• TSRデータインサイト

2021年度「焼肉店」倒産状況

 コロナ禍で飲食店に客足が遠のくなか、焼肉店は孤軍奮闘し2020年度の倒産はこの10年間で最少を記録した。他の飲食業より強力な換気能力を持つ換気扇が三密回避を印象付け、お一人様焼肉もヒットして焼肉店人気は根強かった。
 だが、コロナ禍は長引き、飲食業界は厳しさが増し、大手居酒屋チェーンが焼肉屋に業態変更するなど、焼肉人気を当て込んだ新規参入が目立ち、風向きが変わってきた。
 2021年度の焼肉屋の倒産は18件で、過去最少だった前年度の12件から一転して1.5倍に増えた。
居酒屋大手のワタミ(株)は、「居酒屋ワタミ」から「焼肉の和民」に業態を変更し、ラーメンチェーンの(株)幸楽苑ホールディングスも「焼肉ライク」を出店した。大手飲食業を巻き込み、焼肉店は安価なセット料金を売りにした店など、消費者の囲い込みが活発になっている。
 最近も元人気芸人の焼肉店の開店が話題になったばかりだ。だが、長引くコロナ禍でデリバリーや持ち帰りが定着し、焼肉店以外との競争も激しい。日本フードサービス協会によると、2021年の焼肉店の売上高は前年比9.2%減と苦戦し、2019年と比べると売上高は約2割(22.5%減)も落ち込んだ。
 2021年度に倒産した焼肉店18件のうち、14件は新型コロナ関連倒産だった。倒産原因が「販売不振」、また「負債1億円未満」の倒産は、ともに16件(構成比88.8%)と約9割を占めた。味や価格、店舗の雰囲気で顧客に選別された小・零細規模の店の淘汰が始まりつつある。
 いまは実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)や雇用調整助成金、感染拡大防止協力金などコロナ関連支援で倒産は抑制されている。焼肉店の倒産は、2021年度は2年ぶりに増加に転じたが、2012年度以降では3番目の低水準にとどまる。
 だが、コロナ禍で経営体力を消耗した焼肉店は少なくない。コロナ関連の支援効果も希薄化が進んでいる。焼肉店が客足を取り戻すため、どこまで消費者にアピールできるか。ブームだけで生き残るには難しい時期を迎えている。

  • 本調査は、日本産業分類(小分類)の「焼肉店」を抽出し、2012年度から2021年度までの倒産を集計、分析した。

度重なる緊急事態宣言などで不透明に

 焼肉店は、希少部位の提供でも人気に火が付き、コロナ禍でも三密回避で一人焼肉が注目された。
 最近の倒産は落ち着き、2012年度以降での最多は、2012年の33件だった。これは2011年の食中毒事件が影響し、全国的に業界が冷え込んだ時期にあたる。

焼肉

◇    ◇    ◇
 業界も衛生面に注力し、倒産は減少基調で増減を繰り返していた。2020年度はコロナ禍で飲食業の客足は一気に遠のいたが、焼肉店は支援策のほか、換気効果でお客の安心感を取り付け、さらに消費者のコロナ疲れによる“ペントアップ需要”で人気が広がり、過去最少を記録した。
 だが、焼肉業界が注目されたことで居酒屋など他業態から大手の参入が相次ぎ、競争が激化した。また、生活様式の変化でデリバリーや持ち帰りなどによる宅食も定着している。
 今後、ガス料金や仕入食材の高騰が収益を圧迫することが懸念される。焼肉店は他の飲食業界よりひと足早く、収益や店舗の取り組みを問われている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ