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コロナ禍の赤字法人率66.1%、10年ぶりの悪化

~2022年公表の都道府県別「赤字法人率」調査~

 国税庁が2022年に公表した「国税庁統計法人税表」によると、2020年度の赤字法人(欠損法人)は186万4,249社だった。コロナ禍初年度の赤字法人は、全国の普通法人281万8,077社の66.1%に相当し、前年度の65.4%から0.7ポイント上昇した。赤字法人率が前年度を上回るのは、2010年以来、10年ぶり。


 都道府県別の赤字法人率は、ワーストが徳島県の71.9%(前年度73.0%)。2007年度から14年連続でワーストが続く。一方、最も低かったのは青森県の61.7%(同62.2%)で、2015年度以来、5年ぶりに首位に立った。前年度まで4年連続でトップを守っていた沖縄県は、主要産業の観光業や建設業が深刻なコロナ禍の影響を受けたことで、赤字法人率が64.5%(同60.8%)に悪化し、16位に後退した。
 産業別では、ワーストは小売業の72.8%(同73.9%)。次いで、製造業70.3%(同67.6%)、サービス業他69.3%(同68.0%)の順。10産業のうち、5産業で悪化した。運輸業は64.7%(同60.2%)で、前年度から全産業最悪の4.5ポイント悪化した。一方、金融・保険業67.2%(同69.0%)や情報通信業64.3%(同65.8%)の2産業は1.5ポイント超の改善となった。
 リーマン・ショック後の2010年度以降、赤字法人率は9年連続で改善が続いた。だが、2020年度はコロナ禍で、10年ぶりの悪化に転じた。長引くコロナ禍とコロナ関連支援の広がりが、企業業績にどう影響を及ぼしたか、2021年度以降も注視が必要だろう。

※本調査の赤字法人率は、普通法人を対象に「赤字(欠損)法人数÷普通申告法人数」×100で算出した。
普通法人は会社等(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、協業組合、特定目的会社、相互会社)、企業組合、医療法人などを含む。


赤字法人率66.1% 10年ぶりの悪化

 2020年度の全国の普通法人281万8,077社のうち、赤字法人は186万4,249社(年2回の複数納税を含む)だった。赤字法人率は66.1%で、前年度から0.7ポイント上昇した。また、赤字法人数も前年度に比べ2.8%増(5万1,917社増)で、2年ぶりに増加に転じた。
 赤字法人率はリーマン・ショック後の2010年度に75.7%を記録したが、それ以降は9年連続で減少をたどっていた。しかし、2019年度末から拡大したコロナ禍の影響で、2020年度の赤字法人率はリーマン・ショック直後以来の上昇となった。
 ただ、2020年度の赤字法人率66.15%は、過去15年では2018年度の66.11%に次ぐ3番目の低水準で、コロナ禍の影響と支援策がいずれも本格化した2021年度以降の動向が注目される。

都道府県別 30都道府県で赤字法人率が上昇

都道府県別で、赤字法人率が前年度より悪化したのは30都道府県だった。全国の赤字法人率66.1%を上回ったのは21都府県、下回ったのは26道府県。
 赤字法人率の最小は、青森県の61.7%(前年度62.2%)。2015年度以来、5年ぶりに全国最小となった。次いで、佐賀県61.9%(同62.1%)、福井県63.3%(同63.3%)、北海道63.3%(同62.8%)、長崎県63.5%(同64.1%)の順。
 2016年度から4年連続で赤字法人率が最小だった沖縄県は、前年度から3.7ポイント増と最大の悪化で64.5%(同60.8%)となり、16位に転落した。観光業が主要産業の沖縄県は、コロナ禍の外出や旅行自粛、インバウンド蒸発の影響を大きく受けた。
 赤字法人率ワーストは、14年連続で71.9%の徳島県だった。ただ、前年からの改善幅は1.1ポイントで最大だった。以下、長野県69.7%、香川県69.3%、栃木県68.9%、群馬県68.7%の順。
 徳島は、地場産業の木工関連の不況や少子高齢化、人口減少でサービス業他の業績低迷のほか、医療・福祉関係の競合などを背景に、赤字法人率が高くなったとみられる。


赤字法人数、41都道府県で増加

 都道府県別の赤字法人数は、41都道府県で増加した。最も増加率が大きかったのは沖縄県で、前年度比11.4%増(1万5,743→1万7,548社)。唯一、増加率が10%を超えた。次いで、京都府の同5.6%増(3万7,666→3万9,802社)、大阪府の同5.4%増(14万6,954→15万5,011社)、山梨県の同4.8%増(1万539→1万1,051社)の順。
 一方、減少率では、最も大きかったのは秋田県の同0.6%減(9,792→9,724社)。次いで、徳島県が同0.57%減(1万1,391→1万1,326社)、青森県が同0.56%減(1万2,008→1万1,940社)、山口県が同0.26%減(1万4,122→1万4,084社)、長崎県が同0.20%減(1万3,423→1万3,395社)、島根県が同0.1%減(7,271→7,262社)の順。減少は6県だった。



全地区で赤字法人率上昇、近畿は1.5ポイント悪化

 地区別の赤字法人率は、9地区すべて前年度より悪化した。最も上昇幅が大きかったのは近畿(63.8%→65.3%)で、1.5ポイントの悪化となった。  赤字法人率が最も低かったのは、北海道の63.3%(前年度62.8%)で、4年連続。次いで、北陸64.3%、九州64.9%、近畿65.3%、東北65.6%、中国65.7%、中部66.7%、関東66.8%の順。
 最も赤字法人率が高い地区は、四国の68.7%で、前年度からは0.05ポイント悪化した。


産業別 10産業中、5産業で悪化

産業別の赤字法人率では、最大が小売業の72.8%(前年度73.9%)。次いで、製造業の70.3%(同67.6%)、サービス業他の69.3%(同68.0%)、農・林・漁・鉱業の68.1%(同68.4%)の順。2産業以上で赤字法人率が7割を超えるのは、2015年度以来5年ぶり。
 最も赤字法人率が悪化したのは、運輸業の4.5ポイント増(60.2→64.7%)、最も改善したのは金融・保険業の1.8ポイント減(69.0→67.2%)だった。悪化も改善もそれぞれ5産業だった。




 2010年度以降、9年連続で改善が続いた赤字法人率は、2020年度は66.1%で前年度から0.7ポイント上昇した。2020年に開催予定だったオリンピック特需などで、2019年まで企業の業績改善は進んでいた。だが、一転して2020年度はコロナ禍が直撃した格好で、赤字法人率はリーマン・ショック時以降の10年ぶりの悪化となった。
 都道府県別では、沖縄や京都など国内観光客やインバウンド需要に依存した地域で、ひと際赤字法人率が上昇した。長引くコロナ禍で2021年度以降も一時的な悪化が懸念される。
 赤字法人率は、コロナ禍が企業に与えた影響を改めて浮き彫りにしている。コロナ禍の支援が一巡した後、企業が独り立ちできるには、どのような支援策が必要か検討が求められる。

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