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「介護事業倒産」減少から一転、コロナ禍の利用者減とコスト増で大幅増 倒産が本格化の兆し

 介護報酬の改定やコロナ関連支援策で減少していた「老人福祉・介護事業」の倒産が、2022年上半期(1-6月)は53件発生し、前年同期(38件)の1.4倍に急増した。コロナ支援は一部残るが、コロナ関連倒産も16件(前年同期11件)に増えた。今後、運営コストの増大や感染者数の再拡大も危惧され、年間では過去最多だった2020年の118件を上回る可能性も出てきた。
 業種別では、最多が訪問介護事業の22件(同22件)。ヘルパー不足や高齢化などの問題を抱えながらも、利用者の緩やかな回復などで前年同期と同件数だった。
 次いで、デイサービスなど「通所・短期入所介護事業」が17件(前年同期比54.5%増)と大幅に増加。大手事業者との競争が続き、固定費の上昇も響いた。前年同期ゼロだった「有料老人ホーム」も8件と急増。投資重く、コロナ禍で業績悪化が追い打ちを掛けたケースもみられた。
 介護報酬は2021年に0.7%増、2022年もプラス改定で、介護職員の賃上げなどの整備が進むが、長引くコロナ禍の影響が尾を引いている。利用者数の回復遅れや感染防止対策へのコスト負担、人手不足など、老人福祉、介護事業者を取り巻く環境は依然として厳しい。
 資金繰りを支えた実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)も、据置期間が終了し元本返済と利払いが始まる事業者が増えている。コロナ支援効果の薄れに加え、今年に入り食材や光熱費が高騰している。コスト増の価格転嫁が難しい業界だけに、こうした状況が続くと倒産や廃業が本格化する可能性も高まっている。 

  • 本調査対象の「老人福祉・介護事業」は、有料老人ホーム、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業などを含む。

倒産は一転して、大幅増に

 2022年上半期(1-6月)の「老人福祉・介護事業」倒産は、53件(前年同期比39.4%増)で、介護保険法が施行された2000年以降、過去最多の2020年同期の58件、2番目の2019年同期の55件に次ぐ、3番目の高水準だった。
 負債総額は149億8,500万円(同775.8%増)と前年同期から約9倍に急増、年上半期では3年ぶりに100億円を上回った。負債1億円未満は42件(構成比79.2%)で、全体の約8割を小・零細事業者が占めたが、負債10億円以上の大型倒産が3件(前年同期ゼロ)発生し、負債を押し上げた。
 2022年上半期(1-6月)は、「通所・短期入所介護事業」が17件と前年同期の11件(前年同期比54.5%増)から大幅に増えた。競争激化とコロナ禍での利用者の伸び悩みが影響した。
 また、ヘルパー不足が常態化する「訪問介護事業」も22件と、前年同期と同数だった。有料老人ホームは前年同期は発生がなかったが、2022年上半期は8件発生。投資負担が重く、競争激化による利用者減で事業者の息切れが目立った。

介護1

原因別ほか

原因別では、最多が販売不振(売上不振)の38件(前年同期比40.7%増、前年同期27件)。
 次いで、設備投資過大が4件(同300.0%増、同1件)、事業上の失敗(同50.0%増、同2件)、他社倒産の余波(同200.0%増、同1件)、既往のシワ寄せ(同25.0%減、同4件)が各3件で続く。
 コロナ禍前の水準に利用者が戻らず、売上不振が7割超を占めた。さらに、積極的な設備投資の負担に耐えられなかった倒産も目立った。

形態別、消滅型が94.3%
 形態別では、破産が45件(前年同期比18.4%増、前年同期38件)と全体の8割超(構成比84.9%)を占め、特別清算が5件(前年同期ゼロ)で、消滅型が全体の94.3%だった。一方、再建型の民事再生法は3件(同ゼロ)にとどまった。

負債額別、1億円未満が約8割
 負債額別では、最多が1千万円以上5千万円未満の36件(前年同期29件)。次いで、1億円以上5億円未満が7件(同1件)、5千万円以上1億円未満が6件(同7件)の順。
 負債1億円未満が42件と全体の約8割(構成比79.2%)を占め、小規模の事業者が中心だが、負債10億円以上も3件(同ゼロ)発生し、負債の大型化も進行している。

従業員別、5人未満が5割超
 従業員別では、5人未満の28件(前年同期29件)が最も多く、5人以上10人未満(同8件)と10人以上20人未満(同ゼロ件)が各9件と小規模の事業者が大半を占めた。一方で、50人以上300人未満が3件(同ゼロ)、20人以上50人未満の4件(同1件)と従業員の多い倒産も増えている。

地区別件数、関東地区が最多
 地区別では、全国9地区のうち、北陸を除く8地区で倒産が発生した。最多は関東の16件(前年同期12件)。次いで、中部(同4件)と九州(同6件)が各9件、近畿(同9件)と中国(同1件)が各6件、北海道の3件(同2件)、東北(同2件)と四国(同1件)が各2件の順だった。
 都道府県別では、神奈川の6件(同2件)が最多で、大阪の4件(同4件)、北海道(同2件)と東京(同7件)、愛知(同1件)が各3件と続く。

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 2021年はコロナ関連の支援策や介護事業者向けの支援が浸透したほか、介護報酬のプラス改定もあり、倒産は過去最多から一転して急減した。しかし、コロナ支援策が徐々に縮小し、人材確保に難航する事業者が増加。円安の進行で食材や衛生用品などの値上げが相次ぎ、光熱費も上昇するなどコスト増が響き、2022年は大幅に増加した。
 介護を専門とする東洋大学の高野龍昭准教授は、「2015年以降、公定価格である介護報酬が低い水準に据え置かれ、小規模事業者を中心に経営体力が弱まっている。そこに、利用者減少やかかり増し経費(新型コロナ感染による通常の介護費用とは別の追加費用)増加というコロナ禍の影響を被った。2021年は政府によるコロナ禍関連の経営支援策が効いていたものの、2022年はその支援策の縮小と物価高騰によるコスト増が経営を圧迫し、倒産が増えた」と指摘。今後について高野准教授は、「都市部では過当競争が、地方では高齢者人口減少による利用者確保難が予測され、介護事業者にとっては厳しい経営環境が続く」と見通す。  事実上、サービス料金が一定の介護事業者は、価格転嫁が難しい。コスト増加分がそのまま負担増に直結するが、すでにコロナ融資など資金調達枠が一杯で、資金繰りの悪化による倒産増が見込まれる。
 また、感染者数の再拡大で、利用控えや従事者不足の再来も起きかねない。小規模事業者が多く、コロナ禍で経営体力が落ち込んでおり、追加の支援などがなければ、2022年間の倒産件数は過去最多を更新する可能性まで出てきた。

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