• TSRデータインサイト

2023年度 「賃上げ実施予定」は81.6% 「5%以上」の引き上げは4.2%にとどまる ~2023年度「賃上げに関するアンケート」調査~

  来年度(2023年度)に賃上げ実施を予定する企業は81.6%だった。今年度(2022年度)実施した企業の82.5%からは0.9ポイント下落したが、2年連続の8割台で、コロナ前と同水準を維持している。

 規模別では、「実施する」は大企業の85.1%に対し、中小企業は81.2%で、中小企業が3.9ポイント下回った。2022年度に「実施した」企業では規模の差は6.6ポイントで、「実施率」は縮小した。
 産業別では、コロナ禍の回復が比較的早かった製造業に加え、建設業と卸売業も「実施率」が8割を超えた。一方、サービス業他や小売業などBtoC産業では、中小企業の「実施率」が大企業を上回り、業績改善を伴わない賃上げが企業収益を圧迫する可能性を残している。
 コロナ禍だけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻、急速な円安進行など、企業を取り巻く環境は不透明感が増している。だが、現状の物価高の下では、従業員の生活維持のために賃上げをせざるを得ない側面もある。業績との兼ね合いのなか、企業は難しい判断を迫られている。

  • 本調査は2022年10月3日~12日にインターネットによるアンケート調査を実施。有効回答4,433社を集計、分析した。
    賃上げの実態を把握するため、「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
    資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。
    前回調査は、2022年8月23日公表(アンケート期間:8月1日~9日)。

Q1.来年度、賃上げを実施予定ですか?(択一回答)


「実施する」がコロナ前と同水準の8割台

 回答企業4,433社のうち、「実施する」は81.6%(3,619社)だった。内訳は、最多が「引き上げ幅2~5%」の41.5%(1,842社)。次いで、「同2%未満」の35.8%(1,587社)、「同5%以上」の4.2%(190社)の順。
 2022年度に賃上げを「実施した」企業の82.5%を0.9ポイント下回ったが、実施率はコロナ前と同じ8割台となる見通し。
 規模別では、「実施する」は大企業の85.1%(471社中、401社)に対し、中小企業は81.2%(3,962社中、3,218社)で、差は3.9ポイントだった。2022年度の「実施した」は大企業が88.1%、中小企業が81.5%で、6.6ポイントの差があったが、規模による実施率の差は縮小した。

賃上げ動向推移

賃上げ動向推移

産業別 製造業、建設業、卸売業で「実施する」が8割超え

 Q1の結果を産業別で集計した。「実施する」の構成比が最も高かったのは、製造業の88.1%(1,339社中、1,180社)だった。
 10産業中、「賃上げ実施率」は 7産業で大企業が中小企業を上回った。規模による実施率の差が鮮明となったが、「サービス業他」「小売業」「不動産業」の3産業では中小企業の実施率が上回った。アフターコロナに向けた経済活動の再開で、人手不足が深刻な業種を中心に人材確保のためにも中小企業が賃上げを迫られている状況が浮き彫りになった。


Q2. Q1で「賃上げを実施する」と回答した方にお聞きします。内容は何ですか?(複数回答)


「ベースアップ」実施予定は約4割

 Q1で「実施する」と回答した企業に賃上げ内容について聞いた。3,615社から回答を得た。
 最多は、「定期昇給」の79.8%(2,886社)だった。以下、「ベースアップ」の39.0%(1,413社)、「賞与(一時金)の増額」の36.9%(1,336社)と続く。
 規模別では、中小企業の「ベースアップ」が39.2%(3,213社中、1,261社)、「賞与(一時金)の増額」が37.9%(1,220社)で、大企業の37.8%(402社中、152社)、28.8%(116社)をそれぞれ1.4ポイント、9.1ポイントずつ上回った。

賃上げ実施内容

     ◇         ◇          ◇
 来年度(2023年度)に賃上げを「実施する」予定の企業は、81.6%だった。2022年2月に2022年度の賃上げ実施予定を質問した際、71.6%(同年8月調査の賃上げを「実施した」企業は82.5%)だった。急激な物価上昇のなか、賃上げ実施に前向きな企業が増えている。
 連合による2023年春闘の賃上げ要求水準は、物価高などを踏まえて「5%程度」が見込まれるが、「5%以上の引き上げ」の予定は4.2%にとどまる。
 TSRが10月に実施した「業績見通しアンケート」調査では、2022年度の業績を「減益」「前年度並み」とする企業は63.6%に達した。6割以上の企業が今年度の業績が悪化、もしくは現状維持を見込んでおり、「賃上げは実施するが、賃上げ率は伸び悩む」可能性も出てきた。
 賃上げを「実施する」中小企業は81.2%で、大企業を3.9ポイント下回った。ただ、産業別では、サービス業他や小売業など人手不足が顕著なBtoC業種を中心に、中小企業の実施予定が上回った。
 物価高に対応するため、従業員への賃上げが切実に求められる一方、賃上げ原資が不足する可能性もある中小企業は、背伸びした無理な賃上げが経営悪化に直結しかねない。
 人材確保と業績改善の狭間で「賃上げ」に悩む中小企業は多い。


人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年1-6月「負債1,000万円未満」倒産 261件 2010年以降で3番目の高水準「破産」が約98%

2024年上半期(1‐6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)は4,931件で、年間1万件を超えるペースで増勢をたどっている。また、負債1,000万円未満の小規模倒産も261件(前年同期比6.9%増)で、2010年以降では3番目の高水準となった。

2

  • TSRデータインサイト

2024年上半期「バー」「キャバクラ」等の倒産47件 過去10年で最多、コロナ禍と物価高で変わる夜の街

コロナ禍が落ち着き、街にはインバウンド需要で外国人観光客が増え、人出が戻ってきた。だが、通い慣れたお店のドアは馴染み客には重いようだ。2024年上半期(1-6月)の「バー,キャバレー,ナイトクラブ」の倒産は、過去10年間で最多の47件(前年同期比161.1%増)に急増した。

3

  • TSRデータインサイト

上半期の「飲食業倒産」、過去最多の493件 淘汰が加速し、「バー・キャバレー」「すし店」は2倍に

飲食業の倒産が増勢を強めている。2024年上半期(1-6月)の飲食業倒産(負債1,000万円以上)は493件(前年同期比16.2%増、前年同期424件)で、2年連続で過去最多を更新した。現在のペースで推移すると、年間では初めて1,000件超えとなる可能性も出てきた。

4

  • TSRデータインサイト

2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」が年間最多 件数175件、流出・紛失情報も最多の4,090万人分

2023年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は、175件(前年比6.0%増)だった。漏えいした個人情報は前年(592万7,057人分)の約7倍の4,090万8,718人分(同590.2%増)と大幅に増えた。社数は147社で、前年から3社減少し、過去2番目だった。

5

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均は1ドル=143.5円 3期連続で最安値を更新

株式上場する主要メーカー109社の2024年度決算(2025年3月期)の期首の対ドル想定為替レートは、1ドル=145円が54社(構成比49.5%)と約半数にのぼることがわかった。 平均値は1ドル=143.5円で、前期から14.5円の円安設定だった。期首レートでは2023年3月期決算から3期連続で最安値を更新した。