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マレリHDの法的整理で露呈した“全会一致”の限界

 準則型私的整理の一種である事業再生ADRで再建を模索していたマレリホールディングス(株)(TSR企業コード:022746064)は6月24日、ADR手続きが不成立となり、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約1兆1,330億円。
 ADR手続きで検討されていた再建案は、対象債権者9割以上の同意を得ており、簡易再生での再建を目指す。マレリHDは商取引債権を全額弁済する方針だが、金融債務のみを対象とした私的整理のとん挫は、昨年改正された産業競争力強化法に大きな問いを投げかけた。

 事業再生ADRは、会社更生法や民事再生法などの法的整理とは異なり、裁判外での紛争解決を目指す。金融債権者を対象とする。裁判所を通さないため、憲法が保障する「財産権」や「法の下の平等」を超えることが出来ず、対象債権者の全会一致が原則だ。ただ、他の貸出先との兼ね合いで債権カットの行内調整がつかなかったり、自行に有利な条件を要求する金融機関もあり、全会一致に苦慮するケースもある。事業再生が必要な企業は多額の債務を背負っており、商品開発や設備投資など将来に向けた投資ができず、ADR手続きの長期化は事業価値の毀損をもたらすこともある。
 このため、2014年~2015年にかけ、事業再生ADRを念頭に多数決による成立が検討された。ここでの議論も踏まえ、根拠法の産業競争力強化法は以降2度にわたって改正された。昨年の改正では、事業再生ADRが成立しない場合、「簡易再生への移行」、手続きのなかで検討された「同一再建計画の成立見込みの予見性向上」が規定された。関係者の間では「ごね得の排除」と呼ばれ、金融債権者からみた場合の法的整理のインセンティブがほぼなくなるため、事業再生ADRの成立を後押しする効果が期待された。

 こうした流れを汲んだにも関わらず、マレリHDは一部の金融機関の反対で全会一致ができず、法的整理へ移行した。法的整理は「倒産」であり、期限の利益を喪失し、個別の契約条項の巻きなおしを迫られたり、与信限度額の引き下げ、最悪の場合、取引停止もあり得る。また、法的整理の申立では、株主や出資先、取引先の概要なども裁判所へ提出するが、こうした書類は一定の手続きを経ると閲覧可能でライバル企業に手の内を晒すことになる。
 国内の金融機関は、法的手続きによるこうした事業毀損が最終的に取引先の業績や従業員の待遇に結びつくことも考慮する。1社(グループ)への債権放棄による損失の方が、法的整理による計り知れない影響よりも小さいとの理屈だ。最近では、「地域の経済合理性」などで債権放棄を理論立てる動きもあった。
 だが、海外の金融機関は、当該企業の取引先や従業員と取引関係にないこともある。つまり、法的整理のインセンティブはないがデメリットもない。今回はこの盲点を突かれた格好だ。

 今年6月7日に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、「全ての貸し手の同意は必要とせず、裁判所の認可の下で事業再構築等に向けて多数決により権利変更(金融債務の減額等)を行う制度も存在する」と諸外国を例示しながら、「事業再構築のための私的整理法制の整備」を明記した。
 マレリHDのケースは、準則型私的整理の限界も垣間見せた。事業価値毀損の回避に向けたさらなる検討が急がれる。

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