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音楽雑誌「GrindHouse Magazine」で給与未払い 憧れの仕事と果たされなかった約束

 国内外のロックミュージシャンのインタビューやライブレポートなどを掲載し、音楽ファンを中心に人気を集めた音楽雑誌「GrindHouse Magazine」。2018年秋に休刊したが、発行元の(有)グラインドハウス(TSR企業コード:296354708、目黒区)の元従業員らが給与未払いをめぐり、同社と代表を提訴していることがわかった。
裁判のなかでグラインドハウスは、取引先への未払いや従業員の保険も未加入など、ずさんな経営の責任を追及されている。

「GrindHouse Magazine」は2000年に創刊された音楽雑誌で、2012年から無料のフリーマガジンに移行した。発行元のグラインドハウスの代表者は、世界的に人気のMETALLICA(メタリカ)やRED HOT CHILL PAPPERS(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、GREEN DAY(グリーン・デイ)、LINKIN PARK(リンキン・パーク)などの人気バンドをいち早く日本で紹介した人物としても知られる。代表者自身が音楽業界やロックファンの間では有名で、自身がパーソナリティを務める「GrindHouse FM」は各地のFM局でギュラー放送されていた。

従業員への給与が未払い

 グラインドハウスの元従業員X氏は、ロックが好きで音楽雑誌の仕事に携わることを夢見ていた。憧れの編集に携わるチャンスをつかみ、2017年7月からグラインドハウスで働き始めた。だが、在籍した2018年5月までの10カ月間の給与のうち、約143万円が未払いとなった。
その後、別の仕事に就きながら訴訟準備を進め、2022年4月に代理人を立てず、ひとりでグラインドハウスと代表者を相手取り、未払い給与の支払いを求め東京地裁に提訴した。
X氏への未払いは入社直後の2017年7月分から始まり、代表者のポケットマネーから“日当”として、わずかながらの賃金や交通費が都度払いされるのみで、ほぼ毎月10万円以上が未払いの状況にあった。X氏の業務は、雑誌の受注や納品、編集、事務処理、ミュージシャンやレコード会社など外部関係者や取引先との連絡調整、またラジオ番組の制作補助、YouTubeにアップロードする番組動画のディレクションと撮影・編集など多岐に渡った。
念願のロック雑誌の仕事を続けたいとの思いが強く、「未払い分を払ってほしいと言いにくい環境にあった」という。
グラインドハウスの仕事は多忙を極めたが、給与が満額支払われたことは一度もなかった。X氏はグラインドハウスの仕事だけでは生活できず、自宅近くの飲食店でアルバイトしながら生活費を補填していた。

X氏の入社以前にも同様の事例が

 関係先への取材によると、X氏が入社する1年以上前から従業員の給与遅延は始まっていた。X氏より先にグラインドハウスで働いていた従業員2名の給与遅延は、2016年1月から始まったという。 
2名のうちのひとり、Y氏は、度重なる給与の遅延などを理由に2017年3月に退職。Y氏は退職後、代表者に「未払い分を少しずつでもいいから、しっかり払ってほしい」と訴えたという。これに対し、代表者は「俺は逃げも隠れもしない」、「絶対、全額支払う」などと弁明したが、その後もY氏に未払い分が支払われることはなかったという。結局、Y氏は未払い給与約190万円、経費33万円の支払いを求め、2017年東京地裁に提訴し、勝訴した。2016年1月から2018年までの未払い賃金は従業員3人分で約700万円に及ぶとみられる。
裁判資料などによると、Y氏の在職当時、グラインドハウスが社員に加入していたのは「雇用保険のみ。社会保険や厚生年金は完備されていなかった」という。代表者中心の小規模経営で、雑誌の編集、発行はフリーランスの人が従事することも多い業界特有の事情もあったのかも知れない。経営者側には、保険加入の会社負担を避けたい意識があったとしても、働く環境としては法に準拠していない劣悪な環境であったという。
そもそもグラインドハウスは、入社時に書面で結ぶ雇用契約が存在せず、「雇用にずさんな対応が続いていた」(Y氏)という。

資金繰りの悪化は前から続いていた

 元従業員らによると、グラインドハウスの資金繰り悪化は、少なくとも2016年初めには始まっていた。Y氏ら従業員への給与遅延のほか、代表者が複数の知人らに「うちの会社に投資してほしい」と相談をもちかけ、金を借りる行為を繰り返していたという。
また、X氏が複数の関係者にヒアリングしたところ、代表者が知人から金を借りる際は、借用書や領収書を作成せず、「口頭でいつまでに返すとの約束もなかった」という。
さらに、取引先である印刷会社やウェブ関係の業者にも未払い、カナダのバンドをはじめ、グラインドハウスが持つ音楽レーベルからCDを発売した複数のミュージシャンへの印税も未払いで、再三にわたって督促があったことが判明している。2018年には税金の支払いが滞納したとして、ある区役所がグラインドハウスの口座を差し押さえている。
こうした賃金や取引先への未払い、関係先からの借入を含めると現在、少なくとも千数百万円の負債を抱え込んでいることになる。

 元従業員のX氏は、グラインドハウスに勤めた10カ月ほどの間、週4~5日、朝から晩まで雑誌の編集作業に携わる傍ら、アルバイトしなければ生活できなかった。X氏はグラインドハウスを離れ、今は別のメディアで仕事に就いている。
その会社はもちろん、給与遅配などもなく、残業代も規定通り払われているという。音楽雑誌の編集の仕事は、音楽が好きな人やライターを志す人には、いつまでも“花形”の存在なのだろう。
だからこそ、こうした従業員の熱い想いを利用した“やりがい搾取”のような状況も起きかねない。X氏は、「これは特別なケースではなく程度の差こそあれ、雑誌など小規模のメディア関連の会社はこうした境遇の人がいるだろう」と語る。
X氏の賃金未払い訴訟は12月21日、判決を迎える。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年12月15日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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