい。その分だけ安価な海外品との価格競争に巻き込まれやすい。工程数が多く、人手も要し、客先からは短納期を求められ、生計を立てるのは難しい」とため息をもらす。



コロナ後は国内回帰も

 縫製業界では、コロナ禍で取引が途絶えていた国内のアパレルメーカーからの問い合わせが急増しているという。コロナ禍で海上コンテナの不足や輸送費の増大、円安進行、人件費上昇などで日本へ生産拠点を回帰する動きも一部で起きている。
 しかし、「見積書を見ると、加工賃が安すぎて話にならない。コスト削減を目的に海外生産にシフトしており、その感覚が拭えない限り、日本で採算が合う訳がない」(業界関係者)と、アパレル業界のコスト意識の鈍さに半ば呆れる声も聞かれる。
 人手不足が深刻な地方の縫製工場では、外国人技能実習生が労働力を下支えしていた。だが、コロナ禍で入国できず、都市部の縫製工場は業績不振で採用活動を手控えた。こうした動きが生産力低下を招いた。
 アパ工連の白石正裕副会長は、「縫製業は女性が多く、(退職がある程度発生するため)定期的に人を補充しないと自然と人手不足になる業界」と話す。足元はコロナ禍の行動制限の緩和で、昨秋から需要が復調している。「生産力が低下した現状では、(国内回帰といっても)新規の注文を受けるほど生産余力はない」(白石副会長)という。生産体制の強化なしに、国内回帰によるV字回復は難しそうだ。


縫製工場の今後の在り方とは

 都内で婦人服の縫製業を営む(株)辻洋装店(TSR企業コード: 293132968)の辻庸介会長は「売上が増加すれば、待遇改善や人材育成もできる。魅力的な職種になれば、人も集まってくる」と、業績改善が高齢化や人手不足の解決につながると期待する。
 アパ工連の白石副会長も「今が縫製工場の地位向上を図る好機」という。下請けからの体質改善を目指し、全国の縫製・ニット工場11社で、日本のモノ作り発信を目的とした「J∞QUALITY FACTORY BRAND PROJECT」を推進。今年1月にはイタリアの展示会に初出展を果たし、ブランド確立に向けて動き出した。


社員の縫製技術が会社の価値に直結する(辻洋装店)



アパレルメーカーの海外依存、そしてコロナ禍で「スリム化」した縫製業界は、転換期に差し掛かっている。生き残りには、不採算の注文に「ノー」と言える対等な関係作りへの意識改革が不可欠だ。
 アパレルメーカーが、複数の縫製工場を囲い込んでいたのは昔の話だ。国内アパレルにかつての勢いがない今、縫製工場がアパレルメーカーに依存する時代は過ぎ去った。縫製工場は、アパレルメーカーの国内回帰という細い線に頼らず、技術力の高さを世界に積極的にアピールする戦略が必要だろう。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年2月28日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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