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今年の入学式に制服が間に合うか 大手制服メーカー、販売業者に「生産の遅れ」を通知

 新年を迎え、受験シーズンが本番を迎える。昨年、入学式までに制服が新入生の手元に届かなかったことが大きな問題になった。
だが、今年も入学式に間に合わない可能性が浮上し、販売業者らに不安の声が上がっている。昨年秋、学生服の販売業者にメーカー各社から今春に出荷予定である制服の生産遅れを告げる連絡が入ったためだ。
メーカーの“生産遅れ”は、販売会社から新入生への納品遅れにも直結する。期限内納品を目指して情報収集に走り回る制服販売の現場を東京商工リサーチ(TSR)が取材した。

 2022年4月。満開の桜に囲まれ、真新しい制服に身を包んで入学式に臨むはずの新入生の手元に前日になっても制服が届かなかった。このショッキングな内容がSNSにアップされると、瞬く間に拡散され、大きく報道された。
制服の相次ぐモデルチェンジや新型コロナによる工場の稼働低下に伴う生産遅れ、物流の混乱など、幾つもの要因が重なった結果だった。
どんな理由を並べようと、入学式に真新しい制服を着ていくはずだった新入生に言い訳は通用しない。矢面に立たされた制服販売会社の(株)ムサシノ商店(TSR企業コード:290415373、武蔵野市)の田中秀篤社長は、最後まで制服の納品に奔走し、頭を下げ続けた。今年は絶対に同じ事態を繰り返さない固い決意で、人員や物流設備を増強し、万が一にも不測の事態が起きないように万全を尽くしている。だが、そんな努力を台無しにしかねない連絡がメーカーから入った。
新入学生の制服納品スケジュールは、中学・高校の合格発表(1月下旬~)から徐々に増え、2月の私立高校の発表、3月の公立高校の発表、私立の2次募集と発表が行われる3月下旬まで多忙を極める。
大手メーカーや販売業者などによると、今春入学予定の中・高校生の制服は、全国700校以上でモデルチェンジが予定されている。2022年春は約450校だったから、約1.5倍の中・高校で制服が変更されることになる。デザインの変更だけでなく、LGBTなどジェンダー対応によるもので、「これまで詰め襟の学ランを採択していた公立中学校でもブレザーに変更する動きが全国で広がっている」(制服メーカー)という。
一方、中国のゼロコロナ政策、ロシアのウクライナ侵攻で、原材料の調達や物流がスムーズにいかなくなり、メーカーでは制服生地の調達に支障が生じている。また、コロナ禍で日本国内で縫製に従事する外国人労働者も手薄となっていることも影を落とす。生地の入荷は2022年10月から11月に「例年にないほど生地が入らず、12月に入りようやく入荷ペースが正常化に向かった」(前同)という。

販売業者は状況把握に奔走

 2022年10月、ムサシノ商店の田中秀篤社長は、複数の大手メーカーの担当者から「2023年春納品分の生産スケジュールが遅れている」と説明を受けた。昨年春の反省から、物流の拡充や緊急時の人員対応など、自社で可能な限り対策はとっている。だが、「例年でも入学式前にぎりぎりの納品が通例なのに、さらに入荷が遅れると言われたら・・・」と沈痛な表情を隠さない。
ムサシノ商店では春の納品に向け、在庫を保管するスペースを外部施設にも広げた。繁忙シーズンに備え保管スペースを従前の1.2倍に増やし、繁忙期の作業要員も強化した。 
同じデザインの制服は、多くても数百人の生徒がターゲットだ。そこに様々なサイズが必要になる。典型的な“多デザイン、小ロット販売”で、仕入コストも大幅に上昇している。元々、利幅が限られており、新たな設備投資は経営への負担が小さくない。
それでも田中社長は、「二度の過ちはできない」と取り組んできた。「何とか生産を正常化してほしい」と、苦しい胸の内を明かす。

「制服が間に合わない」、行政の対応は

 2022年4月、都立高校の入学式を目前に控えた東京都教育委員会(都教委)は、メディアの問い合わせで初めて入学式に臨む新入生の手元に制服が届かないことを知った。
都教委は情報の入った当日、都立高校に緊急措置を通達した。内容は、①学校が不足分の制服をあらかじめ用意し、制服が届くまで貸与する、②入学式に中学校の制服や私服での出席を可能とする、③全員に制服が届くまで記念撮影を行わない、の3点だった。
都立高校の入学式が行われた4月7日。制服の納品が遅れた学校では、制服を貸与するなどの措置を取って式は予定通りに敢行された。ただ、「数十名の生徒に制服が間に合わなかった」という事実は、行政にとっても次年度に向けた課題となった。

今春に向けた都教委による対応策

 一般的に都立高校の制服採寸は、合格発表当日に行う。近年は私立と複数校の併願やその他の事情で、採寸を後日に先延ばしすることも少なくない。そこで都教委は2022年8月、都立高校に対して合格発表日に採寸を行うことを合格者や保護者に呼び掛けるよう通達した。また、販売業者にも「採寸日から納品日までのスケジュール」を明示するよう呼び掛けた。都教委は、「期日までに生徒さんに制服が届くことが前提だが、前回(昨春)のような事例に備えて事前対応は欠かせない」と話す。

大手メーカーと販売会社の課題

 TSRの取材に応じたある大手メーカーは、今春の制服生産について、「生地が入荷した分から順に縫製など、急ピッチで製造工程に入っている」と説明する。一方で、「例年に比べて生地の入荷が遅れた分、生産が遅れている」と影響を認めた。
そのうえで、「いま契約している工場以外にも、別の工場と新たに契約して生産能力を増強した」と説明する。
また、販売業者に「生産の遅れ」を告げた別の大手メーカーは12月下旬、担当者がTSRの取材に応じた。「(昨春は)ムサシノ商店に迷惑をかけた部分もあったが、今年はほぼ計画通りだ。納品遅れはないだろう」と語る。
生徒やその家族と直に向き合う販売業者は厳しい局面が続く。田中社長は、「最終的に商品を学生さんに届けるのは私たち販売業者だ」としながらも、「生産の遅れを告げられた以上、私たち販売業者だけではなく、行政や実際に制服を着られる学生さんにも何らかのアプローチが必要だ」と訴える。
昨春の騒動で、制服と私服の議論が広がったが、3年間のコストを考慮すると制服が安いとの論も根強い。また、販売会社やメーカーが在庫を持つべきとの論もあるが、多様なデザイン、サイズが必要で現実的ではない。発注から納品までの時間をどう短縮するか。制服がある限り、この命題との戦いが続く。

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